連載
【島国大和】ソーシャルゲームを解体してみるよ。
島国大和 / 不景気の波にもがく,正体はそっとしておいて欲しいゲーム開発者
島国大和のド畜生 出張所 |
皆さんゲームしてますか。
最近,勉強用にソーシャルゲーム(以下,ソシャゲ)ばっかりプレイしているため,自分の時間の削られっぷりがハンパない島国大和です。
普通のゲームでもそうだろうって? いやいや,ソシャゲってとにかく「接続する時間」と「ゲームの寿命」を延ばすための仕組みの塊なので,時間を食いまくるんですよ。遊んでいると,スキマ時間を着実に奪われていきます。いやーもー,本当に良く出来ているんですね。俺の時間を返せー。
そんなわけで,今回はソシャゲの「基本的な仕組み」を解体してみようかと思います。
ソシャゲとは何ぞや
まず,今回ここで言うソーシャルゲームとは,
「日本の携帯電話ゲーム市場における基本無料アイテム課金型の利益を多く出しているタイプ」のゲーム
と定義したいと思います。そんな偏ったタイプを元にソーシャルゲームを語るなと言うなかれ,世界市場の利益のうち日本がその半分ぐらいを担っていて,さらにその日本市場において利益を出しているゲームのほとんどがこの定義に当てはまるわけですから,これこそがソシャゲとも言えます。いい具合に歪んでますね。
基本無料,有名版権,インバイト施策(今このゲームを始めるとアイテムプレゼント。友達を呼ぶとレアカードが引けるガチャチケットプレゼント……みたいヤツです)で,とにかくどっと大量の人を呼び,半分ぐらいが初日でやめ,残った人達のうち何割かが課金をする。さらにそのうち少数が廃人のように課金をするゲーム。
はい,思い当たるゲームありましたか?
この手のゲームは,当たれば月に億単位以上の利益を生みます。凄いですね。気が変になってしまいそうです。まさにパッケージゲームとはなんだったのか……と言われても仕方が無いレベルです。ただ,華々しいタイトルがある一方で,サービスをリリースして数か月で閉じちゃうタイトルもありますから,皆が皆ウハウハというワケでもなく,とくに最近は生き残りを賭けた競争が激しくなってきました。簡単に言えば,ソーシャルゲーム界隈も,そろそろ安泰じゃなくなってきました。
ねたましい,うらやましい,でも……よく出来てる。
生粋のゲーム屋(ただのロートルとも言う)からすると,正直,いろいろな感情が渦巻くわけですが,学ぶべきところは学ばなければなりませんし,ゲームのプロとしては傍観しているわけにもいきません。
というわけで。まずはソシャゲの基本構造から確認していきたいのですが,ソシャゲの構成要素となるパーツを考えてみると,「クジ引き」「手触り」「勝利」「コレクション」,そして「ソーシャル」,これらの要素の複合体になっています。
クジ引きの魔力
まず「クジ引き」。
クジ引きというのはもの凄い誘引力があります。宝クジだって駄菓子屋のクジだって,チョコボールのエンゼルだって強烈です。
ゲームにおけるクジ引きといえば,例えばランダムエンカウントというのはクジ引きですね。はぐれメタルが出たらアタリ。モンスターを倒して,レアドロップアイテムが出たらアタリ。基本的にランダム要素というのはクジ引きみたいなもんです。
ソシャゲはこれを洗練しまくった結果,例えば,「体力を消費して探索をし,アイテムやユニットが手に入る」を5キーポチクリだけに集約しちゃったりしました。「体力」は時間で回復するけど,即回復させるアイテムが課金販売。もうゲームのコアも課金要素もクジ引き。
ここから,さらにゲームの要素も削ぎ落すとガチャになります。なんだかんだでクジ引きまみれです。
筆者の周りには,ゲームしないけど課金ガチャは回すという,意味不明なプレイスタイルのプレイヤーが複数人いますよ。
クジ引きというのは,基本的に「期待する→成否を得る」という心を動かす最小構造で出来ていますから,実際これは感情を強く刺激します。ある種の快感――いきなりではなく,期待をしているのがミソ――があるんですね。
手触りの重要性
んで,クジ引きと同じく,ある種の快感をもたらすのが「手触り」です。
例えば,梱包材のプチプチを潰したりするのは結構楽しいじゃないですか。あの楽しさは「たまに気持ちよくプチッと潰れる当たりハズレ」のクジ引き要素と「プチプチという手触りの快感」から生み出されているものです。
携帯ブラウザ型のソシャゲでは,技術的に出来る事が少なかったので,とにかく5キー押してたらアイテムなりユニットなりが手に入る,というゲームが多かったのはご存じのとおりです。しかし,さすがに作業感がハンパないので,複数のタイトルを遊ぶようになると,プレイヤー側も飽きて付いてこなくなります。
そこで進化して,今では,ただのクジ引きでも,うまい具合に“手触りを重視”して作られています。梱包材のプチプチの話で喩えるなら,潰す時の「さわり心地が良くなった」という感じでしょうか。
そもそも初期のソシャゲで,この手触りが削られていたのは,ハードウェアの限界,ブラウザゲームの限界,あるいは通勤通学中に遊べる程度のゲーム性が好まれていたからですが,スマホのネイティブアプリでは,ある程度これらの制約を回避でき,これまで削ってきた部分を改めて盛りつけ直すことが出来るようになったんですね。
かつてのゲームから一度捨てた部分を盛りなおす。
ある程度までダイエットしてから筋肉を付けた感じでしょうか。それゆえにかなりの破壊力を持っています。生粋のファイターにブン殴られたら,つい課金してしまいますよ。
ちなみに筆者の考える,現時点で最強の「手触り感付きクジ引き」はパチンコです。
1回のクジ引きが1秒かからず連続発生する高回転性といい,鉄球を打ち出す/それが跳ね回る感覚といい,ただのクジ引きのくせに演出コッテリ具合といい。さらに,“アタリの価値”を景品と交換できることといい,非常にコンチクショウです。
勝利の快感
次に「勝利」です。
中でも「他人に勝つ」快感は格別です。社会性の快感とも言いますが。レースゲームにしろ,格闘ゲームにしろ,人に勝つ/出し抜くというのは大変分かりやすい悦びでして。
人間は“社会性の動物”とも言われるくらい,社会的な勝利の快感には弱いです。勝つ快感を求めて生きていると言っても過言ではありません。仕事,恋愛,遊び,なんだって勝ち負けに置き換える事が出来ます。これは意識しようがしまいが,人間の心はそうなってるんだと,昔,偉い先生が言ってた気がします。
そして,勝った負けたはゲームのキモです。
お宝を奪い合うタイプのゲームは,そこに特化する事で一世を風靡しましたね。
クジ引きでアイテムやユニットを得て(足りないのなら課金ガチャで得て),対戦で勝とうというゲームシステムでした。
ただ,対戦には弱点があります。
100人の勝者がいれば100人の敗者が生まれるわけです。ゲームは勝つから楽しいのであって,負けてばかりではやめてしまいます。基本無料なら,なおさらです。
パッケージゲームで5000〜6000円払って買ってきたとかなら,まだ「元を取らないと」とプレイを続けるかもしれませんが,基本無料のゲームで負けっぱなしだと,続けるのは時間の無駄だと感じてしまうでしょう。ビジネス的に考えれば,敗者の離脱はバカに出来ないくらい大きなダメージになっていきます。
その点を昨今のソシャゲがどう克服しているかというと,直接対戦するのではなく,ポイントランキングなどの緩い対戦にシフトし,負けのストレスを軽減する方向で対処しています。最近多いですね,こういうゲーム。
負けると辞めたくなるのは,ほとんどの人に共通なので,対戦ゲームを作る時は「負けてしまった感」をいかに癒すか,いかに「次は勝てそうな気分」にするかが大事ですね。そもそも協力メインだとか,負けてる事に気がつかないようにするとか,そういう仕組みが発達してきています。自分も常に模索中です。
ちなみに最近ヒットしてるゲームは,ゆるい対戦もしくは協力のみで離脱を下げるか,ガチ対戦でやってる奴らが超ヒートアップして初心者ぶち殺しのおいてけぼりか,二分化してる気がします。
まぁただ,これはさじ加減の問題なので,初期に比べると随分と練り込まれてきました。未開の大地だったソシャゲ市場ですが,気が付いたらほとんどのルートが整備されてしまった感じです。それゆえ,今では一攫千金は狙いにくくなりましたし,競争も過当化していて大変です。
収集要素の構造
みんな大好きな「コレクション」要素です。これはあまり説明は要らないかもしれません。
人間はモノを集める事に快感を覚えます。狩猟の名残か農耕の蓄えのメタファーか。理由はさておき,コレクションには燃えるものがあります。大抵の人はコレクション要素を好みます。いや違うな。コレクション要素を入れておくことで,コレクション要素を好む人の離脱を防げる可能性が高くなります。……日本語はこれで正しいですかね?
ぶっちゃけ,自分はコレクションは面倒くさくて嫌いなモノグサ人間なので,コレクションとかやり込みと聞くと,尻込みしてしまうんですね。我ながら,面倒くさい客です。
あと「コレクション」は,課金と抜群に相性がいい。絵合わせとも相性がいい。相性はいいけど,絵合わせはもう駄目ヨ!
「ちょっとでもレアなユニットが欲しい」「あと1枚で揃う」とか,非常に分かりやすい欲求でしょう。課金構造とコレクション要素がなかなか切り離せないゆえんです。初期にいいユニットが手に入ったばっかりに,ズルズルとゲームに課金し続けたりしちゃうわけです。
商売として考えたとき,正直,「コレクション要素ゼロのゲームで稼げ」と言われても,あんまり良い手が思い浮かびません。
ソーシャル要素はやはり強い
これまで説明してきたように,「クジ引き」「手触り」「勝利」「コレクション」が,昨今のソーシャルゲームのコアとしては重要になっているわけですが,最後の大目的として「ソーシャル」要素があります。当然ながらこれが無いと,ソシャゲとは言えないわけです。
ソーシャル要素とはなにか。
簡単に言えば,友達同士の結びつきとかですね。そもそもソシャゲとは,SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)上で提供されるオンラインゲームを指していた言葉で,ユーザー間の社会的なつながりをゲームシステム内にうまく取り込んでいるゲーム,という位置づけでした。
あなたの友達はこんなゲームで遊んでます→ボタン一つで参加!
○○さんからゲームに招待されています→ボタン一つで参加!
黎明期のソシャゲは,こうした要素を用いてユーザー数を爆発させ,今現在の地位を築き上げました。
アーケードゲームが人を引き付けたのがそのマシンパワーによる体験であったように,コンシューマのRPGが美麗なムービーで人を惹きつけたように。ソーシャルゲームの誘引要素は,まさにソーシャル(社会性)であったわけですね。
前述したように,人間は社会性を持った動物なので,人に認められる事,人に勝つ事,人とつながる事に快感を覚えます。人の脳はそういう仕組みなんだからしかたがない。
思い返せばゲーセンにだってコミュニケーションがあったでしょう。コンシューマだって友達と今やってるゲームの話題で盛り上がったりしたハズです。
たいした絵が出ない,動きも無い,通信も遅い。そんな携帯のブラウザゲームで,誘引に何を使うかといえば,もうソーシャル,コレクション,クジ引き,勝利,ぐらいしかなかったんですね。で,そこに特化して進化したがゆえに大成したのが,初期のソシャゲ群でした。
そしてスマートフォンが登場し,端末がハイスペック化するにつれ,手触り部分が作り込めるようになり,最近のパズドラのような作品の登場へとつながっていくわけです。
ただ一方で,必ずしも「SNS上の」という但し書きが通用しないのも,最近のソシャゲの特徴でしょうか。なぜなら,プレイヤーも割りと“ソーシャル疲れ”をしてきたようで,濃いつながりを持たざるを得ないゲームは一息ついた印象です。自分も,ギルドバトルで毎日定時にログインを強要されるゲームなどは,なかなかについて行けなくなりました。
今は,無言でフレンドになり,無言のままフレンドメリットを互いに享受するタイプのゲームのほうが市場で強いと感じています。そう,ソーシャル疲れしたプレイヤーさえも,やっぱりソーシャルで捕まえてるわけですね。
なにこのソーシャル地獄。
かつてのネットゲーム(Ultima Onlineとかですね)は,ある種“祭りへの参加”に近い遊びだったわけですが,最近のネット&ソーシャルゲームは,賑わった祭りに一人で行って,なんとなく見て回ったり夜店で買い物したりして,ふと気が付くと他の人も買い物してるのに気づく……ぐらいの精神的距離感のものが増えました。
濃密な人間関係に疲れているが,一人で遊ぶのは嫌。ただ賑わいに触れていたいだけ,みたいな欲求に応えているわけですね。実際,自分のような非リア充だと,これぐらいのソーシャル濃度の方が遊びやすかったりします。
しかしこれも,最近はまた変わりつつあるようです。例えば,勢力拡大中のLINEゲームでは,実際の友達とほぼリアルタイムで遊ぶものや,プッシュ通信でランキングが高頻度に伝えられて競い合うといった,短時間プレイに特化しつつも“コッテリしたソーシャル要素”が盛り込まれた作品が増えて来ました。リアルな知り合いが主体となるLINEのコミュニティでは,そうしたコッテリ系が生きてくるのかもしれません。コッテリソーシャルも場所を変えてまた盛りあがるのでしょうか。
ソシャゲのこれから。
そんなわけで。今回は,今稼げてる,そしてそろそろ飽和してきたタイプのソシャゲについて解説してみました。特別なオチはないので,後は各自で考えてください。
え,結局ソーシャルゲームはどうなっていくのか,ですか?
まぁ私個人の感触で適当に語るならば,まず国内2強プラットフォームであるMobageとGREEは,スマートフォンへの移行が進むにつれて,影響力は低下していく印象です。
というのも,携帯ブラウザゲームが主体だった時代は,大量のユーザー数,そこから来るゲームへの誘引力,決済システムなど,プラットフォームとしての魅力がたくさんありました。
しかし,スマートフォンにはそれぞれApp StoreやGoogle Playなどの基盤がありますから,相対的にMobageやGREEの価値は下がることになります。プラットフォームの取り分を宣伝費と割り切るほどの集客が見込めるかは,タイトルによってかなり異なるでしょう。
また先程,LINEにもちょっとだけ触れましたが,あれは韓国で人気のカカオトークの成功をなぞっていて,いろいろなメリットをガッチリ模倣。商売としては,かなり手堅い印象です。
「LINEPOP」なんかは,日に何千万と稼ぐと言われていますが,あれも「Anipang」(ああいうゲームが韓国のカカオトークでヒットしている)の成功をなぞったものです。
ちなみに国内のLINE市場は,女性がとても多いとも聞きます。無料通話で集客した事が効いてるのでしょう。やたらめったら成人女性ユーザーが多いという,いままでにない珍しい市場です。しかし参入したい会社は多々あれど,なかなか参入させてくれないようですが。
ソシャゲ界隈,動きが激しいですね。
今は過渡期ですから,いろいろな動きがゴンゴンあるわけですが,それにしたって変化が凄まじいです。ちょっと前は,コンシューマからFree to Playへの過渡期だなんだと騒いでいたのに,あっという間にそれも過去の話となりつつあります。怖いですね。
ただ,こういったプラットフォーム/パワーバランスの移行時期というのは,ヒドイ事も発生しますが,ホームランを打つチャンスでもあります。個人的には,ワクワク見守りたいと思ってます。
傍観者的にはこの混乱を楽しみたい。当事者(作る方)としては,どっかに美味しい仕事が転がってねーかなと(;_;)
そんな感じです。では今回はこの辺で!
■■島国大和■■ 有名ゲーム系Blog「島国大和のド畜生」の管理人で,不景気の波にもがく,正体はそっとしておいてほしいゲーム開発者。先日,「ゲームシステムは普遍的な価値を持ち得るのではないかとか思ってたけど,青臭かった。あれもぶっちゃけ時代の要請で求められるものが変わる」とつぶやいていた島国氏。確かに……ゲームのシステムってある種の“発明”だし,そのシステムに載っかる形でさまざまなテーマのゲームが作られるから,ゲームシステムこそ普遍!と思っていた時期が僕にもありました。だけど,10年,20年という長いスパンで考えてみると,実はシステムの方こそが時代に合わせて変化していく部分で,根本的なニーズの根っこ(冒険したい!みたいなテーマ)の方は割と普遍的だったりするんですよね。ただ,その話を受けて「表現したいものに合わせて,システム選べると良いんですけど,今売れてるシステムはこれだからこれの隣接で!みたいな企画しか通しにくい昨今(;_;) 」とも語っていた島国氏。なかなか難しいですねぇ。 |
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