業界動向
ついに市場規模が6兆円に。さらなる躍進を遂げた2020年の中国ゲーム市場は,アメリカと日本が重要な2国に
「未成年保護法」や「ゲーム適齢提示」,App Storeからのタイトル大量削除など,2020年の中国ゲーム産業は波乱に富んだものだったが,産業白書のような数値情報が発表されたので,ダイジェストを報告しよう。
※以下はすべて,2021年1月5日のレート,1元=15.91円 1ドル=102.87円で計算している
2020年度まとめ
まずゲームユーザーの規模は,6.6億人を超えた。ゲームユーザー数だけで,日本の全国民数の5倍以上だ。中国の人口は約14億人なので,巨大な人口の半分近くの人が一度はゲームに触れたことがある……という計算になる。
その6.6億人による売り上げは,業界全体で2786.87億元(約4.43兆円)で,YoY+20.71%,成長率はYoY+13.05%となっている。むろん,海外市場での売り上げも引き続き著しい成長を遂げており,中国製ゲームの2020年度海外売り上げは,154.50億ドル(約1.59兆円)。YoY+33.25%で,成長率はYoY+12.3%だ。
それらを合わせると,2020年度の中国ゲーム市場全体の売り上げはおよそ6兆円ということになる。
成長から成熟へ。それでもまだ伸びる中国ゲーム市場全体の2019年の売り上げは4.7兆円。キーワードは「スマホゲーム」と「海外売り上げ」
中国だが,ゲーム市場では何がどれほど成長したのか。年初に公開された2019年の遊戯産業年度報告から,その概要を紹介しながら確認していこう。
2020年の中国ゲーム業界は,最新の「未成年保護法」での「ネットワーク保護(网络保护)」の条項に基づき※,ゲームでの実名登録システムをより強固なものにしてきた。そして,「ゲーム適齢提示」などの基準にも手が加えられ,フィックスされて,正式にテスト運行が始まっている。
※2020年10月17日中国の「未成年保護法」改訂案が採決された。ネットワークが生活と密接にかかわる時代になっている観点から,新たに「ネットワーク保護」という条項が加えられて2021年6月1日に正式発効となる。→外部サイト(中国語):《未成年人保护法》的网络时代品格ーー解读“网络保护”专章(「未成年保護法・ネットワーク保護」解読)
中国の「ゲーム適齢提示」の全貌。4種類に分けられた年齢層の,それぞれにおいて許されること,許されないこと
秋頃から日本でも話題にのぼり始めた,中国政府による「ゲーム適齢提示」だが,シンプルな年齢制限というわけでもなく,意外に複雑で全体像がつかみづらい。この基準策定の中心となった,人民網から入手した資料を翻訳して掲載しよう。
外部サイト(中国語):游戏工委:一图详解《网络游戏适龄提示》团体标准(「ゲーム適齢提示」詳細説明)
ゲーム産業の数字
前述のように,2020年中国ゲーム市場のユーザー規模は6.6億人。YoY+3.7%で,ゆっくりとはいえ安定的に成長している。それらのユーザーによる売り上げも前述の通りで,前年より478.1億元(約7606.57億円)増え,YoY+20.71%という,相変わらずの右肩上がりの成長を遂げている。
とくに高い成長を見せたのが中国製ゲームの“中国国内での売り上げ”で,これは2401.92億元(約3.82兆円)で,前年より+506.78億元(約8062.87億円)の,YoY+26.74%となっている。
つまり,
・中国ゲーム市場全体の売り上げは2786.87億元(約4.43兆円)
・中国製ゲームの中国国内での売り上げは2401.92億元(約3.82兆円)
なので,中国ゲーム市場での「中国製以外のゲームの売り上げ」は,計算上わずか384.95億元(約6100億円)しかないということになる。さまざまな理由から,海外の作品を中国国内でローンチさせるのは難しいが,それにしてもマーケットの規模を考えるとちょっと低すぎるのではないだろうか。
一方で中国製ゲームの,日本など海外での売り上げは154.5億ドル(約1.59兆円)で,前年より+38.55億ドル(約3965.64億円)のYoY+33.25%。こちらも成長の勢いはとどまるところを知らない。
中国タイトルの中での海外売り上げトップ100を見ると,一番多く稼いでいるのはシミュレーション(37.18%),これに続くのがFPS/TPS(17.97%)とRPG(11.35%)となっている。海外売り上げトップ100タイトルの全体売り上げの66.5%は,この3つのジャンルのどれかだ。
中国製ゲームが,海外各国でどれくらい売り上げているかを表した国別売り上げ割合グラフが以下だ。
アメリカが最も高く,全体の4分の1を超える27.55%がアメリカでの売り上げとなる。しかし,アメリカの40%ほどの人口しかいない日本が,アメリカと肩を並べそうな23.91%の売り上げを叩き出してこれに続いている(海外売り上げの数字から計算してみると,2020年1年間で日本のゲーマーが中国製ゲームに落とした金額は,約3801.7億円だ)。日本とアメリカだけで中国製ゲームの海外売り上げの半分を占めているわけだ。その次に来るのが韓国だが,上位2国からは相当かけはなれて,わずか8.81%という数字になっている。
以下,ダイジェストで項目別の数字を挙げておく。
市場別 | 売り上げ | 前年比 | 市場占有率 (2020/2019) |
---|---|---|---|
スマホゲーム | 2096.76億元 (約3.34兆円) |
+515.65億元 (約8203.83億円) |
75.2%/65.0% |
YoY+35.81% | |||
PCゲーム | 559.2億元 (約8896.87億円) |
ー55.94億元 (約890億円) |
20.1%/26.8% |
YoYー9.09% | |||
Webゲーム | 76.08億元 (約1209.96億円) |
ー22.61億元 (約359.73億円) |
2.7%/4.2% |
YoY−22.9% | |||
コンソールなどのその他 | - | - | 2.0%/4.1% |
・中国モバイルゲーム市場の現状
中国モバイルゲーム市場ユーザー規模は,6.54億人となり,前年比+4.84%と,ゲーム市場全体でのユーザー規模の成長率を超えている。
中国国内の売り上げトップ100タイトルの中で,ジャンルを売り上げ順に並べると,一番多いのがRPG(19.48%)で,それに続いてMOBA(15.28%),FPS/TPS(15.04%)などとなっている。一方で本数が多い順に並べると,RPG(28本),デジタルカードゲーム(16本),SLG(12本)となる。
その100タイトルのIPをチェックしてみると,一番多いのはオリジナルIP(36%)で,次は中国らしくPCオンラインゲームから(24%),以下は,小説など(9%),コンソールゲーム/オフラインPCゲーム(8%),モバイルゲーム(8%),コミック(7%),クラシック(5%),その他(3%)と続く。
・中国eスポーツ市場の規模
2020年の中国eスポーツ市場売り上げは1365.57億元(約2.17兆円)。これは前年+418.3億元(約6655.15億円)のYoY+44.16%,ユーザー規模は4.88億人になり,こちらはYoY+9.65%となる。
2021年の方向性
中国ゲーム産業の成長は規制との戦いでもあるわけだが,報告の最後に書かれている業界展望から見ると,今後は未成年者保護を,より深く広く推進していくことが既定路線であるようだ。しかしそれがどんどん進むことにより,コンテンツ制作側としてはやや窮屈になっていくことは容易に想像できる。
より広い制作体制,中国より少ないプラットフォーマーの取り分,少ないユーザー数ながらも高い消費金額……を誇る日本は,これまで以上に魅力的な市場と見られることとなり,日本への進出もさらに強力なものへとなっていくのだろう。そもそも中国政府も「文化の輸出」には比較的寛容なので,海外での影響力もいままで以上に高くなっていくと思われる。
ほんの10年前くらいまでは,日本やアメリカのIP頼みだった中国だが,いまではそれを必要とせず,昨今でもmiHoYoのオリジナルIP「原神」や,中国ファンタジー小説に基づくTencentの「コード:ドラゴンブラッド」などのように,オリジナルIPを引っさげて日本国内で勝負できる実力を身につけている。今後はさらに,オリジナル作品の創造に重点を置き,それをさらにハイクオリティな作品へとアップグレードすることで,中国製ゲームのコアな競争力を上げることにも注力するようだ。
また,政府の号令一つであらゆることが凄まじい速さで進む中国という国は,2021年もさらなる技術的な進歩が期待できる。クラウドゲーミングやVRを筆頭に,eスポーツなどをも含めた,新しいゲーム産業というものも発展していくのだろう。
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