インタビュー
「ARCADE1UP OutRun」発売記念,鈴木 裕氏インタビュー。名作「アウトラン」の開発当時や今後の予定,そして作ってみたいゲームを聞いた
専用シートに座り,ステアリングとシフトレバーを握り,ペダルを踏んで加速する。当時の感覚で「アウトラン」「ターボアウトラン」「アウトランナーズ」「パワードリフト」をプレイできる家庭向け筐体ゲーム機である※。
※本体ファームウェアのアップデートにより,「RAD RALLY」を追加できる
今回4Gamerでは,セガ在籍時に数々の「体感ゲーム」を手がけた鈴木 裕氏にインタビューをする機会を得た。アーケードゲーム業界に一大ムーブメントを巻き起こした“レジェンドクリエイター”に,開発当時のエピソードや近況,今後の目標について話を伺ってきたので紹介しよう。
「ARCADE1UP OutRun」商品紹介ページ
モナコで見かけた特注のフェラーリに魅了される
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。インタビューの直前に「ARCADE1UP OutRun」を遊んでいましたが,「アウトラン」をプレイするのは何年ぶりでしょうか。
鈴木 裕氏(以下,鈴木氏):
正確には覚えてないね(笑)。ここ20年くらいはプレイしていないんじゃないかな。
4Gamer:
誕生から30年以上経過しましたが,今も世界中のファンに愛されています。
鈴木氏:
やっぱり嬉しいですよ。「シェンムーIII」のプロモーションではヨーロッパのイベントにも参加しましたが,隣のブースにドライブゲームを作っている人がいて,「『アウトラン』に影響されて作るようになった」と話してくれたりするのを聞くと。
4Gamer:
「アウトラン」で育った世代の開発者が出てきているんですね。これまで家庭用ゲーム機には何度も移植されていますが,家庭向け筐体の感想はいかがでしょう。
鈴木氏:
筐体が小さくて可愛らしいね。アーケードの筐体とはずいぶん大きさが違うので,ちょっと縮こまって座ることになるんですけど,遊んでいる姿が可愛いでしょう(笑)。体の大きい人に限ってミニ・クーパーに乗りたがるみたいな,筐体のサイズに合わせて運転する感覚が面白いですよね。
4Gamer:
ハンドルの感触はどうでしたか。
鈴木氏:
「ああ,『アウトラン』てこうだったな」なんて,当時のいろいろなことを思い出しました。「ここはこう走るといい」と思っていたらクラッシュしてしまって,僕の記憶違いか,それとも腕が落ちたのかな(笑)。
4Gamer:
オリジナルの「アウトラン」は決して簡単なゲームではありませんでした。ステージによってはコースがタイトだったり,他の車がたくさん走っていたりして。
鈴木氏:
当時のアーケードゲームとして,「1日200プレイ」を目指していました。1日の稼働時間は実質10時間ですから,1ゲームを3分で回さないといけない。筐体の乗り降りにかかる時間も考慮すると,アベレージが2分40秒。それを基準に作っていましたね。
1ゲームの時間をさらに短縮して,なおかつ満足度を上げられると,もっとインカムが上がりますが,のちの「バーチャファイター」はその典型でした。
4Gamer:
1985年に初の体感ゲームとなる「ハングオン」,翌年に「アウトラン」がリリースされました。やはり「2輪の次は4輪」という流れだったのでしょうか。
鈴木氏:
そうですね。敵車を避けながら時間内にチェックポイントを目指して走る,あまりアップダウンのないコースといった,ゲームとしては共通する部分が多かった。僕自身,ずっとバイクに乗っていたので,車よりバイクのほうが好きなんですけど。「車はジャンプ後に方向を変えられないから,バイクのほうが好き」なんてことを当時,言っていた記憶があります(笑)。
4Gamer:
「アウトラン」ではフェラーリ テスタロッサをモチーフとした車を操縦します。どのような経緯で決まったのでしょうか。
鈴木氏:
それまでのドライブゲームは,車同士が接触すると爆発してしまうものが多かったんです。「アウトラン」のときは車同士が接触してもリカバリーが利くゲームを作りたくて。あまりシリアスではない大らかさを表現したかったんです。
イメージとしては映画「キャノンボール」ですね。ゲームを作るにあたって,映画と同様にアメリカ横断コースを実際に走る計画を立てたんですが,行程のほとんどが砂漠だということが判明したんです(笑)。
そこで取材先をヨーロッパに変更して,ドイツやスイス,イタリアを走りました。モナコ公国の公営カジノに立ち寄ったとき,真っ赤なフェラーリが停めてあったんですが,それが当時話題になっていたテスタロッサ。しかも,オープンカー仕様だった。
4Gamer:
ゲームと同じですね!
鈴木氏:
当時,テスタロッサのオープンカーはまだ存在していなかったと思います。オーナーが特注したのか,改造したのか,どちらかでしょう。それを見たときに,心から「カッコいい」と思ったんです。
細かなテクニックを駆使して,シリアスにタイムを削っていくタイプのゲームは作りたくなかったので,「これしかない!」と思いましたね。片手運転で横には金髪の美女,誰もがうらやむような最高の車。オープンのテスタロッサはイメージどおりでした。
4Gamer:
最高のシチュエーションですね。コースの背景にもヨーロッパのテイストが出ていました。
鈴木氏:
最初のコースは地中海沿岸のコート・ダジュールあたりのイメージかな。ドイツやスイスアルプスなどをモデルにしたコースもいいですよね。
4Gamer:
風車はオランダのイメージでしょうか。
鈴木氏:
いや,オランダには行ってなかったね。でも,風車はあったほうがいいと思って追加しました(笑)。プレイヤーを飽きさせないためには,たくさんのコースが必要ですが,取材先の地域だけでは足らなかったんです。
4Gamer:
現地取材のエピソードとして,ドイツのアウトバーンを200km/hで走ったという逸話がありますよね。
鈴木氏:
現地ではフェラーリを借りられたらベストだったんですが,借り方が分からない。ポルシェはなんとか借りられることになったんですが,それだと僕と石井さん(企画の石井洋児氏)のスーツケースが載らない。2シーターで後部にエンジンを積んでるから(笑)。
結局,BMW 520を借りて,サンルーフからカメラを出して撮影することができましたが,アクセルをベタ踏みしても200km/hが限界だったんです。それでも横を走るベンツにぶち抜かれましたね。運転席を見たら小柄なお婆ちゃんだったので,石井さんと2人で仰天しました(笑)。
4Gamer:
「速度無制限」の道路とはいえ,そんなに速いんですか!
鈴木氏:
とんでもなく速かったですね。当時,日本でBMWに乗ったときには,ブレーキに違和感があったんです。それがアウトバーンを200km/hで走ってブレーキをかけたときに,「ああ,こういうことなのか」という安心感のある減速ができて,スピードを実感しました。現在のBMWは日本の交通事情を研究しているので,もう違和感はありませんけど。なんだか自動車評論家みたいだね(笑)。
4Gamer:
自動車やバイクへのこだわりは,「X年後の関係者たち」(BS-TBS)に出演されたときにも話されていましたね(関連記事)。番組では「リアルな音を出すため,『ハングオン』の筐体に実物(エンジン)を積もう」という話も出ましたが,「アウトラン」ではそういったことはなかったんですか。
鈴木氏:
いろいろなことを試みはしましたが,セガには優秀なメカトロニクスの部隊がいますからね。「アウトラン」のときはメカトロからドライブゲーム用筐体の企画をもらって,そこに僕の企画を合わせました。筐体のモチーフがテスタロッサだったので,そのイメージを入れ込んでいます。車体の後ろ短い特有のスタイルを表現するために,筐体のタイヤを後ろにして,横にはフィンのモールドも入れてくれと頼みましたね。
4Gamer:
ゲームの車に合わせたわけですね。
鈴木氏:
あまり記憶が定かではないけど,「ハンドルを本物にしたい」と考えていたんじゃないかな。スポーツカーやレーシングカーに使われているMOMOのハンドルを,そのまま筐体に使いたかったんだけど,高いからダメだって。実物を参考にして,できるだけ大きさや触り心地が近いものを作りました。
筐体に乗る人には体格差があるので,ペダルや画面配置を調整しましたし,モーターの一軸の動きをどうすれば立体的に変換できるかといったところも,メカトロとずいぶん考えましたね。
テンポ150前後,8ビートの楽曲がドライブゲームにマッチする
4Gamer:
「アウトラン」と言えば,サウンドがすごく印象的なゲームでしたね。
「ハングオン」ではBGMとしてしっかりと曲を入れましたが,ドライブゲームである「アウトラン」はノリのいい曲にしようと思っていました。
当時の感覚ではテンポ150前後,8ビートの曲がドライブゲームにぴったりで,アクセルを踏みたくなるんです。ヴァン・ヘイレンの「パナマ」や「西部警察」のカーチェイスに流れるBGMもそうですね(笑)。こうしたイメージとゲームの内容を合わせて,ちょっとおしゃれなフュージョン系,16ビートの曲にして,テンポ150前後をキープして作ったんです。
4Gamer:
メインBGMを3曲から,気分や好みで選べるというのも画期的でした。
鈴木氏:
そこはドライブゲームですからね。そういえば「Passing Breeze」は当初,「過ぎゆく風」という意味を込めて「Passing Wind」というタイトルだったんですよ。それだと英語では“おなら”の意味になると聞いて,急きょタイトルを変えました。セガ・オブ・アメリカのチェックを受けて良かった(笑)。
4Gamer:
危ないところでした(笑)。
鈴木氏:
「アウトラン」の基板には最新型サウンドチップを搭載したので,FM音源が強化されて,同時発声できる音も増えました。前年の「ハングオン」より,さらに良くなったんです。PCM音源でがっつりデータを作れるほどのメモリ容量はなかったので,FM音源にしてデータ量を減らす,当時ならではの作り方です。スピーカーもちゃんとボックスを用意して,音が反響するようにしたんですよね。
4Gamer:
開発当時から海外展開を想定していたのでしょうか。
鈴木氏:
僕の作品は最初からワールドワイド展開を見越して,海外でも受け入れられる色使いなどを意識していました。国内向けのタイトルは中間色で表現することが多いのですが,カリフォルニアやコート・ダジュールのイメージにはクッキリした色使いがマッチします。ダイナミックレンジをできるだけ広く取って,こってりと色を乗せていました。
4Gamer:
確かに,裕さんの作品は明るいイメージが多いですね。「バーチャファイター」のジャッキーステージでは,抜けるような青い空が印象的でした。
鈴木氏:
色使いはもちろん,見たときに分かりやすいものを目指していたところはあります。説明に時間がかかるゲームではインカムも落ちてしまうし,文章をローカライズするのにも費用がかかりますからね。
コインオペレーションゲームのいいところは,コインを入れたら気軽に遊べるところです。楽しければ何度も遊ぶ,自分に合わなければ違うゲームで遊ぶわけですから,第一印象が重要であることは常に意識していました。
4Gamer:
「ARCADE1UP OutRun」には,1988年にリリースした「パワードリフト」も収録されています。
「パワードリフト」は通信対戦の技術がメインテーマのタイトルでした。ラグのない通信対戦を実現するためのアプリケーションなんてない時代ですから,あらゆる仕様を自分たちで全部決めて,最大8台で通信できるようにしたんです。
4Gamer:
「パワードリフト」はオフロードレースになりましたね。
鈴木氏:
富士山の林道をバイクでよく走っていて,ヒルクライムもやっていたので,オフロードはそのイメージでした。実は当時,一番作りたかったのがパリ・ダカール・ラリーをモチーフにしたドライブゲームだったんですが,マーケットの需要はオンロードのほうが高かったですね。
「パワードリフト」はオフロードではありますが,通信対戦に重きを置いて,レースゲームの特色を明確にしました。
4Gamer:
オフロードのバイクゲームも作りたかったのでしょうか。
鈴木氏:
もちろん,作りたかったですね。今から作る元気はちょっとないかもしれませんが……最近はスクーターにしか乗ってないですし(笑)。
4Gamer:
近年のレースゲームは目覚ましい進化を遂げていますが,どのようにご覧になっていますか。
鈴木氏:
すごい表現力ですよね。最新ゲーム機の映像を見ても,実写と見間違うクオリティがありますから。映像や音がここまで極まってくると,それが勝負どころにはならなくなり,最終的には「遊んで楽しいか」が重要になりますよ。
僕の作ったものでは「F355チャレンジ」だけがシミュレーターであり,そのほかはゲームなんです。「ゲーム自体がどう面白いか」というところが,評価の対象になっていくでしょうね。
次の「シェンムー」があるならば,広く受け入れられるものを
4Gamer:
裕さんの現在のプロジェクトをお伺いしてもいいですか。
鈴木氏:
今も作っていますよ,ゲームを。今年中に何かしらの発表ができると思いますので,その際はよろしくお願いします。
4Gamer:
それは楽しみです! ご自身が好きなものをテーマにしている作品なんでしょうか。
鈴木氏:
僕が好きなものをストレートに反映したのは「F355チャレンジ」だけですよ。ほとんどの作品は自分の好きなものと言うより,需要やテーマに向けて挑戦してきたので,今も昔も題材を選り好みすることはないんです。
ジャンルやプラットフォームには特別こだわらずに作ってきたので,何にするかが決まればそこに向かって一生懸命作る。その気持ちはずっと変わってないかもしれません。
4Gamer:
直近では「シェンムーIII」をリリースされましたが,次回作の構想はあるのでしょうか。
チャンスがあればやりたいですよ。「シェンムーIII」は長年,応援してくれているファンの方々に支えられて完成させることができました。だから,内容の95%はその方々に向けて全力で作っています。
それゆえ,コアファンの満足度はある程度高いところにあるのですが,かつての「シェンムー」を知らない人にはしんどいところがあったと自覚しています。「シェンムー」はちょっと不便なところを楽しむゲームでしたから,近年のオープンワールドゲームの親切丁寧なゲームシステムに慣れている人には戸惑いがあったようです。
もし次があるとすれば,コアファンだけでなく,新しいユーザーのために作ってみたいですね。これまで僕を応援してくれたファンの皆さんは,新たに「シェンムー」のファンになってくれる人を迎えるために,僕がいろいろなチャレンジをすることも応援してくれると思います。
4Gamer:
「シェンムー」のファンは,すごく温かい印象です。
鈴木氏:
本当にありがたいです。ファンの方には「僕がやりたい『シェンムー』は,裕さんが作りたい『シェンムー』です」と言っていただきました。次回作があるならば,「シェンムー」を知らない人がストレスを感じることなく,「シェンムー」らしさに触れられるものを作りたいですね。
4Gamer:
2019年の東京ゲームショウでは,興味のある分野としてVRと答えています(関連記事)。現在もそれは変わらないのでしょうか。
鈴木氏:
興味自体はあるのですが,現在手がけているものはVRとは違う分野ですね。今回,VRとは対照的な「ARCADE1UP OutRun」の取材だったわけですが,こういうものに触れると,現在のゲームは本当にリアリティがすごくて,それだけ複雑になったことを実感します。手前味噌ですけど,「アウトラン」はすごく分かりやすい(笑)。
ある意味,ソフトは形のないものなので,手に取って触れられる筐体はとてもいいですね。日本でも結構売れているんでしょう?
4Gamer:
昨年の初回販売分は早々に完売したそうです。
鈴木氏:
当時のゲームセンターで「アウトラン」を遊んだ方には,シートに座ってハンドルを握ってほしいですね。僕と同じように,昔の思い出が蘇ってくると思います。気軽に筐体で遊べるのはとても楽しいですよ。
4Gamer:
最近では大型筐体だけでなく,多数のゲームを収録したミニ筐体もたくさん出ていますね。
鈴木氏:
あれも良かったですね。小さいサイズに何十本のゲームが詰まっているのは夢がありますよ。
「アストロシティミニ」には「バーチャファイター」や「スペースハリアー」も収録されていました。
鈴木氏:
その2本も「ARCADE1UP」サイズで作ってくれないかな(笑)。とくに「スペースハリアー」は続編を作ってみたいですね。依頼があればすぐ作ります。セガさんに伝えておいてください(笑)。
4Gamer:
わかりました(笑)。本日はありがとうございました。
「ARCADE1UP OutRun」商品紹介ページ
4Gamerでは,「ARCADE1UP OutRun」を1名様にプレゼントします。3月13日掲載のWeekly 4Gamerにて応募受付を行っているので,以下のリンクから記事をチェックしてください。
4Gamerの1週間を振り返る「Weekly 4Gamer」,2022年3月6日〜3月12日
約3億3000万年前のタコの祖先の化石が大統領の名前にちなんだ「シリプシモポディ・バイデニ」と名付けられた2022年3月6日〜3月12日,4Gamerに掲載された記事は641本でした。「State of Play」の配信が行われ,多数の新情報であふれかえった4Gamerの1週間を振り返らずにはいられません。
(C)Ys Net Original Game(C)SEGA Published 2019 by Deep Silver, a Division of Koch Media GmbH, Austria.
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