連載
レトロンバーガー Order 90:「ドーナツ・ドド」は“レトロ風”である以上にiiRcadeやEvercadなどを経てACに進出するスゴいやつ編
(The optimist sees the donut, the pessimist sees the hole)
「サロメ」(壱百満天原じゃないほう)などで知られる作家,オスカー・ワイルドはこう述べました。まあドーナツの穴は単なる穴なので,ドーナツを見ること自体には楽観も悲観も別段ありませんが(自然主義)。無いものは逆さに振っても出ないので,何とは言わないものの「そこに無ければ無いですね」ってなもんです。何かが無かったとしても無いときは仕方ないんです(淀んだ眼で)。
それはさておきドーナツと言えば,2023年1月19日に国内向けNintendo Switch版が発売されて以降,レトロゲーマーの間で評判となっているのがルクセンブルクのpixel.gamesが開発した“レトロ風”ゲーム「ドーナツ・ドド」(Donut Dodo)です。そんなわけで今回は,ここ1年ぐらいでリリースされたレトロ風ゲームのミニ特集でやっていきましょう。
ドーナツ・ドド
「ドーナツ・ドド」は固定画面型のアクションゲームで,ステージ内の小さいドーナツをすべて回収し,ドードーの持っている巨大ドーナツに触れるとクリアとなります。おおよそ「パックマン」と「ドンキーコング」を組み合わせたゲームデザインですね。1980年前後にリリースされた名作のエッセンスが詰め込まれていて,かつ難度も相応の高さですが,ジャンプの挙動は今風にするなど,操作の快適性は考慮されています。バランス良く「クラシカルなのにモダン」というスタイルが実現されていて,非常に手触りの良いゲームです。
本作が最初にリリースされたのは2022年6月3日で,プラットフォームはSteamの他,本連載でも過去に取り上げたAtariによるゲーム向けLinux PC「Atari VCS」と,レトロゲーム&インディーズゲームに特化した家庭用ゲーム機「iiRcade」(大雑把に言えば,Arcade 1UPとOUYAが融合したようなもの)の3種類でした。しょっぱなから「俺はレトロ風ゲームを全力でやるんだよ!」という姿勢の前のめりっぷりが感じられますね。
なお4Gamer誌上で言及するのは本稿が初となるiiRcadeですが,「ストームブレード」「野球格闘リーグマン」「セカンドアース グラティア」といった家庭用移植されていないタイトル(の海外版)が提供されているので,筆者は買うかどうかめっちゃ悩んでいます。うーん599.99ドル+国際送料……。
さらに4月5日には,イギリス発のレトロゲーム特化型ゲーム機「Evercade VS」(据置機)および「Evercade EXP」(携帯機)でも,期間限定の無料コンテンツとして配信が開始されました。現行のレトロゲーム系プラットフォームを総ナメです。レトロ風ゲームの市場展開として,こういった形で注力したものは過去に見たことがないので,その手際に軽くビビります。
ちなみにGoogle Stadiaでのリリース予定もあったそうですが,配信の準備が整った2時間後にStadiaのサービス終了が発表されるという憂き目にあったそうです。ひっで。
After weeks of paperwork and preparations to bring Donut Dodo, Sir Lovelot and Sigi to Stadia, we successfully finalized the onboarding process with Google yesterday.
— pixel games - Donut Dodo Do! - pre-orders open (@pixelgames) September 30, 2022
Two hours later, the news hit that Stadia is shutting down. Sad. @4Scarrs_Gaming #Stadia pic.twitter.com/pLc19oAtu4
リリース時点では「静かな反響」といったところでしたが,じわじわとSteam版が好評を集め,先述の通り日本ではSwitch版の発売から一気に広まりました。とくに本格派8bitテイストながらノリの良いBGMは評価が高く,Bandcampで1曲1ドルから(※任意の金額を設定可能),8曲入りのアルバムは5ドルから購入できます。しかもブラウザ上で聴くだけなら無料なので,ポチッと再生ボタンを押してみましょう。
また,ゲームセンター・秋葉原HeyではexA-Arcadia版である「ドーナツドードードゥ!」のロケテストを実施中です。1980年代のアーケードゲームをオマージュしてアーケード筐体風のiiArcadeに向けてリリースされたゲームが,ついに本物のアーケードへやってきたわけで,その「コンセプトを貫く」ぶりに感服しまくりです。
「BATSUGUN EXA LABEL」など,exA-Arcadia新作3タイトルのロケテをHeyで実施。まずは2P対応になった「ドーナツドードードゥ!」から
「Donut Dodo」のアーケード版である「ドーナツドードードゥ!」のロケテストが秋葉原Heyで実施中だ。ロケテストのタイトルは,4月12日からは「シノルビー ピンクレーベル」,4月19日からは「BATSUGUN EXA LABEL」に切り替わる。
Ex-Zoidac
レトロ風といってもいろいろな方向性があります。2022年7月21日に発売されたレールシューティングゲーム「Ex-Zodiac」は,“見ての通り”と言えるくらいに「スターフォックス64」をオマージュしたタイトルです。ただし,グラフィックスはスーパーファミコンの初代「スターフォックス」を踏襲していたり,任天堂系よりもPlayStationっぽさのあるポリゴンモリモリの高速スクロールステージがあったり,「スペースハリアー」的なステージがあったりBGMはFM音源をフィーチャーしたりというセガっぽさがあったりもします。
ストレートにニンテンドウ64風でないのは“らしさ”が足りないとも言えますが,これを「もしも幻の“スーパーファミコン用CD-ROMドライブのPlayStation”が実現していたら,こういうゲームがあったのではないか」とか,「だとするとBGMがFM音源で鳴らされているのは,CDの音源をボイスで使うからだろう」とか思ってプレイしてみると味わい深かったりもします。
まあ“過去に無かったハード”について考えると,「メガドラが! もうちょっとアレが良かったりして,メガCDとの組み合わせでこういうゲームができていたら! メガドラが天下を取っていたのに!!」と悶え転がるかもしれませんが。
連海カジノ
2022年9月30日に致意からリリースされた「連海カジノ」は,PC-98風グラフィックスを特徴とするアドベンチャーゲーム。本作は致意が過去にリリースしたビジュアルノベルの主人公達がクロスオーバーするスピンオフとなっているのですが,“PC-98風”というところから本作に興味を持った筆者は,一度クリアしてからそれを知りました。例えるなら「ザ・キング・オブ・ファイターズ '94」で,ルガールを倒してから「怒」や「サイコソルジャー」などを知った感じです。旧作には邦訳されているものもあるので,後々プレイしてみようと思っていますが,もしかすると「アメリカンスポーツチームも元になったゲームが……無いの!?」的な驚きに見舞われるかもしれません。
本作は裏社会に通じるカジノ船で,各種ギャンブルを通して負債を返済しつつ,ヒロインとの交流を通してシナリオを進めていくというもの。要するに「賭博黙示録カイジ」のエスポワール号をオマージュした設定で,Eカード風のギャンブル(ゲーム内での名称はK/Sカード)もプレイ可能です。まあ,K/Sカードは狙って勝つのが難しいので,筆者は稼ぎの大半をHit&Blowで得ていましたが。
ゲーム的にはギャンブルパートとADVパートが噛み合っておらず,「これ単品でどうこうというものではなく,あくまでシリーズのおまけ的な立ち位置なのだろう」という雰囲気ながら,収録されているギャンブルのバリエーションと骨のあるストーリーはなかなかのもの。偶発的なものだとは思いますが,このように設計がゆるめだったり,力の入れ具合が局所的だったりするところも,昔の低価格PCゲームやディスクマガジン付録ゲームのような味があり「こういうのでいいんだよ。こういうので」と思わされます。
Melon Journey: Bittersweet Memories
PC版が4月7日に発売されたばかり(関連記事)の「Melon Journey: Bittersweet Memories」は,ゲームボーイ的なグラフィックスをフィーチャーしたRPG。ゲームボーイの緑がかった液晶画面をメロンに紐づけたのは,だいぶ面白い着眼点です。
まあ,筆者はNintendo Switch版を買って,序盤だけチョロっとやって,まだストーリーも何もよく分かっていない状態なのですが……。ホラ,RPGってプレイするのに時間がかかるし……。
なぜ買ったのかと言えば,国内向けの限定版には,前日譚である「メロンジャーニー1 レトロカートリッジ」が同梱されているからです。要するに「ゲームボーイおよび互換機で動作するソフト」ですね。
カートリッジ自体はLimited Run Gamesでも販売されていましたし,“ゲームボーイおよび互換機”向けのソフトはゲームインパクトさんなどが販売していたりもしますが,特典にしろ“国内一般流通”という形でリリースされたのは初ではないでしょうか? 市場をすべて把握しているわけではないので,もしかすると先人がいるのかもしれませんが,それはそれとして「そんなんコレクターだったら買うしかないやろ!」です。
Amazon.co.jpの「Melon Journey: Bittersweet Memories」販売ページ
「ドーナツ・ドド」や「メロンジャーニー1」のように,昨今はオマージュ的に開発されたものが“一種の本物”になり得る状況となっています。ROMを焼く必要のあるカートリッジはハードルが高めですが,シューティングゲームのコンストラクションソフトが発売された「X68000 Z」や,幅広い展開が予定されている「MSX3」(およびファミリーの「MSX0」など)といった“過去に無かったハード”は,普及が進めばレトロ風ゲームに適したプラットフォームとなるのではないでしょうか。
筆者的には,“気軽に遊べるけど尖っている”といった具合の「こういうのでいいんだよ」なゲームが増えると嬉しいところです。
そう。そして来る……。
ハードとソフトが相乗効果を起こし,ネオTAKERUの時代が……!
「ソフトベンダーTAKERU」の特設ページがブラザー工業のWebサイトに登場。PCソフト自販機・TAKERUの歴史や仕組みなどを伝えるコンテンツ
ブラザー工業のグローバルサイトに,「ソフトベンダーTAKERU」の特設ページが登場した。ゲーム保存協会が2022年7月19日,公式Twitterでのツイートで伝えている。世界初のPCソフト自動販売機として登場したソフトベンダーTAKERUの歴史や仕組み,そして関連ゲームなどを紹介するコンテンツだ。
- 関連タイトル:
ドーナツ・ドド
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