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公益財団法人FOSTによる「第6回FOST賞授賞式」開催。ドリルではない「問題解決力」を養うeラーニング教材を開発した松田稔樹さんらが受賞
襟川陽一氏(コーエーテクモホールディングス代表取締役社長)が理事長を務めるこの団体は,1994年より活動を続けており,2007年からは研究助成金や研究補助金に基づいて成果をあげた研究者に対し,毎年「FOST賞」の授与を行っている。今回は,そんな「FOST賞」第6回授賞式の様子をお伝えしていこう。
・FOST賞:松田稔樹氏(東京工業大学大学院)
教育工学の分野では,学校教育において定められた教育目標を達成するための1つの手段として,“教育ゲーム”というものが存在している。ここでいう教育ゲームとはいわゆるドリルであり,それは従来の知識偏重型技術教育で活用されているものだ。
一方,松田氏が今回研究したのは「問題解決力」(最近では生きる力と呼ばれている)を“教える”ときにどうすればいいのか,ということ。問題解決の見方・考え方という,定義が曖昧なものをより具体的に明示し,ゲーミングの手法を用いて教材にするというのが今回のテーマになっているという。
この研究の中で,松田氏は教師のための「模擬授業ゲーム」を考えた。「こういう風に教えたら,生徒はどのように反応するか」という実験を実際の教育現場で行うわけにはいかない。そこで,そのシチュエーションに沿ったシミュレーションゲームを提供することにより,教師が「どう教えればいいか」を自分で考えるための素材として活用してもらおうというのが,模擬授業ゲームの狙いだ。このように,松田氏はコンピュータが人に物を教えるのではなく,人が物を考えるためにコンピュータによるゲームやシミュレーションを用いることが大事だと語る。
・FOST熊田賞:末田 航氏(シンガポール国立大学)
・FOST熊田賞:浅見智子氏(東京大学大学院)
研究補助金に基づいて研究成果を発表した若手研究員を対象とする「FOST熊田賞」は,いずれもゲームメーカー勤務を経て大学へと移った末田氏と浅見氏の二人が受賞した。
末田氏は「自分が3日以上日記をつけられない人間だから,勝手に誰かが書いてくれないだろうか」という動機から「勝手に絵日記」というソフトウェアを開発した。開発にあたって末田氏は,携帯電話やスマートフォンの普及によって,多くの人が写真,文章,位置情報を関連づけてインターネット上にアップロードしていることに着目し,それらのユーザータグを集合知とみなして集積処理することで,空間意識を可視化できると考えた。その手法を用いた,ユーザーの活動を自動的に記録する日記風の“ライフログ自動生成システム”が,「勝手に絵日記」だという。
浅見氏は,ガリレオを主人公に,当時の世界で根強かった天動説に対して,議論でバトルしたり証拠を集めたりしながら地動説を唱えていくという推理アドベンチャーゲームを開発した。理科という分野では,昔から科学を生み出すところで考えたり証拠を集めたりといった活動が重要になっていて,そこにアドベンチャーゲームとの共通点を見たのが,開発の動機になったという。ガリレオをテーマにした理由は,議論自体は中学生くらいでも理解できるものだが,科学的に根深い問題を扱い,哲学にも触れるような内容だったため,それをエンターテイメントとして提供したら面白いと考えたからだそうだ。
・FOST社会貢献賞:トレンドマイクロ
また,IT関連ではどうしても欧米に遅れを取っている現状を,日本の得意分野であるゲームやアニメといった事業と連携することで打開し,アジア(※)からも技術を発信できるようにしていきたいと語った。
(※)トレンドマイクロ社の代表取締役は台湾出身のエバ・チェン氏。しかし本社は東京で,そこから世界の支店に向けて活動している
授賞式に際して,FOST賞審査委員長である大西 昭氏(創価大学名誉教授)は,FOST賞受賞者の論文に共通した特徴は,未来に対して叡智となるようなゲーミングソフトを作ろうとしている点にあり,「精神的な進歩を促すようなゲーミングソフト,それが出てきたことは私の喜びであり,同時にFOSTの喜びでもあると考えている」と話した。
また,理事長の襟川氏は,「FOST熊田賞」の寄贈者である熊田節郎氏が昨年末に他界したことを悔やむと共に,同氏が目指した若手研究員を対象とする助成の意志を引き継ぎ,新たな賞の新設を検討したいと締めくくった。
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