インタビュー
グリー米国子会社のアンドリュー・シェパード氏にインタビュー。同氏の考える“海外展開に重要なこと”とは?
同氏はKabam在任中に,「Kingdoms of Camelot」「The Hobbit:Kingdoms of Middle-earth」「Dragons of Atlantis」といったモバイルゲームをリリース。中でも,人気映画を題材とした「The Hobbit:Kingdoms of Middle-earth」は16か国語で提供され,約2000万人のユーザーを獲得した。またKabamの前には,みなさんご存じエレクトロニック・アーツ(以下,EA)に在籍しており,Free-to-Play(以下,F2P)をEAに浸透させた人物であるとも言われている。
今回,そんな実績を持つ同氏が来日。アンドリュー・シェパード氏とはどんな人物で,海外展開に対してどのような考え方を持っているのか,短い時間ではあったものの,貴重な話を聞くことができたので,その模様をお届けしよう。
4Gamer:
本日は,よろしくお願い致します。まずはお約束ですが,アンドリューさんの経歴を伺ってもよろしいでしょうか。
ゲーム業界に入ったのは約10年前で,そのうちF2Pのタイトルに関わっているのが約7年間ですね。北米市場で考えると,F2Pに関わっている期間は長いほうですよねきっと。
ゲーム業界以前には,投資銀行,経営コンサルティングなど,企業向けサービスの会社に勤めていたのですが,元々ゲームが好きだったこともあり,スタートアップに参加することでこの業界に足を踏み入れました。その後,ふとした縁からEAに入り,Kabamを経て,グリーに務めることになりました。
4Gamer:
なるほど。EA,Kabamと海外でずっと働かれていたようですが,もしや日本に来たのは初めてですか?
アンドリュー氏:
いえ,実は日本で生まれました。
4Gamer:
なんと!
アンドリュー氏:
……これ,秘密ですよ(笑)。
4Gamer:
いやあ,ネットで写真をお見かけしたときに「きっとアジア系の人だな」とは思ってたんですが。
アンドリュー氏:
髪も黒いですからね。
4Gamer:
ちなみに,生まれは日本のどちらですか?
東京都内であることは間違いないのですが,若い頃に母親が亡くなったので,詳しいことは覚えていません。残念ながら日本語を覚える機会もありませんでしたし。
4Gamer:
ということは,幼い頃から向こう(海外)で生活されたんですね。小さいころはどんな感じの子供だったんですか。
アンドリュー氏:
かなりのゲーマーでしたね(笑)。この業界に惹かれたのも,子供の頃から任天堂やセガのコンソールゲームを遊んでいたことが大きく影響しています。私は,子供の頃に感じた感動や幸せな気持ちを,もっと多くの人に感じてもらいたいと思い,この業界に足を踏み入れました。
しかし,私がこの業界に入った当時はパッケージ販売が主流で,どれだけ良いゲームを作っても,届けられない人が少なからずいました。そこで,どうすればもっと多くの人に,ビジネスとして成り立ったままゲームの楽しさを届けられるのかを考えた結果,F2Pにたどり着いたのです。
4Gamer:
EAにF2Pに浸透させたのもアンドリューさんだと聞きました。
アンドリュー氏:
そうですね。EAのF2P人員はいくつかの世代に分かれているんですが,現在は……第3世代かな? 私は第2世代に属します。マクシス(代表作は「シムシティ」など)というデベロッパーが開発したPC向けタイトル「SPORE」に携わっていました。
4Gamer:
SPORE! 懐かしい。
アンドリュー氏:
この時に,初めて開発会社と密に連携を取るという経験をしたのですが,「SPORE」では課金システムがうまくフィットせず悩まされました。そこで,別の市場のマネタイズについて調べてみたところ,アジア市場でF2Pが盛んであることに気付き,まさに目から鱗が落ちるほどの衝撃を受けました。
そして,アジアの課金モデルを参考に,従来のパッケージ販売から,デモ&エクスパンション(無料体験版)に移行し,さらにその後,F2Pへと移行していったのです。
4Gamer:
EAにものすごい実績を残したわけですね。
……これはすごく個人的な見解なんですが,あなたほどの知識や経験がある人は,グリーではなくもっと小さな企業に属して,それを大きくしていってほしかったですね。大きい会社をより大きくするのではなく(笑)。
アンドリュー氏:
なるほど(笑)。そう言ってもらえると光栄です。ただ,私が属するGREE Internationalは,グリーという大企業の中の小さな企業の一つにすぎません。そのため,小さな企業を大きくする,という点では,同じ意味合いを持つのかもしれませんよ。
また,欧米と日本のユーザーでは求めるものが異なるので,グリーの持つF2Pの知識やノウハウなどをうまく欧米の市場にフィットさせ,GREE Internationalのスケールアップに貢献できればと思います。
4Gamer:
欧米と日本のユーザーでは求めるものが異なるとのことですが,グリーが海外展開に苦戦しているのもそこに起因する感じですか?
アンドリュー氏:
いや,単に経験が足りなかったのかな,と思いますね。大前提として,グローバルな事業展開というものは,グリーに限らずどの企業であっても,もの凄く難しいことです。また世界で競争するにあたって,自分達の文化とは異なる環境の中で仕事をすることは難しいですが,とても重要なことです。
グリーの中で,海外展開に成功しているといえるサンフランシスコの拠点は,非常に優秀な人材が,安定した環境でゲームの開発/運営をしており,現地にあった文化で仕事をしているというのが大きな強みですね。
4Gamer:
なるほど。
アンドリュー氏:
それと,グローバル展開でもっとも避けなければならないのは,始めたものを途中で諦めてしまうことですね。正直,何がヒットするか誰にも分からない業界なので,何かしらの成果を生み出すまでは継続すべきだと思います。
そうした点で今のグリーは,国際的なビジネス経験が豊かで広い視野を持った経営陣が多く,ちゃんとしたベースがあるので,もう少し経験を積めば世界でも戦える企業になると思います。
4Gamer:
今後は,アンドリューさんもそこに絡んでいくということですか?
まだ始まったばかりなのでハッキリとは分かりませんが,これからは機会があれば積極的に絡んでいきたいと考えています。グリーとGREE Internationalは,それぞれ自立的な組織運営をしていますが,今後はもっと知識や経験などを共有していけたらなと。
4Gamer:
……ふとした疑問なのですが,それほどの経歴を持っていて,あなたの人生の次のステージとして,なぜ日本の企業を選んだんでしょうか。
アンドリュー氏:
そうですね……。
ゲーム開発においては,適切な人材を集めて,そのチームをどこまで進化させられるか/育成できるかという,ことが重要であると考えています。そしてグリーは,人材や資金,ノウハウなど事業規模がかなりハイレベルで,私の考える“次世代のモバイルゲーム”を作るための土台が整っている企業だったからです。
4Gamer:
“次世代のモバイルゲーム”がきましたね。この非常に変化の早い業界の中で,各社それを血眼になって探しているものと思いますが,アンドリューさんの考える“それ”はどういったものなのでしょうか。少しだけでもヒントがあれば教えてもらえませんか。
みんな今,今後は何が売れるのか,どこにリソースをかければいいのかを必死に考えていますよね。ある企業では美しいグラフィックスを,ある企業では高いアクション性を重視するなど,いろいろな方向性があるでしょう。日本では,今後もフルネイティブのモバイルゲームが主流になることは変わらないと思います。
私の得意な海外で言うならば,システムデザインが大きく変化していく可能性が高いと思います。EAやアクティビジョンのタイトルをベースとした,リッチなモバイルゲームが増えてきていることは確かですが,まだまだモバイルゲームに最適化されているとは言いがたく,改善の余地があります。
国ごとに目を向けると,「パズル&ドラゴンズ」「Clash of Clans」など,その土地土地に素晴らしい作品がありますが,PC向けMMORPG「World of Warcraft」のような,世界的に浸透している作品は,まだまだまだ少ないですよね。
4Gamer:
確かに。日本のデベロッパー達も,ワールドワイドに打って出る方法を考えているようですが,海外で成功するのはなかなか難しいことなので,どう動けばいいのか分からないようです。あなたから見て,海外へ打って出るにはどこに気を遣うべきだと思いますか。
アンドリュー氏:
個人的な考えですが,ゲームデザイナーが実際のプレイヤーの横に座って,そのプレイ様子をじっくりと観察するべきだと思います。とてもシンプルなことですが,どこがうまくいっていて,うまくいっていないのかを肌で感じることができますよ。なので実際に現地に行って,その国の人がどういった遊び方をしているのかというのをよく観察することも重要でしょうか。
また中国など,ハードルが高いと言われている市場では,現地の市場をよく理解しているパートナーを見つけることがポイントになるかもしれません。
4Gamer:
なるほど。では,さまざまな国のゲームを見てきたアンドリューさんから見て,日本のデベロッパーの強みはなんだと思いますか。
アンドリュー氏:
日本人は非常に細かいところまで気にするという特性があり,そのプロダクトを高いクオリティに昇華させることにこだわりますよね。やはり結果を残しているだけあって,「パズル&ドラゴンズ」などは細部まで非常に強いこだわりを感じます。
4Gamer:
欧州はどうでしょう。
アンドリュー氏:
欧州に目を向けると,やはりモバイルゲーム開発に長く携わっているSupercellが目立ちます。ここも細部にまでこだわり抜く傾向があり,中でもUI(ユーザーインタフェース)とUX(ユーザーエクスペリエンス)はすばらしいの一言です。世界全体の市場の約半分を欧州が占めていると言われているので,ローカライズに特化した企業も少なくないですし。
あとゲームのテイストで言えば,大きな市場に展開しやすい大衆受けの良いものだけでなく,ドイツのボードゲームのようなニッチでハードコアなゲームもかなりあります。
4Gamer:
日本のデベロッパーのいいところは,細かい点までこだわるところとのことですが,あまりにも細かすぎて理解されなかったり,面倒で嫌われたり,そういった点が海外展開にあたって足かせになることはないのでしょうか。
アンドリュー氏:
確かにそれはあると思いますよ。過去には,ある日本の大手ゲームメーカーの説明書が分厚すぎて,「小説のようだ」と欧米で揶揄されたことがあるなど,欧米の人は長い前置きが苦手です。
モバイルゲームで言えば,日本のゲームはチュートリアルが長くなりがちなので,途中で投げ出してしまう人も多いでしょう。アメリカでいうFPSのような,現地に浸透しているジャンルであれば,チュートリアルはほとんどなくてもいいかもしれません。ゲームは面白いのに,チュートリアルで離脱されてしまうというのは,非常にもったいないですからね。ただ,ハードコアなゲームであれば長くても問題ないとも思います。
4Gamer:
そうなんですよね。チュートリアルの長いものが未だに多く作られているのは,日本人の気質もあると思いますが,過去に成功しているタイトルを踏襲している部分も大きいと思うんです。
あとメーカーさんがKPIばかり気にしすぎで,似たような作品が増えすぎてたりとか。
あぁ……(笑)。
まぁ真面目な話をすると,個人的には,KPIというのは「良い物をもっと良い物にするための素材」だと思います。KPIばかり見ていると,同じような作品ばかりになってしまい,プレイヤーに驚きを与えることはできなくなってしまうでしょう。かといって,突飛すぎると嫌悪されてしまいます。
なので,何か新しいものでありつつも馴染みのあるもの,というのがポイントになると思います。そこにたどり着くのに必要なのはKPIではなく,プレイヤーが何を望んでいるか,それを理解することがもっとも重要であると私は考えます。
4Gamer:
なるほど。そういった意味では,「ずっと遊べるゲームがほしい」というプレイヤーの願いから,現在のモバイルゲームで主流となっている“終わりがないもの”が増えたのかもしれませんね。
しかし,個人で使える時間が有限である以上,“終わりのないもの”が増えたおかげで,なかなか新しいタイトルが台頭するのが難しくなっているのも事実ですよね。
アンドリュー氏:
その通りだと思います。その点で考えれば,それを解消できた作品が次世代のモバイルゲームになる可能性がありますね。モバイルゲームは隙間時間に遊べるものとして一気に拡大し,ゲームユーザーの人口を飛躍的に増加させました。そして現在,各社が競争しているのは,ユーザーの財布のシェアではなく,ユーザーの時間のシェアにあると思います。
そのため,もう少し時間を有効にするタイトル……そうですね,バックグラウンドで遊べる放置系のゲームなどにはもっと可能性があるのではないでしょうか。
4Gamer:
確かに,今遊んでいるゲームを辞めずに新しいゲームを始められますよね。
さて,あまりお時間もないようなので……最後に,今後の展望を聞かせてください。
アンドリュー氏:
グリーのモバイルゲームがフルネイティブへ移行していくことは,ハッキリしています。強化するための取り組みが進んでいて,リソース的にも,ネイティブプロダクトに関わる人数を500名まで増やしています。これからも人数は増えていくでしょう。
Wright Flyer Studios,ポケラボなどを筆頭に,海外の各スタジオでも新しいタイトルに取り組んでおり,これからどんどんユニークなゲームが出てくると思いますので,楽しみにしていて下さい。
4Gamer:
本日はどうもありがとうがとうございました。
グリー公式サイト
GREE International Official Site
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