ドイツのインディーズデベロッパ・rose-engineが開発し,Humble GamesおよびPLAYISMにより2022年秋のリリースが予定されているアクションアドベンチャーゲーム「
SIGNALIS 」。6月12日に配信されたデジタルイベント「
Guerrilla Collective 3 」で,本作の発売日が10月27日となることと,PS4 / Nintendo Switch / Xbox Oneでもリリースされること(※日本での展開は不明)が発表された。
本作は,地球外惑星が開拓されている遠未来を舞台にした,サバイバルホラー系のタイトルだ。本稿では,6月3日にリリースされた
デモ版 のプレイレポートをお届けしよう。
SIGNALIS - Official Release Date Trailer
VIDEO
なおゲーム本編は日本語に対応する予定だが,デモは英語およびドイツ語のみ対応している。
ただし主人公が属する文化圏は,どういう歴史を辿ったのかドイツ系と中華系の文化が融合しているらしく,ゲーム内の物品はだいたいドイツ語と中国語が記されている
De ekster op de galg
主人公は
エルスター という名前の,宇宙船の技術者を担当している女性型レプリカ(簡単に言えばアンドロイド。英字の綴りはReplika)だ。何者かの呼びかけを受けて極低温カプセルから目覚めたエルスターは,乗機のペンネローズ型宇宙船が衛星軌道から惑星上に落着し,異常事態に見舞われていることを知る。
カットシーンでのキャラクターはピクセルアートで描かれている。ちなみに“エルスター”という名前はLSTR(Land Survey/Ship Technician Replika)にかけて名付けられたようだが,カササギの英語名でもあり,起動画面ではチップセットがKasasagi-6なるものであることを確認できる
基本的な操作は,ゲームパッドだと左スティックで移動・右スティックで向き指定,キーボード+マウスだと[W/A/S/D] で移動・マウスカーソルで向き指定となっている。ツインスティックシューター的な操作ルールだが,射撃武器を使うときは構えて(Lトリガー/右クリック)・撃つ(Rトリガー/左クリック)といった2段階の操作が必要だ。本作は
往年のサバイバルホラー に影響を受けていることが公言されているが,メニュー画面で見られる心電図風の体力表示や,キーアイテムの組み合わせ要素,アイテムを保管するボックスなどから,下敷き的な部分は初期の
「バイオハザード」 シリーズを踏襲していることが察せられる。
持ちきれないアイテムを保管するボックスや,近接戦闘&緊急回避用の電撃武器(prod=突き棒)など,「要するに王道のサバイバルホラーだな」といった雰囲気だ。ちなみに,いわゆる“ラジコン操作”にも対応している
エルスターはパートナーとして紐付けられているパイロットの
アリアネ・ヤン を探すのだが,探索する船内には奇怪なクリーチャーが複数存在する。デモで登場する個体は初期状態だと突っ立っているだけだが,視界に入ったり近づいたりすると,
悲鳴のような絶叫 と共に襲いかかってくる。クリーチャーは割と俊敏なので,交戦する場合は遠距離からの射撃が基本だ。
画像では分かりにくいが,クリーチャーは女性的なシルエットをしている
上半身が人型でないタイプも。何らかの要因で形態が変異するのかもしれない
敵は武器さえあれば倒せるが,銃の弾数は限られているし,何よりSteamストアページに
「本作において戦闘は最後の手段であり、限られた攻撃手段、強力な敵という状況を賢く判断し、戦うべきか否かという決断が必要となるでしょう」 と書かれている。本作では,スニーキングアクション的な要素が大きいようだ。
道中,ロックされたドアを開けるため,動力炉を調整しなければならないのだが,こういった場面は一種のパズルとなっている。パズルやキャラクターが映らないシーンのグラフィックスは,
「MYST」 に代表される1990年代の3Dアドベンチャーゲームを彷彿とさせるテイストだ。
リアクターの出力を上げ下げして炉心温度を適切な範囲に収めよう
エルスターは船内にアリアネがいないことを確認すると,気密服を装備して船外の探索へと向かう。広大な雪原を進むうち発見するのが,地面に穿たれた不可解な穴だ。
コックピットに貼られていた写真。高熱にさらされたのか半分ほど黒ずんでいるが,銀髪の女性がアリアネのようだ。この写真には,ある謎解きのヒントが隠されている
吹雪の中,人工物らしきものを目指して歩いていくと,巨大な縦穴を発見する。しかも「降りてこい」とでも言わんばかりに階段がある
穴の底に降り立ったエルスターは,さらに横穴を発見して潜り込む。その先にあったのは,古めかしい通信機が設置された小部屋だ。ここでエルスターが
“黄衣ノ王” という書籍を手にすると,通信機が勝手に動き出し,エルスターは幻覚に苛まれて機能停止してしまう。本作はコズミックホラーの要素を汲んでいることが謳われているが,恐らく邪神・ハスターが関係しているのだろう(※)。
※詳細は長くなるので掻い摘んで説明すると,ロバート・W・チェンバースが短編集「The King in Yellow」(邦題:黄衣の王)でハスターの名前を用い,オーガスト・ダーレスがハワード・P・ラヴクラフトの著作を中心としたクトゥルフ神話体系を整理する中でハスターを旧支配者のひとつとしたことから,TRPG「Call of Cthulhu」で“黄衣の王はハスターの化身”とまとめられて,それが定着している。
横穴に潜り込んでみるエルスター。サバイバルホラーでこういう道を通ると,決まってロクな目に合わないのだが
小部屋には,いろいろと気になる物が。後ろを振り返ると……通ってきた穴……は……?
古めかしい……と言うか,よく似たものが1980年代にソニーから発売されていた気がするコンピュータ。キーボードにカタカナが印字されているが,ここは日系組織の施設なのだろうか?
「呼ばれた」と感じたエルスターが“黄衣ノ王”を手に取ると,謎のフラッシュバックに襲われる。なおチェンバースによる小説内での“黄衣の王”は,読者を狂気へ引き込む詩劇が記された書籍で,とくに第2部が恐ろしいとされている
数々の奇妙なビジョンと意味深なメッセージ。これらが意味するものとは
ブルースクリーンのエラー画面でシステムダウンしてしまうエルスター。彼女はどうなってしまうのだろうか
One for Sorrow
ここまでがデモ版で体験できる内容だ。エルスターの当面の目的はアリアネを探すことだが,Steamストアページの紹介文には
「冷戦時代のユーラシア大陸をレトロSFの舞台とした」 や
「ディストピア世界」 などとあり,陰謀の気配が感じられるので,単なる遭難者の救出では終わらないだろう。三つ編みの女性や,PVで確認できる男性型レプリカがどのように関わってくるのかも気になるところだ。
近年,ローポリやピクセルアートのホラーゲームは散見されるが,低解像度の世界が恐怖感を強調することに“頼った”タイトルが多く,雰囲気作りに“活用した”と言えるものは少ない。その点,「SIGNALIS」はローポリやピクセルアートの持ち味をうまく吸収し,個性の発揮に成功していると感じられる。筆者はグチャドロ系SFホラーやサイバーパンクもの,クトゥルフ神話作品,レトロ風デジタルアートが好きなので,それらを含む本作に相当なバイアスがかかった目線を送っていることは否めないが(デモ版の雰囲気だけでも最高だ。エルスターもカッコカワイイし!),それを差し引いてもサバイバルホラーのファンなら要注目のタイトルだと言えるだろう。
本作の製作期間は,最初期のドキュメントから数えると8年以上におよぶという。それだけの熱意が込められたゲームがどのような仕上がりになっているのか,製品版に期待したい。