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レ・ダウの鳴き声は「ずぃーんめーんぎょー」。「モンスターハンターワイルズ」にも活用されたカプコンの自社スタジオとは
[プレイレポ]「モンスターハンターワイルズ」はオープンβテストからより遊びやすく進化。復活のババコンガや新モンスターの狩猟を体験できた
2024年11月に「モンスターハンターワイルズ」の一部を体験できるメディア向けプレビューツアーが,大阪のカプコン本社で実施された。オープンβテストから進化した新バージョンをゲーム冒頭から約5時間じっくりプレイできたので,レポートをお届けしよう。復活したババコンガや個性豊かな新モンスターの狩猟や,世界観を形成する演出を楽しめた。
[インタビュー]「モンスターハンターワイルズ」は,さらなる最適化と武器のバランス調整を進め,完成形を目指す
2025年2月28日に発売を予定している「モンスターハンターワイルズ」のメディア向けプレビューツアーが11月に実施され,試遊後に辻本良三氏,藤岡 要氏,徳田優也氏に合同インタビューをする機会を得た。オープンβテスト時のものから製品版はどのように変わるのか,プレイヤーが気になる質問をぶつけてきた。
肉体と肉体がぶつかり合い,ハンターやモンスターに命を吹き込むモーションキャプチャ
現在のゲーム開発で必須の技術となりつつあるのが,モーションキャプチャだ。従来は開発者が手作業で動きを作成していた(手付けと俗称される)が,モーションキャプチャでは生身の人間であるアクターに演技をしてもらう。動きをコンピュータに取り込み,これを加工することでキャラクターの動きを完成させる。生身の人間が実際に動いた際の情報量の多さが,より高品質の動きとしてゲームに反映されるのだ。
モーションキャプチャの際に外部スタジオを使うゲーム会社もあるが,カプコンは自社で複数のスタジオを用意している。本社のスタジオでは36台,2023年に新設された「クリエイティブスタジオ」では150台のカメラを用いてアクターの動きを撮影している。スタジオにいるのは外部ではなく社内のアクターで,ノウハウの蓄積をしやすい環境になっているという。
カプコンにおけるモーションキャプチャの利点は,よりリアルな動きを作れることと,手付けよりも早くゲームに実装できることにあるという。
モーションキャプチャしたデータはリアルタイムで同社製ゲームエンジン「REエンジン」上のキャラクターの動きとして反映されるため,トライアンドエラーも容易に行える。「収録はしたけれど,結局は使えない動きだった」という場合も,新たな動きを考案して収録を行えるのだからフットワークが軽い。スタジオとアクターを社内に擁することもプラスに働いており,こうしたスピード感がカプコンにおける強みであるそうだ。
モンスターハンターシリーズでもモーションキャプチャを導入しており,ワイルズからはモンスターの動きを作る際にも使われるようになった。今回のワイルズでは,ほぼすべてのモーションを社内スタジオで制作できる体制になっているという。
この日は,モンスター「ドシャグマ」とハンターが攻撃を繰り出したり,鍔迫り合いをする様子のモーションキャプチャがデモンストレーションされた。2人のモーションアクターが動くと,画面の中のドシャグマやハンターが同じように動くさまは,モーションキャプチャについて知っていても魔法のように感じられる。
あくまでモーションの収録であるため,実際に殴りあったり組み合ったりするわけではない。だからといって何もないところで演技する“エア攻撃”ではないのがポイントだ。
ハンター役のアクターは大剣のダミーを持ち,渾身の一撃を繰り出しつつ用意されたマットに倒れ込むし,ドシャグマ役がパンチをする際もマットに拳を打ち下ろす。実際に力を込める対象があることでリアルな動きができるのは,生身を使った演技ならではの特徴だろう。
また,感情をより表現するため,収録の際にはなるべく声を出すようにしているのだとか。最新の技術であっても,成果物の良し悪しを左右するのは人間の身体や気持ちであるのが面白いところだ。
とくに興味深かったのが鍔迫り合いの収録である。ドシャグマはハンターに食いつこうとし,ハンターはこれを押し返すのが,ワイルズにおける鍔迫り合いだ。
ハンター役は大剣のダミーを構えてサポート役と押し合い,ドシャグマ役は地面に立てられたポールに食いつく。両者ともに唸り声を上げ,迫力満点だ。その身体は触れ合っていないが,動きがコンピュータに取り込まれるとがっぷり四つに組んだ鍔迫り合いとなる。
映画であれば着ぐるみや映像の合成が必要になるところだが,モーションキャプチャであればリアルタイムで結果を確認でき,すぐに撮り直しもできる。さらに社内にスタジオとアクターが準備されているのだから効果は高い。モーションキャプチャの面白さや魅力が伝わってくるデモンストレーションだった。
なお,ワイルズの制作では,まずはゲーム内の仕様が作られ,これに沿った形でモーションキャプチャが行われるという。モーションキャプチャも万能ではなく,昆虫など人間からかけ離れたプロポーションのキャラクターは従来通りの手付けでモーションが作られているそうだ。
収録で用いる小道具も工夫が凝らされている。例えば,壁の近くで演技が求められる場合は,実際の壁を使ってしまうとアクターが身体各所に装着するマーカーが隠れてしまってデータを取れなくなる。そのため,パイプ椅子を収納するのに使う骨組みだけのラックを用意するのだそうだ。
楽器を自作してモンスターハンターワイルズの世界を作る
「ミキシングスタジオ」では,シンセサイザー音楽をコンセプトそのものに組み込んでいく取り組みが紹介された。メインテーマ「美しき世界の理」では,オーケストラサウンドに民族楽器とシンセサイザーを混ぜることで,人とモンスターを包括した世界の美しさ,厳しさ,スケール感が表現されている。
舞台となる「禁足地」は厳しい自然のなかで荒廃期,異常気象,豊穣期と気候が移り変わっていく土地だが,シンセサイザーの音を変調させることでこうした変化を表現している。この日はフィールド「隔ての砂原」におけるシンセサイザーの音色が披露された。
荒廃期は美しさのなかにチリチリとしたノイズを混ぜることで異常気象の嵐がくる前の静けさを表現。嵐の際は,あらかじめ強めの音のバリエーションを複数用意しておき,これをランダムで再生しているという。
隔ての砂原における生態系の頂点に立つモンスターが「レ・ダウ」。煌雷竜の異名通り,雷を武器とする恐ろしい相手だが,狩猟曲ではシンセサイザーで電気のノイズのような音を作り出すことでその脅威を表現している。
こうして異常気象というレ・ダウの時間が過ぎると,豊穣期が訪れる。異常気象やレ・ダウの狩猟曲でノイズがフィーチャーされていたのとは対照的に,豊穣期ではクリアな音が用いられている。ノイズをキーワードに,シンセサイザーでさまざまな環境の移り変わりを表現しているというわけで,興味深い取り組みと言える。
カプコンゲームのSEを作るのが,社内の「フォーリーステージ」だ。ワイルズにおいては,モンスターのボイスを作るために,専用の楽器から自作していくユニークな手法が用いられている。こうした取り組みはカプコンでも初めてとのことだ。この日はレ・ダウのモンスターボイスをどのように作ったかが明かされた。
モンスターハンターシリーズのモンスターボイス制作においては,それぞれの生態が持つバックボーンを個性的に表現することを追求しているという。「モンスターハンターワールド」では自然な生き物であることを重視し,ライオンやシマウマのボイスを収録していたが,ワイルズではこの取り組みを一歩進め,実在生物のボイスと専用楽器をミックスしてモンスターボイスが作られている。
キーワードは,「生物感と個性的な違和感」であるという。個性的とは「オノマトペで表現できるくらいの個性」であり,違和感があることでプレイヤーが音を覚えてくれる。これを実現するため,モンスターのそれぞれに楽器を自作することが必要であったわけだ。
レ・ダウのモンスターボイスを制作するうえでは,塩ビパイプを組み合わせた2種のスライドホイッスル「王様の独り言」が作られた。王様の独り言という名前は大物であるレ・ダウの設定に合わせたものだ。王様が道を歩いていて,邪魔な相手をどかせたいと思ったなら,わざわざ叫ばずとも「邪魔だ」とつぶやくだけでいいだろう。それは,隔ての砂原の頂点に立つレ・ダウも同様であるはず……ということで,王様の独り言は高めの音を出すものと低い音を出すもの,2種の笛の組み合わせになった。
パイプをスライドさせることで,レ・ダウや王様といった大物が呟くイメージどおり,ゆっくりと音階が変化するようになっている。息を吹き込むと,ビニールのフィルムも振動して独特の音が鳴り響く。サウンドクリエイターが考えるレ・ダウのオノマトペは「ずぃーんめーんぎょー」だ。
この日は王様の独り言の2種の音に加え,動物のボイスを加えて加工する様子もデモンストレーションされた。王様の独り言による個性と違和感を備えた音と,動物のボイスが持つ自然さが組み合わさることで,リアルかつ個性的な違和感のあるモンスターボイスとなるわけだ。
また,制作上で「楽器経験のないデザイナーでも吹けるようにしたい」ということで,とにかく息を吹き込めば音が出る仕組みが作られることになった。通常の笛のようにダブルリードを用意すればさらに繊細な音が出せるものの,楽器経験がないと扱えないものになってしまう。「キレイな音を採りたいわけではない」「お手軽に面白い音を出したい」ということで現在の形となった。
このほか,ラバラ・バリナのためには笛,ププロポルのためにはペダルを踏むとゴム手袋に空気が送り込まれて低い音が鳴り響く楽器が作られている。とくにププロポルの楽器が面白く,音楽的に整ったリズムというよりは,鳴き声のようでありつつも何かを喋っているかのような音になっている。思わずオノマトペとしてどうなるかを考えてしまう音であり,そうした意味でコンセプトを体現する楽器になっているように感じられた。なお,楽器を作るうえで予算は決まっておらず,金属加工が必要になる場合などは外部に依頼することもあるそうだ
モンスターボイスを作る際,デザインを見てしまうとそのイメージに引っ張られてしまうため「絵はあまり見たくない」という。あくまで個性的な音が優先されるということで,本作の方向性が現れていると言える。
ワイルズでは過去作のモンスターが登場するが,鳴き声はすべてリファインされているという。ババコンガのように,新しくオリジナル楽器を作った例もあるそうなので,プレイする際はこうした点を心に留めつつモンスターたちの声を聞き,オノマトペを考えてみるのも楽しいのではないだろうか。
「モンスターハンターワイルズ」公式サイト
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