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Zen 4世代のCPU「Ryzen 9 7950X」「Ryzen 9 7900X」レビュー後編。非ゲームアプリではAlder Lakeを圧倒する性能を発揮する
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印刷2022/09/30 21:09

レビュー

非ゲームアプリではAlder Lakeを圧倒する性能を発揮する

AMD Ryzen 9 7950X,Ryzen 9 7900X

Text by 米田 聡


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 9月30日に発売となるAMDのデスクトップPC向け新型CPU「Ryzen 7000」シリーズのうち,上位モデル「Ryzen 9 7950X」と「Ryzen 9 7900X」については,ゲーム性能検証を掲載済みだ。本稿では,積み残しになっていたゲーム以外の性能を検証してみよう。

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 9月30日19時に国内発売となる,AMDのデスクトップPC向け新世代CPU「Ryzen 7000」シリーズのレビューが解禁となった。本稿ではファーストインプレッションとして,ラインナップ上位モデルである「Ryzen 9 7950X」と「Ryzen 9 7900X」のゲーム性能をチェックしたい。

[2022/09/26 22:00]


Precision Boost Overdriveを加えた6パターンをテスト


 今回は,ゲーム性能テストに続くテストなので,機材や設定は完全に同じものを使用する。再掲ではあるが,テストするCPUの概要と使用機材を表1,2に示しておくので,参考にしてほしい。

※1 Core i9-12900KはP-coreの動作クロックを示す
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※クリックすると詳細版を表示します
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 ゲーム性能テストでは,オーバークロックは行わなかったが,今回はCPU性能を重点的に見るテストでもあるため,簡単なオーバークロックを試してみた。といっても,PCが不安定になるギリギリまで攻めたオーバークロックではなく,AMD公式のオーバークロックソフト「Ryzen Master」を用いて,Ryzenシリーズでは最も手軽に試せて,動作が不安定になることもあまりない「Precision Boost Overdrive」(以下,PBO)をテストしてみることにした。

 おさらいになるが,Precision Boost Overdriveとは,CPUの電力リミッタを外すことで,より長時間の最大クロック動作を可能にする自動オーバークロックの一種だ。Ryzen Masterで外すことができる電力リミッタは,「Package Power Target」(PPT),「Thermal Design Current」(TDC),EDC(Electrical Design Current)の3つである。
 今回のテストで用いたASUSTeK Computer製マザーボード「ROG Crosshair X670E Hero」では,この3つを最大1000W,および1000Aまで引き上げることができた。もちろん,CPUにこれだけの電力や電流を供給するのは非現実的であるから,ソフトウェア側でリミッターをなくして,どこまで上がるかは測定環境次第で変わると理解してほしい。当然ながら,今回のテスト環境でも上限まで上がることはなく,電流は最大でも230A程度までだった。

PBOを利用することで3つのリミッタを1000まで引き上げられる
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 PBOを用いた設定は,「Ryzen 9 7950X(PBO)」「Ryzen 9 7900X(PBO)」として,定格動作と加えてテストしていこう。
 また,全般にCPU負荷が高いテストを行うこともあり,液冷CPUクーラーである「ROG RYUJIN II 360」のファンおよびポンプの設定を,「ターボ」プリセットに引き上げている。ターボプリセットは,積極的に冷却を行う動作モードで,簡易液冷クーラーで可能な最大の冷却ができると考えていい。

 実行するテストは,ベンチマークレギュレーション25の「CPU性能検証」を基本とするが,Ryzen 7000シリーズの「Zen 4」アーキテクチャ採用製品は初登場という点を考慮して,PCテストソフト「AIDA64」(version 675)などを使って基本的な特性を,まず先にチェックしていこう。


新対応のAVX-512はまずまずの性能か?


 まずは,Ryzen 7000シリーズの新しい要素からテストしていく。
 ゲーム性能テストでも軽く触れたが,Ryzen 7000シリーズでは,Ryzenとして初めて「AVX-512」に対応している。AVX-512は,対応しているアプリが多いとはいえないが,深層学習向けの拡張命令セット「VNNI」も,AVX-512に含まれている。
 Ryzen系のプロセッサは,これまで深層学習向けアクセラレータを実装してこなかった。しかし,Zen 4世代でのAVX-512対応により,深層学習への対応をアピールできるようになる。というわけで,AVX-512の性能をIntel製CPUと比較しておくことにしよう。

 ただし,第12世代Coreプロセッサは,公式にはAVX-512に対応していない。第12世代CoreプロセッサのP-coreは,サーバー/ワークステーション向けXeonプロセッサのCPUコアを流用しているため,AVX-512を実行するハードウェアを備えている。しかし,E-coreはAVX-512に対応しておらず,第12世代Coreプロセッサ全体としても,公式にはAVX-512に対応しなかった。
 なにより,最近出荷された第12世代Coreプロセッサは,AVX-512そのものが無効化されているそうだ。ただ,初期に出荷されたものは無効化されていないので,AVX-512を実行できる。筆者の手元にあるCore i9-12900Kも,AVX-512に対応できる初期ロットなので,これとRyzen 7000シリーズをAVX-512で比較した。とはいえ,Core i9-12900KにおけるAVX-512の性能は,あくまで参考値であることをお断りしておきたい。

CPU instruction setでAVX-512を選択できる
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 さて,レビュー前編でも触れているとおり,3DMarkのTime Spy Extremeでは,「Custom Run」を選択することで,AVX-512を使用したCPU testを実行できるので,これでAVX-512のおおまかな性能を測ってみよう。

 結果はグラフ1のとおりだ。なお,Ryzen 9 5950XはAVX-512に対応していないので,テストから除外している。

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 Ryzen 9 7950XだとPBOを有効にしたほうがスコアが大きく低下しているが,これはミスでなく,PBOを有効にするとしばしばスコアが低下する現象が見られた。後段で触れるが,どうやらPBOが無効でも温度の上限に達しているためにこうなるようだ。
 見てのとおり,Ryzen 9の2製品がCore i9-12900Kより高いスコアを記録している。PBO無効のRyzen 9 7950Xは,Core i9-12900Kの約1.55倍だ。一方のRyzen 9 7900Xは,PBO有効無効でほとんど差がなく,スコアはCore i9-12900Kの約1.24倍となっている。Core i9-12900Kは,P-coreでしかAVX-512を実行できない。つまり8コアで実行しているのに対し,Ryzen 9 7950Xは16コア,Ryzen 9 7900Xは12コアなので,その差が出たと言えよう。
 ただ,ここで考慮が必要なのは,解説記事にあるとおり,Zen 4世代ではAVX-512を256bitずつ2回に分けて処理しているという点だ。

 2回に分けて単純にスループットが半分になると仮定したうえで,CPUコア数の差も考慮すると,Ryzen 9 7950XやRyzen 9 7900Xのスコアは高い性能を示していると言えるだろう。8コアながら,512bitのデータパスでAVX-512を処理できるCore i9-12900Kと,256bitのデータパスで16コアのRyzen 9 7950Xは,大雑把に言えば同程度のスコアになりそうなところ,1.55倍のスコアを記録しているためだ。
 実装の目的でもあるAI処理で,どこまで威力を発揮できるのかは,今後の見どころになりそうだ。

 もうひとつ,Ryzen 7000における新要素として,統合型GPUの存在がある。解説記事でも触れているが,ゲームで使えるような性能のGPUではない。とはいえ,「どの程度の性能を持つか知りたい」という人もいるだろうから,3DMarkのFire Strikだけ実行してみた。

Fire StrikeでRyzen 9 7950X+統合GPUの性能を計測した結果
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 右の画像は,AMDがリリースしたばかりの「AMD Software Adrenalin 22.9.2」をインストールして,Ryzen 9 7950XでFire Strikeを実行した結果である。
 見てのとおり,スコアは約2000と,解像度1920×1080ドットでも描画負荷の軽い3Dゲームすら楽しめるか怪しい程度の性能しかないと考えていい。ドライバソフトの完成度もまだまだのようで,たとえば,PCMark 10がビデオ会議のテスト中にドライバの応答がなくなって止まるという不具合も確認している。
 少なくとも現時点では,Ryzen 7000シリーズの統合GPUはせいぜいWindowsのデスクトップを表示する程度のテスト使用に留めるほうが無難だろう。


Ryzen 7000のメモリ周りはまだ成熟不足か


 続いては,AIDA64を使ってZen 4コアのごく基本的な特性をざっくり押さえておくことにしよう。グラフ2は,AIDA64のベンチマークから,メインメモリ帯域幅テストの結果をまとめたものだ。

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 Core i9-12900KとRyzen 7000シリーズは,テストに用いたメモリモジュールは異なるものの,メモリクロック設定はDDR5-6000設定で揃えた。そのうえで,Ryzen 9 7950X/7900Xのメモリリード,メモリライト,メモリコピーは,おおむね横並びで,前世代のRyzen 9 5950Xと比較して約1.35〜1.4倍の性能を発揮している。
 Ryzen 9 5950XはDDR4-3600設定なので,おおむね妥当な性能向上と言えるのだが,同じDDR5-6000設定のCore i9-12900K比では,0.8〜0.9倍にとどまっている。十分なメモリアクセス性能が出ているとは言えないスコアだ。
 なお,今回はZenシリーズにおける「Infinity Fabric」のオーバークロックはしていない。Infinity Fabricのクロックを引き上げれば,もう少しメモリアクセス性能を伸ばすことができるだろう。

 グラフ3はメモリレイテンシの結果をまとめたものだ。

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 なかなか評価が難しい結果である。Core i9-12900Kは,「CAS Latency」が40Tのメモリモジュールを使用しているが,Ryzen 9 7950X/7900Xでは同30Tで,10もCAS Latencyが小さいメモリモジュールを使っていることを,押さえておかねばならない。
 一方,メモリコントローラがI/Oダイにあり,CPUパッケージ内部のファブリックで接続されるRyzen系は,メモリのレイテンシがIntel製CPUよりも大きくなりがちだ。実際,DDR5メモリよりもレイテンシが小さくなるであろうDDR4-3600を使用するRyzen 9 5950Xは,メモリレイテンシが62.4nsで,やや小さいレイテンシを記録している。

 とうわけで,Ryzen 9 7950X/7900Xの66〜67nsという数値は,メモリレイテンシが大きくなりがちなRyzen系のアーキテクチャを,低レイテンシメモリがカバーすることで,Core i9-12900Kと比べて約2ns大きい程度に収まったという見方が妥当であろう。
 逆に言えば,Core i9-12900K並のメモリレイテンシに収めたいなら,Ryzen 7000シリーズでは,低レイテンシなメモリモジュールを使うべき,と言えようか。AMD独自のDDR5メモリオーバークロック規格「AMD EXPO Technology」(以下,EXPO)は,低レイテンシメモリをトライアンドエラーなしに利用できるので,その点でも意味がある仕様なのだろう。

 続くグラフ4,5に,AIDA64のベンチマークから整数演算系のテスト結果をまとめておく。

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 まず,Ryzen 9 7950X/7900XにおけるPBOの効果を見ておくと,Ryzen 9 7950Xは「CPU Queen」で有意にスコアが高いものの,それ以外は,おおむね横並びか,PBOのほうがむしろスコアが低い。CPU Queenは,短時間のテストなので熱の影響を受けにくく,PBOの効果が出たのだろう。
 一方のRyzen 9 7900Xは,PBOのほうがごくわずかにスコアが高い傾向が見られるものの,逆転しているテストもあり,差は誤差範囲と言っていい程度だ。よって,PBOの効果は薄いという結論になるだろう。

 Ryzen 9 5950Xとの16コア製品同士で比較すると,例外的な「CPU AES」の結果を除けば,Ryzen 9 7950Xはおおむね1.26〜1.45倍のスコアを記録した。CPU AESだけは,Ryzen 9 5950Xが異様に高いスコアを叩き出すのだが,これは以前からそうだ。アクセラレータの関係なのだろうか。CPU AESを異常値として除外すると,平均38%ほどのスコア上昇となっており,AMDが主張する29%を大きく超えている。よってZen 4世代は,整数演算に関して順当以上に性能を伸ばしたと言えよう。実際,12コアのRyzen 9 7900Xが,16コアのRyzen 9 5950Xを上回るスコアを叩き出しているのが,その証拠だろう。

 Core i9-12900K比でも,Ryzen 7000シリーズは,極めて優秀なスコアを残した。唯一,「CPU Photoworxx」のみはRyzen 9 7950Xのスコアが振るわず,Ryzen 9 7900Xにもわずかだが届かない。CPU Photoworxxは,x86命令セットのみを使ってメモリ周りに負荷をかけるベンチマークなので,テスト実行時にメモリ周りになにかの問題が生じたのかもしれない。
 なお,Core i9-12900KのCPU Photoworxxのスコアが有意に高いのは,メモリ周りのテストで見たように,メモリ帯域幅およびレイテンシが,Ryzenよりも低いためであろう。

 AIDA64のベンチマークから浮動小数点演算を用いるテスト結果を,グラフ6にまとめた。

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 まず,PBOの効果は,Ryzen 9 7950XとRyzen 9 7900Xのどちらもほぼ見られない。わずかに高いスコアを記録することもあるが,誤差範囲だ。
 一方,Ryzen 7000シリーズのスコアは,全体的に極めて優秀だ。前世代の16コアとの比較を見ると,1.25倍〜2倍以上という好成績を収めた。Core i9-12900Kに対しても,ほとんどのテストで2倍以上の好スコアだ。

 12コアのRyzen 9 7900Xも優秀で,競合のCore i9-12900Kに対して1.54〜1.8倍と圧倒した。
 とくに著しく伸びたのが,「FP32 Ray-Trace」と「FP64 Ray-Trace」だ。この両テストでは,AVX2やFMA4といったSIMD命令を使用する。ゲームテストのTime Spy Extremeでも触れたとおり,Ryzen 7000シリーズにおけるAVX2の処理性能は極めて高いようなので,その効果が出ているのだろう。

 AIDA64のテストを見てきたが,演算性能に関してはほぼ文句なしで,AMDが主張する29%をはるかに超える性能を持つと言えそうだ。12コアのRyzen 9 7900Xでさえ,ほとんどのテストでCore i9-12900Kを超えるスコアを叩き出す。
 競合にやや及ばない部分があるとすれば,メモリ周りだろうか。逆に言えば,メモリ周りを重点的にオーバークロックすることで,Ryzen 7000シリーズの性能は,さらに伸ばせそうだ。


ゲーム録画の性能は競合と同程度か上回る


 ここからは,レギュレーション25に準拠したテストを見ていこう。まずは,OBS Studio(version 28.0.2)を使用したゲーム録画のテストからだ。

テストで用いたOBS Studioの録画設定
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 今回は,ビデオの録画解像度を2560×1440ドットに上げたうえで,中程度の負荷となる高画質よりの「medium」プリセットと「animation」チューニングを使用しつつ,CRF値を高画質よりの「20」に引き上げることでCPU負荷を高めに調節する設定を使用した。

 OBS Studioを使った録画に関しては,16コアや12コアの歴代Ryzen 9が高い性能を見せつけてきたが,第12世代Coreプロセッサが登場したことで,Ryzen 9が有利とは言い難くなっていた。そこが変わったかを,実際の録画で見てほしい。


 録画のスムーズさ自体は,どのCPUでもほとんど変わらないが,左上に拡大したフレームレートの表示に注目してほしい。Ryzen 9 5950Xでは,ワーストケースで200fps台に落ち込むのに対して,Ryzen 9 7900XやRyzen 9 7950Xでは,300fps台以上をキープしているのだ。

 また,Ryzen 9 7950XやRyzen 9 7950X(PBO)は,頻繁に400fps台に到達する一方で,Ryzen 9 7900XやCore i9-12900Kだと400fps台に到達する頻度がやや低いようだ。つまり,Ryzen 9 7950XはCore i9-12900Kを肩を並べるか,やや上回るゲーム録画性能を持ち,Ryzen 9 7900XもCore i9-12900Kとおおむね同程度の性能を持つと考えられる。
 なお,PBOの効果は,2製品ともほとんどないとみていいだろう。


優秀ながらもRyzen 9 7950Xには若干の扱いづらさも


 レギュレーション25におけるゲーム以外のベンチマークテストの結果を見ていこう。
 グラフ7は,「PCMark 10」(version 2.1.2563)のテストである「PCMark 10 Extended」から,Fire Strikeをウインドウモードで実行する「Gaming」を除いたスコアをまとめたものだ。
 なお,今回もGPUアクセラレーションを無効化するとベンチマークが完走しない現象が見られたので,GPUアクセラレーションが有効な状態でテストを行っている。また,PBO有効時にGamingのテストがトラブルを起こすことがあったため,今回はカスタム実行を行った。よって,総合スコアは得られていない。

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 まず,PBOの効果だが,Ryzen 9 7950Xだとほぼ見られないか,むしろ逆効果だ。Ryzen 9 7900Xでは,若干だが有意なスコア上昇が見られる。
 Ryzen 7000シリーズのスコアは,非常に優れたもので,Ryzen 5000世代では,Core i9-12900Kに逆転を許していた「Essentials」や「Productivity」でも競合並みか,それ以上のスコアを記録するようになった。感覚的なことを言うと,Ryzen 9 7950X搭載システムを初めて起動したときに,「サクサクだな」という第一印象を受けたので,Ryzen 9 7950XとRyzen 9 7900XのWindowsにおける使い勝手はとても優れていると言えよう。

 レイトレーシングや写真の加工といったマルチコアが効くテストを含む「Digital Content Creation」も,Ryzen 9 7950XとRyzen 9 7900Xは競合や前世代を上回った。Ryzen 9 7900Xの非PBO設定でさえ,Core i9-12900Kや16コアのRyzen 9 5950Xを上回るスコアを出すのだから,その優秀さがうかがい知れるというものだ。

 次のグラフ8は,「ffmpeg」(Nightly Build Version 2021-10-14-git-c336c7a9d7-full_build)による動画のトランスコード時間テストである。時間なので,グラフが短いほど優秀だ。

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 PBOの効果は,Ryzen 9 7950Xでは見られないかむしろ逆効果。Ryzen 9 7900XだとH.264で約2秒弱,H.265で約5秒の短縮できているので,ぎりぎり有意な差があると見て良さそうだ。
 それよりもむしろ目立つのが,H.264では16コアのRyzen 9 7950Xよりも,12コアのRyzen 9 7900Xのほうがわずかだが有意に短時間でエンコードを終えている点である。理由は分からないのだが,もしかしたらCPU温度が原因かもしれない。それについては後で触れよう。
 Ryzen 9 7950X/7900Xのエンコード性能自体は,非常に優秀で,前世代はもちろん,Core i9-12900Kを12コアのRyzen 9 7900Xでさえ上回ってみせた。現時点で最強のエンコード用CPUと行って差し支えない。

 さて,ここまで温度について繰り返し言及してきたが,グラフ9がRyzen 9 7950X/7900Xにおけるエンコード中のCPUコア温度を,「HWiNFO64」で記録したものである。

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 一目瞭然なのは,Ryzen 9 7900XよりもRyzen 9 7950Xのほうが0.5〜2℃程度もコCPUア温度が高いことだ。
 Ryzen 7000シリーズの最大ジャンクション温度(Tjmax)は,AMDによると約95℃とのこと。Tjmaxを超えると,トランジスタの動作の支障をきたしかねないため,今どきのCPUは,Tjmaxを超えないように電圧や周波数を制御する。Ryzen 9 7900Xは,AMDがいうTjmax以内におおむね収まっているが,Ryzen 9 7950Xは,Tjmaxを超えて張り付いているので,温度の上限に達して動作クロックが頻繁に抑制されている可能性がある。
 というわけで,Ryzen 9 7950XだとPBOが逆効果になってしまったり,一部のテストで振るわなかったりするのは,電圧を上げることで高負荷時にクロックが上がりきる前に,Tjmaxに張り付くことが原因かと,筆者は推測している。

 もっと冷却性能を上げれば,Ryzen 9 7950Xの性能も上がるかもしれないが,今回のテストでは,高い性能を誇る簡易液冷CPUクーラーであるROG RYUJIN II 360を,冷却能力が高い(その代わりに騒々しい)ターボプリセットで使用している。一般のPCユーザーが,これを大幅に上回る性能を持つ冷却システムを手に入れるのは,今のところ容易ではないだろう。
 そもそも,液冷CPUクーラーを変える程度で改善するかにも,疑問はある。5nmプロセスによりトランジスタ密度が前世代より上がっているので,熱密度もそれに応じて高くなっているはずだ。ヒートスプレッダの上から液冷しても,シリコン上にあるホットスポットの熱を素早く冷やすのは,困難ではなかろうか。この熱をなんとかしようとするなら,プロのオーバークロッカーが持つ技術を駆使する必要がありそうな気もする。

 続いては,DxO PhotoLabシリーズの最新版「DxO PhotoLab 5.5」(Version 5.5.0 Build4770)を用いたRAW現像時間を比べてみた(グラフ10)。

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 Core i9-12900Kの800秒台,Ryzen 9 5950Xの900秒台に対して,Ryzen 9 7950X/7900Xは700秒台と,短時間でRAW現像を終えることが見てとれよう。
 気になるのは,Ryzen 9 7950XよりもRyzen 9 7900Xのほうが短時間で現像処理を終えている点だ。Ryzen 9 7950X(PBO)は800秒弱まで速度が落ちている。原因は,先述のようにCPUコアの温度ではないかというのが筆者の考えだ。Ryzen 9 7950Xで長時間,高負荷でCPUを駆使し続ける処理を行うと,性能が制約されてしまうかもしれない。

 続いて,3Dレンダリングベンチマーク「CINEBENCH R23」の結果がグラフ11,12である。

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 CINEBENCHでは,PBOの効果がほぼ見られない。Ryzen 9 7950X/7900Xのスコア自体はとても優秀で,前世代比だと16コアのRyzen 9 7950Xは,シングルコアで約1.22倍,マルチコアで約1.49倍となっている。AMDのアピール以上の好成績と言っていい。
 Ryzen 9 7900XでさえRyzen 9 5950XやCore i9-12900Kを上回るスコアを叩き出すのも,ここまで見られた傾向どおりだ。
 シングルコアのスコアが,Core i9-12900Kとほぼ同程度か上回る程度になったことも注目できる。シングルスレッド性能は,第12世代CoreのP-coreが上とは,もはや言えない状況になっているわけである。

 最後に「7-Zip」(Version 22.01)の結果をグラフ13にまとめておこう。

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 PBOは,Ryzen 9 7950Xでは逆効果で,Ryzen 9 7900Xだとごくわずかに見られるという程度だ。
 スコア自体はとても優秀で,12コアのRyzen 9 7900Xが前世代の16コアをわずかに上回り,Ryzen 9 7950Xは約1.24倍のスコアを残した。Core i9-12900Kをも圧倒している。


高負荷状況だと競合より電力性能が高いものの……


 最後に,今回のテストにおけるCPUコア温度や消費電力を評価していくことにしよう。
 グラフ14は,ffmpeg実行中にHWiNFO64を使って記録したCPUコア温度の最大値である。

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 温度については先述したとおり,Ryzen 9 7900Xは最大でもTjmaxである95℃をわずかに上回る程度で収まったが,Ryzen 9 7950Xでは2℃以上も高くなった。これが,テストによってはRyzen 9 7950Xの性能が出にくい理由ではないかと,筆者は疑っている。

 続いて,ベンチマークレギュレーション25に準拠した方法で,アプリケーション実行中におけるCPU単体の最大消費電力をまとめたものが,グラフ15だ。アイドル時の消費電力は前編で評価したので省略している。

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 Ryzen 9 7950XやRyzen 9 7900Xは,AIDA64時にテストを通してのピークとなる約230Wを記録した。Ryzen 9 5950Xでは,PCMark 10実行時に記録した約182Wがピークだったので,Ryzen 7000シリーズの消費電力は,確実に上がっている。とはいえ,公称最大TDPである230Wには,ほぼ収まっているところが興味深い。
 そもそも,テスト中は260Wを軒並み超えてしまうCore i9-12900Kに比べれば,明らかにRyzen 9 7950X/7900Xの最大消費電力は低い。

 グラフ16に,アプリ実行中の典型的な消費電力を示す消費電力中央値をまとめている。

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 全体を通してみると,Ryzen 9 7950X/7900Xの消費電力中央値は,Ryzen 9 5950Xから10W少々上がっている程度と見てよさそうだ。性能の上がり方からすると,消費電力中央値はほどほどで抑えられていると言えよう。
 RAW現像のようにRyzen 9 7900Xの性能が高かったテストでは,Ryzen 9 5950Xを上回る消費電力中央値を残す点も興味深いところで,Ryzen 9 7900Xは12コアながら性能なりの消費電力を持つようだ。

 競合と比較すると,CPUの高負荷状態が続くffmpegやDxO Photolab,7-Zipといったワークロードだと,Core i9-12900Kが200W前後というとんでもない消費電力中央値を叩き出すのに対して,Ryzen 9 7950X/7900Xは160W以内に収まっているのでまずまずと言える。だが,CPUの高負荷状態が長く続かないPCMark 10やAIDA64,CINEBENCH(※シングルコアのテストは10分以上かかる)だと,Core i9-12900Kが極めて優秀な消費電力中央値を残すという,はっきりした傾向が分かる。
 どちらが良いかは使い方次第になるが,エンコードのような処理を繰り返さない限り,CPUの高負荷状態は続かないので,ゲーマーにとって平均消費電力で有利なのはCore i9-12900Kであると言えよう。

 消費電力テストの最後に,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,各テスト実行時点におけるシステムの最大消費電力をグラフ17にまとめておこう。

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 目立つのは,AIDA64時にRyzen 5 5950Xの最大消費電力が低い点だが,Core i9-12900Kのレビューでも,Ryzen 9 5950Xは低かったので,AIDA64では消費電力が低めの傾向にあるようだ。
 それ以外は妥当なところで,Ryzen 9 7950X/7900Xにおけるシステムの最大消費電力は,前世代よりわずかに高いか,同程度に収まった。一方,最大で見るとやはりCore i9-12900Kは不利だ。


順当な高性能化を実現したZen 4

お勧めはRyzen 9 7900X


 全体を通して見ると,Ryzen 9 7950X/7900Xの高性能ぶりは明らかだ。現時点で最強クラスのデスクトップPC向けCPUであると言うことは疑いないだろう。ゲームでの性能も,Core i9-12900Kに及ばなかったものの,性能差は大きくなかったので,ゲーマーにもお勧めできるCPUであることに代わりはない。

 ただひとつ言えるのは,Ryzen 9 7950Xはいまのところ,チャレンジャーにしかお勧めできそうにないという点だ。おそらくは熱の問題で,十分な性能が出ないことがあり,その問題を解決するのはかなり難しい。
 一方のRyzen 9 7900Xは,簡易液冷CPUクーラーを使えば,それほど無理なく高性能が出せる。さらに,多くの非ゲームアプリでCore i9-12900Kをしっかりと上回る性能が出せるので,ゲーマーに無難な選択と言えるはずだ。

AMDのRyzenデスクトッププロセッサ製品情報ページ


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