業界動向
独身率は,男性24%で女性46%……? 中国ゲーム業界人の姿が垣間見える,「ゲーム業界で働く人の意識調査」が公開に
いろいろな資料を公開するTencent(テンセント)が,また興味深いレポートを発表した。曰く「ゲーム業界で働く人の意識調査」だ。4Gamerに限らずさまざまなメディアで,中国ゲーム業界のことが(良いものも悪いものも)報道されている昨今だが,実際に中国のゲーム業界の人がどういう人達なのかが報じられることは,あまりない。あったとしても,頭一つ突き抜けた人達(社長やプロデューサーなど)のことがほとんどで,現場の人達がどういう感じなのかはあまり伝わってこない。
そんな中,テンセントが出してきたこの資料は,とても興味深い。全部で26個もの表/グラフから成り,それを読むと中国ゲーム業界の一般社員の「像」がうっすらと分かる。むろんこれはテンセント社内のリサーチなので1社のものでしかないが,750名分のデータの集計なので,まったく意味のないデータというわけでもないだろう。
ゲーム業界で働く人の意識調査(別サイト)
さて,26個もの項目を全て抜き出すわけにもいかないので,興味のある人はぜひオリジナルのURLを参照してほしい。中国語が読めなくても「なんとなく」分かる部分もあるはずだ。ここでは,興味深いいくつかのデータを抽出して紹介したい。
まず最初に,750名のデータは,「開発」「企画」「運営」「デザイン」「マーケティング」……など各部署から割とまんべんなく回収されているので,職種による偏りは心配しなくてよさそうだ,ということを伝えておきたい。一方で,アンケートの選択肢を見ると気付くが,アンケートを作った人が,何か若干の意図を持ってバイアスをかけているような気もする。そこは少し差っ引いて見る必要がありそうだが,それを含めて考えても,なかなか興味深い資料となっている。
1)年齢/学歴
まず年齢分布。平均年齢は29歳強で,30歳以上が48.9%を占める。裏を返すと,半分は30歳未満だということだ。このうち36歳以上が10%しかいないのだが,これって日本のゲーム業界と比較してどうなんだろうか?
次に学歴。67%が大卒で,27%ほどが修士,0.5%が博士。全体の7%の人に留学経験があるとのこと。このやや高学歴寄りの構図は,テンセントに限らず中国ゲーム業界全体の話でもある。
中国のゲーム業界は一般的に給与が高いので,いわゆる高学歴者に大人気の職業となっているのはよく聞く話だ。留学経験も「7%か。思ったより少ないな」と一瞬思ったが,よく考えたら社員の7%に留学経験があるというのはまぁすごいこと……だろう。
2)男女比/既婚率など
普通はこういう設問が最初にありそうなものだが,このデータでは10ページ目。男性78%,女性22%という分布そのものに違和感はないが,その次の独身率で「男性24.5%」「女性46.4%」という数字が書かれているのが,ちょっと目を引く。女性の独身率が男性の倍近い……。
その次には「独身である理由」というアンケート項目もあるのだが,
・自分の好きなように生活を楽しんでいるから 男性53.2%,女性46.8%
・仕事が忙しくてそんな余裕がないから 男性73.7%,女性26.3%
などが並んでいる。「経済的条件が厳しいから」という理由は男性100%なのがなかなか考えさせられるが,そもそも女性の独身率が高いのは,経済が回り出して先進国の仲間入りを果たしたがゆえの状況が浮き彫りになっているものともいえそうだ。
日本同様,若干の性差別が残っているとはいえ,中国の先端業界での男女の業務差や給与差は限りなく少なくなってきている。女性が一人で余裕を持って生活できるライフスタイルがすでに確立できているので(そのうえゲーム業界は,給与がほかより高いのだ),「別に結婚する必要ないじゃん」「ていうかそもそも面倒くさいし」「他人に生活を合わせるのはイヤ」のような意見はよく聞かれる。
さらに都心部での子育てコストが異様に高く,若者に子供を産み育てる気がなくなっているのは肌で感じるし,そういうこともあって結婚に必然性が感じられないというわけだ(農村部の出生率はまだまだ高い)。
中国の女性開発者同士が「オトコは2次元だけでいいし,老後は一緒に住もうね〜」と(半分冗談だろうが)言っているのを聞くと,どういう顔をしていいのか一瞬分からなくなるが,なるほど,中国もこういう方向になりつつあるのだなぁ,と妙に納得してしまう。
中国は3年前から一人っ子政策が緩和されて「二人」になっており,その二人っ子政策も撤廃が検討されているはずだが,その決断はまさに正しい。まぁそれでも出生率減少は止まらないし,いくら中国といえど,あと10年ほどで「人口減少」が始まることは予測されているのだ。
3)ゲームに対する社会的偏見
あれほどeスポーツが盛り上がっていて,あれほどPCゲームが普及していて,あれほど業界標準給与が高くて,スマホゲームが「老若男女誰もが遊んでいる娯楽」になっている国であっても,97.2%の人がゲーム業界に対して偏見を感じているという結果は,正直なところ驚きだった。
ほとんど100%,といってもいいレベルの数値だ……とここまで書いて気付いたが,このアンケートには「偏見がない」という選択肢がないので,若干のバイアスがかかっていることは否定できない。
しかし「業界に入ったときの周りの反応」という項目を見ても
・カネ儲けか…… 37.8%
・青少年に悪影響しかないよねえ 16.7%
・ちゃんとした仕事をしなさいよ 9.7%
など相当に手厳しい(ここにも「羨ましい」などのポジティブな選択肢はないのだが)。とはいえ「ゲームの仕事を家族は支持してくれるか」という問いに対しては,
・支持してくれる 49.8%
・気にしていない 41.6%
となっており,自分達の身の周りについては大丈夫そうだ。
4)クリエイティビティ
そしてこれは純然たる開発者向けの設問だ。「今の中国製ゲームのクリエイティビティについてはどう思うか」という設問に対して,
・非常に悪い 16.7%
・あまりよくない 44.7%
と,61.4%の人が「よくない」という回答をしている。ほかの選択肢は「悪くはない」と「普通」で37.9%で,「非常に良い」と答えた人は1%未満という結果になっている。しかしこのアンケートも「良い」という選択肢がないので,ちょっとバイアスかかってる気も……? とはいえ,ゲーム会社が自社の社員に対して行ったアンケートで,60%もの人が「中国のゲームにはクリエイティビティがない」という回答をしているのが,若干の驚きではある。
読者の皆さんがどう考えているかは分からないが,いまの中国ゲーム業界やゲームプレイヤー達は,我々が思っている以上に「パクり」に厳しいことがうかがえる(最近も,ゼルダのパクり騒ぎで大炎上した)。もちろん「おいおい」と言いたくなる作品はいまだに出ているし,名の知れたゲーム会社でも平気でそれをやることがあるし,そしてそれを許容する文化もまだ根強く残ってはいる。しかし全体的な流れとしては排除する方向性に向かっているし,排除派(?)の声そのものも,とても大きくなってきているのだ。
ゲーム大国/アニメ大国/二次元王国である日本のコンテンツを小さいころから見て育って,日本をリスペクトしてやまない今の中国ゲーム開発者達は,かつての自国の状況の反動なのか,一般的に言って模倣にとても厳しく,それがそのままアンケートの数値となって表れているようにも見える。
以上,興味深いところだけ抜き出してみたが,調査レポート全体はもっと長く,パラパラと見ているだけでもとても面白い。漢字で雰囲気を感じるだけでも,ぜひ見てみることをお勧めする。
ゲーム業界で働く人の意識調査(別サイト)
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