プレイレポート
「殺し屋とストロベリー Plus」先行プレイ。“声を失った少女と,裏社会の人間たち”による純愛物語を,Nintendo Switchで楽しもう
本作は,2018年8月にリリースされたPS Vita用ソフト「殺し屋とストロベリー」に追加シナリオを加えたSwitch向け移植版だ。“声を失った少女と,裏社会の人間たち”という人物関係によって生まれる独特の雰囲気ある物語が,美麗なイベントスチルの数々や,手元でもテレビの大画面でも遊べるSwitchならではのプレイスタイルで思う存分楽しめる。
そんな本作を発売前にプレイできたので,オリジナルファンはもちろん“未プレイの人にこそ,今オススメしたい”と感じる,ゲームの特徴やその魅力をお伝えしよう。
「殺し屋とストロベリー Plus」公式サイト
声を失った少女と裏社会の男たちによる,謎深き恋愛ストーリー
本作の舞台は,現代日本のとある街。主人公のイチゴ(名前固定)が目を覚ますと,そこはレトロな佇まいの喫茶店だった。そしてそこには,この喫茶店――「喫茶 月影」のマスターだと名乗るツキミと,数人の男性が。ツキミいわく,イチゴはここまでジュラルミンケースに詰められて運ばれてきたという。
さらにツキミは,自身の本業は殺し屋で,喫茶 月影は“裏社会”の人たちが集まる店であることを告げる。しかし,今回は物騒な理由でここにいるわけではなく,イチゴを護衛するという依頼を受け,イチゴを保護するためこの店に集まったのだという。
このように,本作の物語はその冒頭から衝撃的だ。さらに驚かされるのが主人公イチゴの背景。ネタバレを避けるためここで詳しく伝えられないが,“とある事情”によって声を失ってしまっているのだ。しかも,人間らしい感情も失っており,その表情はどこか虚ろで人形のような雰囲気がある。
そんなイチゴのために,ツキミは筆談具としてスマホを用意していた。会話ができないイチゴが皆とコミュニケーションが取れるよう,スマホのメモのテキストをツールとして使用するよう勧めるためだ。
そしてイチゴは,ツキミから住み込みのウェイトレスとして働くよう告げられる。というのも,この店を出入りするのはほぼ常連客のみ。見知った顔の殺し屋や闇医者,武器商人といった人間しか入れないので,ある意味“安全”な場所だからだ。こうしてイチゴは,彼らと関わりながら“封じられた真実”を追いかけていくことになる。
■メインキャラクターとなる,喫茶 月影の店員と常連客
穏やかなマスター ツキミ(CV:田丸篤志) |
荒っぽいバリスタ イズナ(CV:石川界人) |
合理主義な闇医者 クラマ(CV:野島健児) |
年齢不詳の武器商人 ノイン(CV:花江夏樹) |
ノリの良いフリーの殺し屋 アモン(CV:八代 拓) |
硬派なボディーガード 長谷川(CV:前野智明) |
本編のシナリオは,主要キャラクターと出会う共通ルートののち,キャラクター個別のルートへと分岐する。最初はツキミ,イズナ,クラマ,アモン,長谷川のシナリオを選択可能だ。5人のすべての「恋愛エンディング」を見ると,物語の真相に迫るノインのシナリオが開放される。
いずれのシナリオも2種類のエンディングが用意されており,選択肢によってエンディングが変化する。いわゆる“バッドエンド”な展開のルートの中にもイチゴの秘密が明かされるシーンがあるなど,どのルートもその結末が気になって見逃せなくなるような仕組みになっているところも,本作の物語の特徴だ。
裏社会の人間たちが集まる場所だけあって,喫茶 月影ではなかなか物騒な出来事も起こる。闇医者のクラマのもとに血だらけのケガ人が駆け込んで来たり,常連の殺し屋たちがとある暗殺計画を立てていたり……と,それらの描写は死と隣り合わせの世界であると意識させられる。
また,ストーリーが進むと制限つきで外出できる機会が訪れる。デートもあれば緊迫したミッションもあり,喫茶にいるときとは違った表情を見せてくれる彼らにも注目だ。
ここからはメインキャラクター6人の魅力に迫っていきたい。まずはツキミ。彼は最初からイチゴに甘く,あれこれと世話を焼いてくれる。フリフリのガーリーな服が好きなようで,その趣味が露見すると周囲に冷やかされるなんてことも。微笑みを絶やさない彼は,表の人間,つまり一般の市民と変わらないように見えるが,殺しの仕事について語るときの冷たい表情はまさにプロといった感じがある。
イズナは,素っ気ない態度の中に男気がちらほら見えるところが魅力的だ。いつ味方が敵になるか分からない裏社会で生きているため,なるべく他人と深く関わらないようにしているが,その反面,イチゴが接客で困っているとそれをすぐに察知し手助けするなど,実は何かと面倒見がよい。主人公への気持ちに向き合ってからの彼も,なかなかグッとくるものがある。
手先が器用な医者だけど,人間としては不器用(?)なクラマ。複雑な事情を抱えたイチゴに対し医者として興味を持ち,さまざまな角度からイチゴを調べるも,結果それらは裏目に出てしまい,どう接していいのか戸惑うばかり。イチゴを喜ばせようと,大量の花とケーキでお出迎えするところはいじらしくもある。2人で過ごす静かな時間が,互いの心を溶かしていくのか? 要注目だ。
何でも調達できる武器商人のノインは,歯に衣着せぬ物言いをすることもあるが,気持ちを自覚した後の愛情表現も真っ直ぐ。ツン気味だけど頼れるノインの心意気は,彼をより魅力的に映し出す。また,本人以上にイチゴの身の回りや,心の状態を気遣ってくれるところも心が熱くなる。
「6人の中で最もピュアなのでは?」と思わせられるのがアモンだ。初対面からイチゴのことを気にかけており,プレゼントなどで元気づけようとしてくれる。賑やかな一方で,標的に対して心の折り合いをつけられる,殺し屋としては優秀な人物だ。しかし,そんな彼にも脆い部分があるようで……? ぜひ各ルートを追って彼のことを深く知ってほしい。
マフィアのボスのボディーガードとして喫茶店に出入りする長谷川は,腕っぷしはもちろん,語学堪能,裁縫・料理も得意。そしてスタイルも抜群の“理想の男性”だ。過去に壮絶な体験をしているようだが,それを感じさせないようにしているのか,本来の自分をあまり出さないようだ。しかし,その“過去”の経験からか,イチゴを守りたいという気持ちが働くようで,何かと細やかな気配りを見せてくれる。
ストーリー上,裏稼業に生きる人々の過酷な日常や,イチゴの過去に迫る辛い展開が描かれるが,それに負けないくらいの温かい場面や物語も楽しめるのが本作の魅力の一つ。その中でもこだわりを感じさせるのが,食に関する会話とその描写だ。料理やスイーツはもちろん,コーヒーの種類といったところまで,その描かれ方はかなり丁寧で,見ていてお腹が空いてくることもあるほどだ。
食の好みから,彼らの人となりが垣間見えるところも面白い。また,あるキャラクターのルートで触れられていた料理に関する会話や出来事が,別のルートで話題としてあがることもあり,そういった各ルートの“つながり”を感じられる場面を見つけるのも楽しい。
オリジナル版未プレイの人にも体験してほしい
喫茶 月影での特別なひととき
筆者は本作で初めて殺し屋とストロベリーをプレイしたのだが,未プレイの人にはぜひこの機会にイチゴたちの物語を体験してほしいと強く思った。ゲームを始めた当初は,「裏家業の人だらけの喫茶店? 設定も,話の始まり方もちょっと不穏な感じがあるな……」と身構えていたが,物語を進めるうちに,喫茶 月影に“居心地のよさ”を感じるようになったのだ。
店内に流れるゆったりしたジャズは温かい気持ちにしてくれるし,6人以外のお客さんにも素敵な人たちがいる。彼らの交わす会話が若干物騒だったり,質問の誘導が巧妙だったりと“プロっぽさ”が滲むこともあるけれど,基本は皆,優しい。ぜひ喫茶 月影で,特別なひとときを過ごしてほしい。
主人公のイチゴは,特殊な生い立ちであるがゆえ自分自身と重ねられるタイプではなかったが,その心境や気持ちの変化が丁寧に描かれているので,自然な形で彼女の思いが伝わり,そして応援できるようになっていた。
イチゴの秘密が明らかになるノインの真相ルートでは,これまでのルートの「あのシーンはそういうことか!」とハッとさせられる展開やニクい演出がたくさんある。ぜひ,すべてのキャラクターのルートを進めてから,本作の物語の真相を見届けてほしい。
最後に,忘れてはならないのが,追加ストーリーとなる「After Story」。各キャラクターの恋愛エンドのその先が描かれており,彼らの想いや思い出話などもフルボイスで語られる。本編をプレイして「甘いシーンをもっと!」と感じた人は,こちらでたっぷり堪能してほしい。
「殺し屋とストロベリー Plus」公式サイト
(C)BROCCOLI Illust.Yone Kazuki