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印刷2021/08/23 16:50

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「クラフトピア」の“ユーザー駆動型開発”とコミュニティマネジメントが紹介されたセッションをレポート

 IDC実行委員会は2021年8月21日,インディーズゲーム開発者のためのオンラインカンファレンス「Indie Developers Conference 2021」を開催した。このカンファレンスは,個人または数人でゲーム制作を行っている開発者達が技術やノウハウ,知見などを共有し,開発者同士の結びつきを深めることなどを目的としたものだ。
 本稿では,ポケットペア代表取締役社長の溝部拓郎氏によるセッション「『クラフトピア』はいかにしてコミュニティの声を生かしながらアーリーアクセスを成功させたのか」をレポートする。

画像集#001のサムネイル/「クラフトピア」の“ユーザー駆動型開発”とコミュニティマネジメントが紹介されたセッションをレポート

 「クラフトピア」は,PC向けのオープンワールドクラフトサバイバルアクションゲームだ。溝部氏によると,本作はリリース開始後から「鳥に乗れる」「サーチライトを使える」といった,開発者が意図していなかった謎の挙動がユーザーにより次々と発見されているという。
 そうこうするうちに「クラフトピア学会」なるユーザーコミュニティが発足し,研究成果と称して謎の挙動を発表したり,ソースコードを勝手に解析してバグを指摘するユーザーが現れたりした。中には,本作をVR向けの3Dアバターファイルフォーマット・VRMに勝手に対応させたユーザーもいる。この仕様は公式に採用されただけでなく,そのユーザーもポケットペアに入社したそうだ。

画像集#002のサムネイル/「クラフトピア」の“ユーザー駆動型開発”とコミュニティマネジメントが紹介されたセッションをレポート
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 クラフト系のオープンワールドは自由度の高さがセールスポイントの1つになっているが,ユーザーが仕様までいじってしまう例はまずない。溝部氏は,狙ってこんなゲームを作ったわけではなく,「ユーザーがすごすぎ」「ユーザーが自分より仕様に詳しい」と表現した。

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 そんな「クラフトピア」の設計思想も披露された。通常,ゲームは最初にコンセプトを決めて,それに沿って企画・開発が進められる。すなわち,例え斬新で面白いアイデアがあったとしても,コンセプトに合わなければそのゲームには採用されない。溝部氏はこの手法を「コンセプト至上主義」「クリエイター主導型」とし,「ゲーム開発の基本で,重要」と語った。

コンセプト至上主義のメリットとデメリットも紹介された
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 しかし溝部氏自身はコンセプトにとらわれず,もっと柔軟にゲームを作りたいと考えているとのこと。「クラフトピア」も例外ではなく,「自身が遊んできた“神ゲー”の要素を全部入れたい」と考えて企画したそうだ。
 とは言え,コンセプトがハッキリしていないゲームはヒットが望めない。どうすれば売れるのかを考えた結果,当時注目を集めていたバトルロイヤル系のゲームをベースに,溝部氏の好きなゲームの要素を全部詰め込むことにしたという。

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 結局,4人の小規模チームでバトルロイヤルは作れなかったのだが,代わりに「クラフトピア」が生まれた。溝部氏は「コンセプト至上主義だったら,完全に破綻していたプロジェクト」とし,その開発スタイルを「なんでもあり開発」と表現した。
 なんでもあり開発は,文字どおり何でもありなのだが,1つだけ「ユーザーが面白がってくれるものを作る」というルールがあるという。ゲームを開発するうえで当然のようにも聞こえるが,溝部氏は「インディーズゲームの場合,開発者自身が作りたいものを作るケースが多く,それはそれで大事だが,ポケットペアはユーザーを主体にしたい。面白そうなものを作って,実際に面白いかどうかユーザーに問いかける。言わば「ユーザー駆動型の開発」と語った。

なんでもあり開発やユーザー駆動型開発は,10年ほど前に注目を集めた「リーンスタートアップ」の考え方に近いという
画像集#010のサムネイル/「クラフトピア」の“ユーザー駆動型開発”とコミュニティマネジメントが紹介されたセッションをレポート

 ユーザー駆動型のゲーム開発は,「何ができるか分からない」「まとまりのないものができる」「世界観が崩壊する」「ユーザー間で欲しいものが違う」「どこまで作れば良いか分からない」と,デメリットだらけだ。また仕様が頻繁に変わるので,開発者の忍耐力が問われるとのこと。
 その一方で,「作っていて楽しい」「フィードバックをすぐ活かせる」「ユーザーの反応を見ながら作るので低リスク」といったメリットがあるという。

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そのほかの「クラフトピア」の設計思想も紹介された
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 セッションのテーマとなっているコミュニティマネジメントだが,溝部氏らにはマネジメントをしている意識はなく,「ユーザーに遊んでもらっている」「ユーザーが協力してくれている」状態で,「自然発生的にコミュニティができた」という認識とのこと。とくに,コミュニティ内のモデレーター的な立ち位置にいるユーザーの存在が大きいという。溝部氏は,「そうしたユーザーが,積極的に応援してくれるからコミュニティが成立している」と感謝の意を示していた。

画像集#014のサムネイル/「クラフトピア」の“ユーザー駆動型開発”とコミュニティマネジメントが紹介されたセッションをレポート

 溝部氏自身のコミュニティマネジメントの手法は,Steamのガイドラインに掲載されていることをそのまま実行するだけだという。すなわち「ユーザーから意見を聞こう」「ユーザーと議論するな」というもので,とくに後者は「ユーザーと議論を交わしている時間があったら,ゲームの改良やバグの修正,新規コンテンツの開発に注力しろ」という意味である。

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 「クラフトピア」で,実際にユーザーの意見を活かした事例は数多くあるとのこと。本セッションでは,「最大の失敗」という事例が紹介された。本作には,「いろんな武器を使ってほしい」という意図に基づき,武器を使うと耐久度が減っていき,最終的に壊れてしまうというシステムがあるのだが,ユーザーからは不評だったそうだ。そこで武器を修理できるかわりに,最大耐久度が減るという仕様を実装したところ,やはり不評の声が寄せられたとのこと。

 それを受けて,改めて修理屋を実装し,修理時間を1時間に設定したのだが,これまたユーザーを怒らせてしまった。さらなる対応として武器の最大耐久度を上げ,修理時間も半分にしたのだが,それでも定期的に怒りのメッセージが届いたという。
 最終的に,「『クラフトピア』に,耐久度システムは合わなかった」と反省し,「今すぐ抜本的な修正は難しいので,暫定的に武器の耐久度を3倍にする」という仕様にしたところ,ようやく耐久度に関する意見が落ち着いたとのこと。
 溝部氏は,「最初の修正のときに,これでユーザーが怒らないかどうか,きちんと考えるべきだった」とし,「確固たる覚悟を持って入れるのであれば良いが,基本的にユーザーが不快感を示すものは入れるべきではない」とまとめていた。

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