連載
【島国大和】ゲームはこうしてダメになる。横ヤリ刺さって死屍累々。
島国大和 / 不景気の波にもがく,正体はそっとしておいて欲しいゲーム開発者
島国大和のド畜生 出張所 |
どうも,島国大和です。
デスマーチ,してますか?
前回,「ゲームを作る立場で,どうやって落とし穴を回避するかを考えるよ。」と題して,ゲームを開発していくうえでハマりやすい罠を,どうやって回避するのかといったことを書きました。
今回はその続き,というか,そこで書き切れなかったことをまとめてみたいと思います。テーマは,「なぜ横ヤリは入るのか」ということ。
ゲームが大失敗する理由の中で,かなり大きいのが,偉い人からの横ヤリです。完成品を見て「ここちょっと,こうすべきじゃない?」みたいな。
ここではなぜ横ヤリが入るのか,それがどうしてダメージになるのか。そういった部分を見ていきます。
なんのことかよく分からないという人は,とりあえず,前回の連載を読んでくださいね。
さて,今回も業界の一部ポジションの人には興味深く,かつ物悲しい話ですが,ゲームを作ってない人には何の役にも立たないという内容になっています。
しかし世の中,何があるか分かりません。もしかすると,合コンでネタに使って大ウケ,それがきっかけで結婚,といったことが起きるかもしれません。というわけで,読んでいただければ幸いです。
刺さずにはいられなくなる横ヤリ
まず,上のいい加減なグラフを見てください。
青線は実際のゲームの完成度を表し,赤線はそれを外から見た場合,どれぐらい完成して見えるかを表しています。
ざっくり言うと,外部から見た場合,ゲーム開発の最初のほうは非常にうまくいってるように見え,中盤以降は難航しているように見えてしまうということです。では,各段階を追ってみましょう。
(1)ゲーム制作を開始してすぐ
プロジェクト初期はプログラムも複雑ではありませんし,とりあえず絵を出して動かすのに時間はかかりません。
これを見た偉い人は,「なんだ順調に進んでるじゃん」と思って夢を広げ,いろいろな注文をつけたくなります。……が,ここで仕様を盛り込み過ぎるとあとで必ずひどいことになります。
(2)プロジェクト中盤
ゲームデータのフォーマットを固めたり,ネット周りを作ったり,全体のシーケンスを設計したりしている段階です。外からは,全然仕事が進んでいるように見えません。
場合によっては表示部分を作り直すので,昨日まで動いてたものが動かなくなったりもします。
ここはゲームを完成させるために,どうしても必要な時期なのですが,この段階のプログラムは動くけど,たいてい面白くない。ゲームとして成立していない。
この状況を開発に詳しくない人が見ると,どんどん不安になります。そして,「つまんない。ヤバイ。どうにかしなきゃ」と横ヤリを入れたくなるのです。
最悪なのは,例えば「クオリティをあげろ」みたいな,それはいったい何をすればいいんだ? といった,曖昧なものや,「このキャラの,このモーションがヘン」といった,森の中で葉っぱのディティールにこだわったようなものとか,そういう横ヤリがいっぱい入ってくることです。
表面上はあまり完成していなくても,実際は水面下でいろいろなものを制作中なので,ここで「ゴールを変えられる」と,作ってきたものがまとめてパーになったりします。水面から下は見えないので,明らかに間違った意見も平気で飛んできます。
ああ,みんなもっとこの仕組みを知ってくれ! という感じです。
(3)プロジェクト後半
ここに来たら,あとはフォーマットに沿ってデータ作るだけなので,日に日にゲームらしくなります。
ゲームは一つの体験なので,誰でも簡単にクチを挟めます。それもまたゲームの良いところなんですけど,例えば「オレには難しかった」という体験は,本人にとっては絶対ですし,「オレにはヌル過ぎた」という体験も本人にとっては絶対です。
つまり,「あのゲームが面白かったから,ああいう要素を入れろ」というのも本人にとっては絶対の真実なのです。
本来はここでターゲットを絞ったテストを行って,責任者が対策を取捨選択したりするわけですが,ここに「俺の言うことを聞け」的な横ヤリが複数出てきて話がこじれます。
ちなみに,ユーザーテストも予算食いますので,自分の場合は,ある程度ゲームができたら,ターゲットになりそうな社内の人に触らせて,その様子をうしろから見てました。これなら予算はかかりません(ですが,この技が使える回数は限られます。2回目以降は慣れちゃうので)。
要するにプロジェクト後半では,「どうやって変更を最小限に持っていくか」が勝負の分かれ目になります。この期におよんで大改変を求める横ヤリを華麗にさばき,小改変で済ませることが大切なのです。
「このゲームはどういうところが面白くて,どこにお金を払うゲームなのか」ということは,誰かが明確に責任を取らないと,迷走してロクなことになりません。立場の弱い下請け仕事だと結構泣かされます。
また大手などで,発言力を持つ人が複数いる場合も面倒です。責任は,分散されればされるほど無責任に近づきますから。
得てしてそういう横ヤリは首尾一貫しない場当たり的なものになりがちですし,そういう横ヤリを「偉い人が言った」からと開発に持ちこまれても困ってしまいます。
人数分だけ理想があるので,方向性もフラフラします。
横ヤリを刺すとはこういうことだ
要するに,作りかけのゲームを見たら誰だって何か言いたくなるんです。だって完成してないから。完成していないゲームのデキは当然微妙で,それに比べたら自分の脳内の完成したゲームのほうが絶対にいいわけです。
航海中の船の舵を何度も切り直したら,乗組員は疲弊します。
船頭多くして船山に上ると言いますが,実際に船を漕がないのにクチを挟む人が多いと,沈没することもあり得ます。ただでさえ,船を漕がない人がたくさん乗ってると沈みやすいのに。
例えば,チーズケーキを注文したとしましょう。
40%の完成品を見て「やっぱ,チョコレートケーキにしてくれ」。80%の進捗を見て「イチゴも乗っけてくれ」「生クリームたっぷりで」。完成したら「飲み物もつけてくれ」「やっぱチョコ抜いてモンブランで」「そうしないと代金,支払わないから」「あと,締め切りと予算は変わらないよ」。
こんな注文があったらブチ切れると思います。そんなのあり得ないと思うでしょ。でも,そんな気はなくても同じようなことになっている場合があるわけです。
これでは,発注する側も受注する側も不幸になります。
今回のまとめ
はい。そんな感じで,まとめてみましょう。
- 作りかけのゲームを見ると,誰でも横ヤリを入れたくなる
- しかし,横ヤリを入れるには,作りかけのゲームから完成品を想像する能力が必要
- さらに,知識と予算と期間も必要
- そんなわけで,作りかけのゲームに安易に横ヤリを入れると,みんなで地獄行き
といったところでしょうか。
もちろん開発現場も,未完成品から完成品の姿をきちんと伝える能力が必要ですし,経営サイドも作りかけのゲームから完成品を想像する力が必要です。
開発の偉い人が「いいから俺を信じろ(ドンッ)」と胸を叩けるぐらいの場数を踏んでいて経営陣の信望が厚ければいいかもしれませんが,そのパターンでも大コケしたタイトルは割といっぱいあったりします。ですから,まず第一歩として,関係者全員が上に書いたようなことに少しずつ詳しくなっていくのがいいんじゃないかなと思っています。
この原稿も,そのために書いたところがあります。
さて,業界の一部のポジションの人にしか効果のないエッセイでしたが,話のタネにでもなれば幸いです。万が一,この話題で合コンが盛り上がり,彼女や彼氏ができたら,ぜひコーヒーでもおごってください。
それでは今回は,このへんで!
ありがとうございましたー。
■■島国大和■■ 有名ゲーム系Blog「島国大和のド畜生」の管理人で,不景気の波にもがく,正体はそっとしておいてほしいゲーム開発者。最近,映画「かぐや姫の物語」を見て来たという島国氏ですが,曰く「高畑監督は,にこやかでやさしげな表情の裏に,狂気を飼っているタイプの人だと勝手に思っている」とのこと。まぁ,それには担当編集も同意といいますか,そもそも「竹取物語」という題材を,今この時代に50億円をかけて映画化するというのが,すでに狂気の沙汰ですよね。ただまぁ,それをやれてしまうのが良きにしろ悪きにしろ“ジブリの凄さ”なんでしょうねぇ。ちなみに高畑監督といえば,劇場版「じゃりン子チエ」がとても素晴らしい作品なので,ついでにオススメしておきます |
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