インタビュー
この5年で数倍に。「TapTap」はいつの間にやら,中国ゲームプラットフォーム業界のトップ層に躍り出ていた
TapTapとはつまるところ“Google経済圏ではない国のGoogle Play”のようなものだ。同じくTencentやBaiduなどの名だたる大手もプラットフォーマーとして参入し,しのぎを削っている。
言ってしまえば,どこが中国版Google Playになるか。誰がApp Storeと並び立つのかの争いとも言える。iOS / Androidともにトップが定着しきった日本では,もはや目にもできない競争だろう。
知ってのとおり,ここ数年は海外はおろか国内の行き来すら不自由だった。けれど,時勢がようやく見せた落ち着きが,久しぶりに中国のゲームショウ「ChinaJoy 2023」(CJ2023)までの航路を開けた。
そこで今回は,久々ということで,TapTapがこの5年でどれほど変わっているのかを現地で聞かせてもらうことにした。
お相手は,TapTapのブランドディレクターのLisa(李依飒)氏。
結論から言うと,数倍のユーザー成長があった。
中国版「TapTap」
「TapTap international」
変わったり守ったり。大きくなることの大変さ
4Gamer:
TapTapには5年前,別の者が話を聞かせてもらったんです。
Lisa氏:
そうなんですね。そのときもChinaJoyの会場で?
4Gamer:
いえ,上海の御社オフィスだったようで(下記記事を見せつつ)。
Lisa氏:
ああ,うちの初代社長に(笑)。
※当時のTapTap代表であった黄希威氏は会社を離れ,現在はAIアプリ「Hayo AI」をサービス中のNicetalkを立ち上げた
コミュニティ+アプリ配信+メディア=「TapTap」。中国スマホ界の急成長プラットフォームは,このあとどこへ向かうのか
日本においては,アプリ配信プラットフォームは事実上Google PlayとApp Storeの2つしかないが,中国には,それこそ星の数ほどある。その中から最近頭角を現しているのが,今回紹介する「TapTap」だ。
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4Gamer:
これを参考に,TapTapの5年前と今を比較したいなと思いまして。
Lisa氏:
なるほど。分かりました。
4Gamer:
ではあらためて,よろしくお願いします。
まずはDAU(デイリーアクティブユーザー)について。5年前は200万人だったとのことですが,現在はいかがでしょう。
Lisa氏:
今はMAU(マンスリーアクティブユーザー)のデータしか公表していませんが,最新のデータだとMAUは「4843万人」です。
4Gamer:
4843万人。直接的な比較はできませんが,成長していそうですね。
Lisa氏:
プラットフォームの登録者数も,5億人を超えています。
4Gamer:
えっと,中国の総人口が約14億人だから……だいたい35%。
ゲームユーザー人口で絞ったら,割合もさらに高まりそうな。
Lisa氏:
昨今の実情としても,中国でモバイルゲームを遊ばれるユーザーさんの大半は,今ではTapTapを利用してくれているかと思います。
※「中国ゲーム産業報告((中国游戏产业报告))」2022年のデータでは,“同年の中国のモバイルゲームユーザー数は約6億5400万人に達する”とのこと。単純計算だと7割〜8割のカバー率とも言えてしまう
4Gamer:
今一度ですが,TapTapとはどんなプラットフォームなんでしょう。
Lisa氏:
基本的な機能は,アプリを探して,見つけて,ダウンロードできるゲーム配信プラットフォームとなります。
大きな特徴は「フォーラム(掲示板)」の存在です。利用者は気になるトピックを発信したり,開発者はコミュニティスペースとして活用したりと,双方向で交流できるようになっています。
4Gamer:
機能面も進化していますか。
Lisa氏:
Webサイト版もアプリ版も日々のフィードバックを通じて,より使いやすく改修してきました。5年前とはデザインも違いますね。
見た目の目標としては,利用者の皆さんに「ひと目でメインビジュアルやゲーム画面をハッキリと伝えること」を重視しました。
4Gamer:
文章や説明より,画像重視のファーストインプレッションを届ける現代的スタイルですね。デザインもシンプルでとても見やすい。
Lisa氏:
それと単純に,協力メーカーさんの数も大幅に増加しましたね。
4Gamer:
それって,中国市場の何割をカバーしているのでしょう。
Lisa氏:
うーん。アプリは星の数ほどあるので,具体的な算出はできませんが,現状でも市場の50%以上のゲームは取り扱えているかなと。
4Gamer:
すごいですね。それとTapTapは当初,インディーゲーム界隈を盛り上げるために設立されたとのことですが,ここ数年で変化はありますか。
Lisa氏:
結論から言うと,変化しています。
おっしゃるとおり,TapTapは当初インディーゲームに注力して「ほかのところが取り上げない,本当におもしろいゲームを紹介したい」という方針でやっていました。しかし,当時の中国インディーゲーム市場は規模も勢いもまだまだで。競合他社の存在も大きな壁となっていました。
そのうち多くの利用者に支持していただけるようになったのもあって,「より幅広いゲームを取り扱おう」とあらためたんです。
4Gamer:
それで,メインストリームの人気ゲーム系もそろえたと。
Lisa氏:
ついでに「レコメンド」(※)のあり方も変えています。
※サイト利用者のアクセス履歴などに基づき,興味のありそうなコンテンツを表示させる。いわゆる「おススメ」
4Gamer:
というと,どんな感じに。
Lisa氏:
以前はスタッフの感性で,自信を持っておすすめできるタイトルを押し出していました。ですが,現在はビッグデータを用いて,利用者ごとに「おすすめタイトル&ワード」を自動表示させています。
それでもTapTapは設立から7年,パブリッシャやデベロッパの人気への忖度はいっさいしていません。今でも「本当におもしろいゲーム」だけを,利用者さんたちに届けたいという思いで運用しています。
それが,TapTapの最大の強みですからね。
4Gamer:
ちなみに,現在はインディーゲームの概念も複雑化……というより,形骸化というべきか,測れなくなったというべきか。個人ではなくメーカーが作ったものでもインディのくくりになっています。
こうした昨今のインディーゲームの定義は,どう見ていますか。
Lisa氏:
今のインディーゲームは定義があいまいになってきているので,TapTapとしては“三つの条件”で審査するようになりました。
一つ目は,有償サービスを目当てとするのではなく「ゲームプレイ」に重きが置かれているか。二つ目は,「個人もしくは少人数で制作」されているか。そして三つ目は,「ゲームコンテンツやアップデートが市場に影響されていないか」。例えばTencentのような大手会社の傘下でも,影響を受けず自分たちの好きなゲームを作っているかという意味です。
4Gamer:
資本問題については,前回も同じ質問をさせてもらいましたが。
TapTapはプラットフォーマーでありつつ,ゲーム会社関連では「XDとの関わりが深い」「NetEaseの資金が混じっている」。けれど,平等で公平で客観的な運用方針だから,外圧は受け入れないと決めている。
そのスタンスはやはり,今も変わりはないと?
Lisa氏:
変わりはないです。ゲーム会社から口出しされることもありませんし,もし言われても折れることはないです。それがTapTapですので。
ただ,以前は広告の設計に問題があり,そこだけは見直しました。
4Gamer:
気になる話ですね。
Lisa氏:
当時のTapTapは,利用者数が伸びると同時に「提供していた広告枠」の取り合いが激しくなっていました。そのころは大手の力関係がそのまま出稿割合に直結していたのと,単純に私たちの収益性もあまりよくはなかったため,広告のあり方を全面的に見直したんです。
その結果,今はこうした「ネイティブ広告」(※)に切り替えました。これは利用者さんの日々の検索体験を損なわないよう,あまり違和感を持たせず,広告が溶け込む見た目を求めてのことです。
※Webサイト内の記事・動画コンテンツなどの一覧に溶け込んだ広告・表示方法。日本では2023年10月1日から「ステルスマーケティング規制法」が施行。[PR]や[AD]の表記が法律で必須に(これまでは義務)
4Gamer:
広告業界は日々精進ですもんね。結果はどうでしたか。
Lisa氏:
従来よりも幅広いクライアントに入稿してもらえています。
同時に,資金が潤沢ではないインディーゲーム開発者の方々にも,より気軽に利用してもらえる仕組みになりました。
今は「広告をクリックしたら(主な広告)費用が発生する」ので,クライアント側でコストをコントロールしやすいんですよね。
4Gamer:
ああ。インプレッション(広告を見たら)ではなく,エンゲージメント(広告に触れたら)ありきの設計なんでしょうねえ。
Lisa氏:
ただ,性表現や暴力表現の審査はより厳しくなりましたが。
4Gamer:
例えば,このCJ会場。どこを歩いても「肌面積の多い美少女キャラ」をほとんど見ません。もとからその傾向はあったとはいえ,風潮も本格的に変わったのかなと。あるいは国の規制問題だったりとか?
Lisa氏:
そこに関しては,規制といった影響ではないですね。
中国のゲーム市場では単純に,セクシーなキャラクターが人気になりづらいのもそうですし,求められる属性も変わったんです。
4Gamer:
では,今はどんな感じのキャラが人気に?
Lisa氏:
クールなキャラですねえ。世界観も影響するかも。Hypergryphの「アークナイツ」(※)などが例として分かりやすいでしょうか。
※同作は,日本ではYostarが配信。開発および中国配信はHypergryph。なお,この翌週には事前登録者数400万人を引っさげ,中国版「ブルーアーカイブ」が配信開始となった。この影響については次の機会にでも
4Gamer:
そういう。miHoYoなどはどうです? 本拠地での人気は。
Lisa氏:
とても人気ですよ。会場内の「崩壊:スターレイル」単独ブースを見ていただくと分かるとおり,バリエーション豊かなキャラクターがとくに人気です。日本でもそこかしこで広告を見ませんか?
4Gamer:
つまり,同じような温度感っぽいですね(笑)。
[CJ2023]「崩壊:スターレイル」ブースに巨大星穹列車。採点銃などのリアル“奇物”展示や写真投稿企画に人が群がる
中国のゲームショウ・ChinaJoy 2023に,HoYoverseのスペースファンタジーRPG「崩壊:スターレイル」のブースが出展されていた。会場では新情報の発表はなかったものの,タイトル単独での出展という意気込みに,来場者たちが応えていた。
4Gamer:
フォーラムの活用傾向はどうでしょう。ユーザー数の増加に伴い,利用数が増えた,減った。あるいは言葉づかいが変化したりとか。
Lisa氏:
中国では未成年者によるゲームへの課金が法律で制限されているのもあり(※),基本的に「20代のユーザー」が中心です。
そしてフォーラムにおける言葉づかいは,良くも悪くも「ストレートでハッキリした発言」が多くなってきた印象です。現代的なネットユーザーと同じく,婉曲的な会話表現を使わない感じの。
大まかな制限(参考サイト)
(2023年8月の平均レートでは,1元=約20円)
・8歳以下の未成年者:課金サービスを提供しない
・8〜16歳未満の未成年者:1回あたりの課金額は50元以内,毎月の課金額は200元以内
・16〜18歳未満の未成年者(中国では18歳で成年):1回あたりの課金額は100元以内,毎月の課金額は400元以内
※中国の国家インターネット情報弁公室(CAC)は8月2日,新たに「未成年者によるデジタル機器の利用時間制限」の規制案も発表した
4Gamer:
そこも世界共通ですかねえ。言い換えると,分かりやすく罵詈雑言もあるのでしょうし。まあ。昔はよかったとも言いきれませんが。
Lisa氏:
そのうえでプラットフォームとしてはやはり,もっと建設的なコメントを通じて交流してもらいたいと考えてきました。
そのため現在は,フォーラムにも新システムを導入しています。
4Gamer:
どういったものなんでしょう。
Lisa氏:
例えば語気の荒い人がいるとして,その人の発言もブロックまではしませんが,フォーラム内では「優良なコメントを優先表示」するようにし,「口が荒いコメントの表示優先度を下げる」ようにしました。
これにより,有用なアドバイスコメントなどがより見やすく,残りやすくなり,コミュニティへの安心感が増したんです。
4Gamer:
原理的にはX(旧Twitter)の方向性に近そうですね。あとフォーラムの活用例には,話し合い以外の事例とかもあるんですか。
Lisa氏:
ありますね。一例としてはこちら。最近は毎日3000万人のプレイヤーが遊んでいるという,NetEaseの「Eggy Party」では,公式フォーラム内でミッション形式のプレゼント企画を実施しました。
4Gamer:
これは,TapTapにアクセスするともらえるんですか?
Lisa氏:
そうです。TapTapに毎日ログインして,報酬ボードをタップすると,連動するアプリでゲーム内アイテムがプレゼントされます。
[CJ2023]毎日3000万人と運動会。「エギーパーティー」はNetEaseが送り出した,今世代のドタバタ系パーティーゲーム
中国のゲームショウ・ChinaJoy 2023で,NetEase Gamesはスマホ向けパーティーゲーム「エギーパーティー(Eggy Party)」のプレイアブルを出展した。本作は“毎日3000万人が遊んでいる”という,協力&敵対ありのドタバタ運動会だ。
4Gamer:
いろいろな進化や変化が見えてきましたが。
TapTapはこの5年で,スタンスも変わったと言えるのでしょうか。
Lisa氏:
まず設立当初と比べると,運営面も資金面も人材面も,ありとあらゆることが変わりました。それらは利用者の方向をしっかりと見据えてきたからこその変化でしたが,方針もやはり,大きく変わりました。
4Gamer:
内情は酸いも甘いもあったでしょうし,このお祭りの場では聞きませんが。そうした方針転換のとき,社内の舵取りはスムーズで?
Lisa氏:
いくつか,難しい課題があったのは事実です……(笑)。
業務のあり方にしろ,現在のビッグデータ利用に移行する前は,スタッフたちがおもしろいゲームを探し,おすすめすることを中心としていました。ですが,今の膨大な利用者数を前にそれは困難です。
それでいてビッグデータの有効活用にもまだ技術的問題があり,最適化しきれていないので,解決すべき課題はまだまだ多いです。
4Gamer:
これは,企業の大方針の前ではささやかな話かもしれませんが。
「おもしろいゲームをおすすめする」という作業に,ある種のポリシーを抱いていたような専門スタッフが気落ちしていたりは?
Lisa氏:
ああ,実はそうしたおすすめコンテンツ自体は,TapTapの旗艦機能とは言いづらくなりましたが,まだ健在ではあるんです。
ゲームの検索画面では「ビッグデータ活用のおすすめワード」がファーストビューで表示されますが,ちゃんと「TapTapおすすめタブ」も2種類あって,今でも私たちなりの姿勢をちゃんと見せています。
4Gamer:
それはなによりで。そういえば,5年前に海外進出の展望が話されていましたが,現在はどうですか。海外版TapTapも出ましたよね。
Lisa氏:
近年は,北米(英語)に向けた海外版「TapTap international」をスタートしています。けっこう順調です。
4Gamer:
お決まりの質問で恐縮ですが,日本版は?
Lisa氏:
そこが私たちには,いろいろ難しい課題でして……(笑)。
まず,アジア圏において日本と韓国のゲームユーザーは明確に成熟していて,「毎日ゲームを探す人」が多数派ではありません。そこに参入してもTapTapの強みを生かしづらく,それに言語の問題もあってと。
4Gamer:
代弁しますが,日本語もハングルも“せまい”ですしね。
Lisa氏:
私たちの母国語である中国語(簡体字)は当然としても,その次の母数を考えると,やはり英語が優先になってしまいます。
4Gamer:
ただ,日本のゲームメディアとしては「TapTap Presents」(TapTap主催の新作ゲーム発表会)で,TapTapに触れる機会が増えました。
あれで海外展開のスタンスが見えていたんですよね。
Lisa氏:
よかったです。TapTap Presentsは以前からやっていましたが,昨年から海外展開の一環として“英語字幕版”を同時配信しています。
こうした取り組みがこれから先で実を結び,将来的にもっと多くの人たちの注目を集められるようになれば,うれしいです。
4Gamer:
TapTapは今後も,なにか大きいイベントをやっていきますか。
Lisa氏:
むしろ,今後のTapTap Presentsは一大イベントとして巨大化させていくのではなく,方向性としては“もっと小さく,小分けに”を目指そうかと話し合っています。ゲームユーザーにもゲーム開発者にも機会の数を提供し,より目につきやすくなればという発想です。
それと今後は専用アプリを使い,発表したゲームの試遊版に気軽に触れてもらうシステムをお届けしていきます。次のTapTap Presentsではぜひ「体験もできる発表会」を楽しんでみてください。
4Gamer:
催しの大規模化より,利用者の充実を選ぶ。そう聞こえた気がします。形は変われど,TapTapはまだまだいろんなものをつなげようとしているんでしょうね。それでメディア領域まで脅かされると困りものですが,今後もプラットフォームとしての動向,注目しております。
本日はどうも,シエシエ。
Lisa氏:
アリガトー。
中国版「TapTap」
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