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[SPIEL’17]日本サブカルテイスト満載なボードゲーム「Tsukuyumi: Full Moon Down」と,ドイツのインディーズ・ボードゲーム事情
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印刷2017/11/02 16:27

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[SPIEL’17]日本サブカルテイスト満載なボードゲーム「Tsukuyumi: Full Moon Down」と,ドイツのインディーズ・ボードゲーム事情

 日本のゲームマーケットでは,個人制作のボードゲーム(=インディーズ・ボードゲーム)が数多く出展されるが,それはSPIELでも変わらない。
 会場入口近くの1ホールや3ホールには大手デベロッパやパブリッシャによる大型ブースが軒を連ねているが,やや奥まったところにある7ホール・8ホールといったエリアでは,ドイツ(および世界)のさまざまなインディーズ・ボードゲームが試遊できる。

 ドイツ人のFelix Mertikat氏が作った「Tsukuyumi: Full Moon Down」もまた,そんなインディーズ作品のひとつだ。
 本稿では,Kickstarterで目標となる3万6000ユーロ(約476万円)の倍以上の投資を集めたこの作品の概要を紹介しよう。また,Mertikat氏にはドイツにおけるインディーズ・ボードゲームの現状も聞いてみたので,あわせて読んでほしい。

「Tsukuyumi」の特製ゲームボード。このジオラマはファンが作ってくれたそうだ
画像集 No.001のサムネイル画像 / [SPIEL’17]日本サブカルテイスト満載なボードゲーム「Tsukuyumi: Full Moon Down」と,ドイツのインディーズ・ボードゲーム事情

「Tsukuyumi: Full Moon Down」Kickstarterページ



ポスト・アポカリプスの世界で地球の覇権を争う


 「Tsukuyumi: Full Moon Down」(以下,Tsukuyumi)は,3〜5人(4人が最適)でプレイするボードゲームだ。各プレイヤーは荒廃した地球におけるさまざまな勢力のリーダーとなり,地球の支配権を巡って争う。担当する勢力ごとに扱うユニットの性能や種類はまるで異なっているため,競争は必然的に非対称的なものとなる。

一般的なゲームボードはこんな感じ
画像集 No.002のサムネイル画像 / [SPIEL’17]日本サブカルテイスト満載なボードゲーム「Tsukuyumi: Full Moon Down」と,ドイツのインディーズ・ボードゲーム事情

 ゲームとして見たときの「Tsukuyumi」最大の特徴は,5つの個性的な陣営による非対称的な競争ということになるだろう。用意されている陣営は以下のとおり。

The Nomads:元米軍の兵士たち。拠点となるのは荒野に打ち上げられた米海軍の空母だ。

The Boarlords:知性を持ったイノシシ。人類の駆逐を企んでおり,テラフォーミングにより生息域の拡張を狙う。

The CyberSamurai:人工衛星からのレーザー爆撃やスーパーコンピューター,AIなどを駆使して戦う日本産のサイボーグ戦士。

The Dark Seed:世界の変化にともなって急激に進化した昆虫。圧倒的な繁殖力をもとに,その数で他の勢力を圧倒しようとする。

The KampfGruppe03:竜殺しのジークフリートやゲオルギウスの精神的後継者として邪竜を倒すべく巨大ロボットを駆る元ドイツの人々。

サイバーサムライのコマ。Kickstarterでの販売バージョンもこれと同じものになる
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Nomadsの兵士たち
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 なんというか,実に良い感じに厨二スピリッツが充填された人々(ないし生物たち)である。

 また,完全に運の要素が排除されているというのも大きな特徴だ。「Tsukuyumi」は原則としてカードプレイでゲームが進行するが,例えばほかの陣営を攻撃するのであれば,その攻撃による効果はカードに書かれている通りに結果が確定している。
 一方で,そのカードの下半分には「攻撃を受けたプレイヤーにとっての選択肢」が書かれている。そして攻撃された側は,その攻撃によって発生する副作用を,自分で選べるのだ。

 このようにプレイヤーそのものをランダマイザーとすることで,「Tsukuyumi」は運の要素を排除しつつ,先の見えない展開を確保しているというわけだ(もっともカードはドラフトによって獲得するので,完璧に運の要素が排除されているとは言い切れない)。

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アクションカード。言語依存性は高め
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攻撃カード。上半分に書かれたことが発生し,下の4つの選択肢から防御側プレイヤーが効果を選択する

 ちなみに,一般的にはゲームは3〜4ターン(1ターンは3フェイズ)で決着し,だいたい2時間〜3時間で1ゲームが終わるという。つまり1ターンあたり1時間というところだろう。重いか軽いかで言えば重い方だが,制作者いわく「ルールは10分で理解できるくらいに簡単」だという。
 本当に10分でルールが理解できるかはともかく,ルール説明から入って1日2プレイが可能な範囲であり,超重量級というほどではなさそうだ。

試遊卓は3卓あり,ほぼ常に満席だった
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 「Tsukuyumi」のもうひとつの大きな特徴は,その世界観だろう。以下,そのストーリーを簡単に解説しよう。

 太古の時代,白竜たる月読尊(=Tsukuyumi)は月に封印され,宇宙へと隔離された。

 だが2078年に日本は封印された月読尊を倒すべく,月に戦士たちを送り込む。この戦いは失敗に終わり,月読尊は覚醒。そして月をともなって地上へと帰還することになった。

 月とともに地上に降りてきた月読尊は,太平洋を蒸発させ,大陸を引き裂いた。これによって人類は一瞬にしてほぼすべてが死に絶え,いまや絶滅の危機に瀕するに至っている。

 その一方で,神(=月読尊)の影響により,DNAレベルでの急激な進化と適応があちこちで発生した。これによって野生の生物や昆虫たちが知性を持ち,地球を支配すべく活動を開始したのだ。


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サイバーサムライのコスプレ
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ポスターも気合が入っている

 ……とまあ,こちらも実にいい感じに厨二スピリッツが横溢している。実際,Mertikat氏は「AKIRAや攻殻機動隊が大好き」ということだ。またドイツでもこれらの漫画やアニメは若者に人気があり,そういう側面からも「Tsukuyumi」は強い支持を集めたようだ。


コミック。勢力ごとに1つずつある
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ドイツにおけるインディーズ・ボードゲーム事情


 さて,実に3年をかけて「Tsukuyumi」を完成させたMertikat氏に,ドイツのインディーズ・ボードゲーム事情について聞いてみた。

4Gamer:
 日本にはゲームマーケットというイベントがあり,インディーズのボードゲームを購入する大きなチャンスとなっています。ドイツではどうでしょうか。

Mertikat氏:
 ドイツでインディーズのボードゲームを作って売るというのは,とても大変です。作るところまではいいのですが,売るという段階になると,非常に難しいんですよ。
 現状では,ドイツのインディーズ・ボードゲームは,その告知・広報の手段がほぼ完全にインターネットに依存しています。とくにKickstarterは,告知手段にして販売網でもある,というのが現状ですね。

Felix Mertikat氏。ちなみにゲーム内のイラストもMertikat氏が担当。ここにも天が二物を与えた系の人が……
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4Gamer:
 では,ドイツでインディーズのボードゲームを作ってる人は少ないのでしょうか。

Mertikat氏:
 いえ,そんなことはありません。むしろ非常に多いと言うべきでしょう。これはあくまで私見ですが,ドイツ人の2人に1人は自分のボードゲームを作ろうと思ったことがあるかと思います(笑)。
 それに遊ぶ側としても,大手デベロッパやパブリッシャの作品だけでなく,インディーズのゲームを遊んでみようというモチベーションは,それなりに強く存在していると感じています。
 ただ,繰り返しになりますが,作ったゲームを広く知ってもらおうとすると,困難が伴います。

4Gamer:
 インディーズのボードゲームを作るとなると,テストプレイなどが大変ですが,そういった環境はどうやって手に入れてるのですか。

Mertikat氏:
 ドイツ国内には,小さな街であっても,だいたい1つくらいはその地域でボードゲームを遊ぶコンベンション的なものがあります。ボードゲームクラブがあることも多いですね。
 そういった場所では,地域のボードゲームファンが毎週集まってゲームをしています。テストプレイの場としても理想ですね。また,「インディーズのボードゲーム作品では,あれが面白いらしい」みたいな情報が行き交うのも,概ねそのような場が中心となります。口コミですね。

4Gamer:
 ドイツにはボードゲームの専門店も多いかと思いますが,そういったお店でインディーズのボードゲームを扱ってもらうことはできないのでしょうか。

Mertikat氏:
 難しいです。ショップは基本的に保守的で,大手の作品を売ることを優先します。

4Gamer:
 「Tukuyumi」はKickstarterで資金を募り,成功しています。すでにゲームとしては完成しているようなので,これは「大量生産するための資金調達」ですよね。

Mertikat氏:
 その通りです。私たちのようなインディーズのボードゲーム制作者は,基本的に自分のお財布だけでゲームを完成させる形になりますね。
 資金を募るのは,あくまで複数のパッケージを作るためのものです。最初にゴールにしていた3万6000ユーロのうち,2万0000ユーロはボードの印刷代や木製のキューブを揃えるための費用となっています。

4Gamer:
 お話をうかがっていると,ボードゲーム大国であるドイツでも,インディーズでボードゲームを作って売るというのは,大変な仕事のように思えます。

Mertikat氏:
 そうですね,大変です。実際,「作ってみたい」人はたくさんいますし,「作った」人も多いんですよ。SPIEL会場の7ホールや8ホールを見ていただければ,そうやって「作った」人達の作品をいくつも見ることができます。
 でも結局,そうやって出展しても,自分の作ったゲームが思うようには売れてくれないんです。なので多くのインディーズ出展者は,1年か2年で「良い思い出になったね」と言ってSPIELから撤退するというのが一般的です。

 少なからぬドイツ人にとって,ボードゲームのデザイナーになって自分のボードゲームを世に問うというのは,大きな夢です。すごいボードゲームを作って,プロのデザイナーになるという夢は,間違いなくあるんですよ。
 ただ,ここドイツにおいても,プロのボードゲームデザイナーになって,それで食べていくというのは,とても難しいというのが実情ですね。

4Gamer:
 お忙しい中,どうもありがとうございました。

「Tsukuyumi: Full Moon Down」Kickstarterページ

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