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「8番出口」の作者コタケ氏が開発を振り返るセッションをレポート。短編ゲームはゴールを決めて自問自答すること,遊びを絞り込むことが大切[IDC2024]
そもそも「8番出口」が生まれたのは,別のタイトルの開発が長期化し,短いゲームを作りたくなったことがきっかけだったとコタケ氏は語る。また開発費や生活費を稼ぐことも動機のひとつだったため,できれば売れるゲームを目指したという。
そこで海外の人気ゲーム「I'm on Observation Duty」(監視カメラを切り替えて部屋の異常を報告するゲーム)を参考に,「ホラー感のある間違い探しゲーム」として「8番出口」を企画した。開発には「Unreal Engine 5」を使い,構想に6か月,実作業に3か月を要したそうだ。
「I'm on Observation Duty」を参考にした理由は,短期間で作るのに適していそうなこと,人気作品なので市場がありそうと思えたこと,そして何より「ホラー感のある間違い探しゲーム」は作るのが楽しそうだったため。
ただ同じゲームは作りたくなかったそうで,視点が監視カメラの俯瞰から一人称へ,舞台が部屋ではなく通路へと変更されるなど,さまざまな工夫が加えられている。
ちなみに舞台を地下鉄の通路にしたのは,コタケ氏が個人的に好きなロケーションだったから。もともとは「異変を撃つ」ゲームにしようとしていたが,コスト削減やほかの作品との差別化のために「引き返す」ゲームにしたそうだ。
開発で苦労したポイントは通路のループ処理や赤い水の見せ方,そしてグラフィックスの作成だったという。ループ処理は同じ構造の通路を2つ用意し,トリガーに触れたら当該のルート移動させてつなげるという方法で実装している。
赤い水は,通路の構造に沿ったゼロから1のグラデーションを持ったスタティックメッシュを作り,メッシュがだんだん現れるようなシェーダーを組んで,水が流れてきたように見せている。
グラフィックスは自分で撮影してきた,いろいろな地下通路の画像を元に3Dモデルを作ったり,アセットを使ったりして作成している。以下のスライドのように,アセットを使えるところは使おうという方針だった。
テストプレイは友人やiGi(iGi indie Game incubator,マーベラスが主催する日本在住のインディーゲーム開発者のための無償インキュベーションプログラム)の同期の人たちにプレイしてもらったとのこと。
プロトタイプでは異変を見つけたあと,数字の看板まで戻り,そこでUターンして次の通路に向かうという流れだったが,テストプレイ時の意見を受けて,引き返した先に新しい通路ができる仕組みになったという。
続いてSteamのストアページ開設に関する知見が語られた。プレイ時間については,公表しておかないと低評価を付けられることが予想されたのでしっかり明記したそうだ(それでも「短い」というお叱りが届いたとか)。
動画配信のガイドラインは作っておくと便利であるとコタケ氏は語る。これがないと何度も配信への対応をすることになりがちだという。作成にあたっては任天堂の「著作物の配信に関するガイドライン」や,内容が近いゲームを参考にしたそうだ。
また作者への連絡先にメールアドレスを登録していたところ,SteamCDキー(製品コード)を要求する大量のメールが届いてしまったこともあり,設定するのは,SNSのアカウントがよいと語っていた。
そして告知については主にX(旧Twitter)で行った。当時アカウントのフォロワーは5000人程度いたそうだが,ストアページ公開のポストが1.3万リツイート,リリース時のポストが2.4万リツイートされ,かなりの宣伝効果があった。
なぜそうなったのかは自身でもよくわからないそうだが,スマホを見ている人が多そうな20:00〜21:00に投稿する,トレイラーをできるだけ作りこむ,文章の中に気になったり,驚いたりしそうな文章を入れることを心がけていたとのこと。また効果は定かではないものの,予定より早く完成したので,リリース日を1日早めてもいる。
トレイラー作りに関しては「ゲームのトレーラーでやってはいけない14の誤り」という動画とそれに関する記事(関連リンク)を参考にした。不気味さを出すために文字やロゴは一切入れず,最後におじさんを走らせて驚かせる工夫をしている。
なおウィッシュリスト数の推移はストア開設時が5600ほどで,リリース時には4万弱にまで増えていた。メディアに記事にしてもらったタイミングや,Steamの近日登場の欄に乗ると大きな影響があったという。
なおリリース時にはまだ多くのバグが残っており,デバッグが不足していたと認識しているそうだ。また「異変が起こっていないのに0番に戻される」というバグ報告が,本当にそうなのか,異変を見逃しているだけなのかが判断できず困った面もあったという。
移植版に関しては基本的に外部に任せていたが,「監修」という作業が実は大変であることに気がついたという。調整してほしい箇所を説明したり,認識を共有したりすることに時間がかかりがちなためだ。
「8番出口」開発の振り返りは以上となり,続いては氏の短編ゲームに関する考えが語られた。
まず短編ゲームの最大の長所は,比較的短期間で作れること。制作の序盤から作業の終わりが見えているため,つねに高いモチベーションで取り組みやすくもある。プレイヤーにとっても遊びやすいのも長所のひとつだ。
逆に悪いところとしては,あまりにも短いとクリア後に返品できてしまったり,低評価がつけられてしまったり,宣伝期間が短くなってしまったりすることが挙げられた。またパブリッシャが興味を持つことも比較的少ないかもしれない。
ちなみに「8番出口」の返品率は15%ほどで,これは多いのか少ないのか意見が分かれるところだろう。氏としては「だいたいの人は返品しないでくれた」と捉えているそうだ。
またゲームを短くする方法として「〇〇をするだけ」のゲームにすることを挙げた。たとえば「8番出口」なら通路を歩く,異変を見つけたら引き返すだけといった具合である。ただこの類のゲームは「本当にするだけ」だと成立しないので,肉付けの部分で面白くする工夫が必要になる。映像作品的というか演出のカッコよさ,思わず画面に見入る美しさなどが大切になるだろう。
もうひとつのアプローチは,既存のゲームから要素を減らしてスッキリさせたり,取り出したりして磨き上げること。例としては武器をひとつに絞った「Titan Souls」。一体の強力な敵を倒すのを目的とする「Choo-Choo Charles」といった作品を挙げていた。
アイデアの練り方としては,ゴール(着地点)を決めて自問自答する方法と,コンセプトを明確化する方法のふたつを挙げていた。ひとつの考え方には,必ずその逆からの考え方が存在するもの。ただ漠然と考えていても案はなかなか出てこないし,どこにもたどり着かない。ゴールやコンセプトを決めて思考すると,そことのズレや問題点がわかり,考えが先に進みやすいという考え方だ。
なお「8番出口」はゴールを決めて自問自答するパターンだったそうで,作品コンセプトなどは後付けで考えたとのこと。
以上,昨年から今年にかけて「もっともバズったインディーゲーム」と言っても過言ではない「8番出口」だが,とくに作り方や広報活動が変わっていたわけではなく,実直に作られた作品という印象を受けるものだった。
参考にできるものは参考にし,自分のアイデアに向き合い,それらをしっかり外部に伝えようとした。そこに幸運の女神がほほ笑んだ……というのは月並みすぎる表現かもしれないが,コタケ氏の実直さがヒットにつながった1つの要因なのは間違いないだろう。
「Indie Developers Conference 2024」公式サイト
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(C)KOTAKE CREATE Licensed to and published by Active Gaming Media Inc.
(C)2024 KOTAKE CREATE Licensed and Published by Active Gaming Media Inc.
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