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[GDC 2022]ゲーム開発者が自身の“しくじり”を語る「Failure Workshop」が今年も開催。失敗から学ぶ,ゲーム作りで大切なこと
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印刷2022/03/24 19:13

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[GDC 2022]ゲーム開発者が自身の“しくじり”を語る「Failure Workshop」が今年も開催。失敗から学ぶ,ゲーム作りで大切なこと

画像集#001のサムネイル/[GDC 2022]ゲーム開発者が自身の“しくじり”を語る「Failure Workshop」が今年も開催。失敗から学ぶ,ゲーム作りで大切なこと
 「Game Developers Conference 2022」(GDC 2022)の2日目(日本時間2022年3月23日),ゲーム開発者が自分自身の“しくじり”を語る講演「INDEPENDENT GAMES SUMMIT: THE 2022 FAILURE WORKSHOP」が行われた。

 ゲーム開発に関する失敗談を当事者自らが面白おかしく語り,失敗事例をインディーズゲームコミュニティ全体に共有するというFAILURE WORKSHOPは,「このようにして成功した」「こうすればヒットする」といった成功談が語られることが多いGDCの中でも珍しく,そして貴重なテーマを持つセッションだ。4GamerでもGDC 2018やGDC 2021でそのレポートを掲載しているように(関連記事12),GDCのIndependent Games Summitにおける定番になっている。

 2022年のセッションに登壇した開発者は4人。「失敗した話」をしにきている人だけあって,社名もゲームの名前もあまり知られていない人たちではあるが,その一つ一つがなかなか考えさせられるものがあった。

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GDC 2022公式サイト



見通しの甘いまま,軌道修正できず突き進んだ結果……


画像集#002のサムネイル/[GDC 2022]ゲーム開発者が自身の“しくじり”を語る「Failure Workshop」が今年も開催。失敗から学ぶ,ゲーム作りで大切なこと
 アルゼンチン出身のゲームデザイナーであるAdrián Novell氏が,決して安くはない旅費を工面して渡米し,初めてGDCに乗り込んだのは2015年。その前年に3人の仲間たちとUnityで開発を始めた2Dプラットフォームアクション「SkyRider & the Journey」のプロトタイプを売り込むためだった。
 「SkyRider & the Journey」は,プレイヤーキャラクターと,足場を作ったり障害物を壊したりできるドローンの両方を操作してさまざまな障害を乗り越えていくというゲームで,アルゼンチンのゲームイベントで好評を得たという。この作品の開発をフルタイムで行えるよう,パブリッシャを見つけるためにGDC 2015にやってきたのだ。

 しかし,その考えは甘かった。プロトタイプのデモは25分もあり,ビジネスミーティングでプレイしてもらうには長すぎたのだ。さらに,ゲームが高難度過ぎて途中で投げ出す人が続出し,思い描いていたような評価を得られなかったという。
 アポの相手もいなくなった最終日には,会場内で通りすがりの人に声を掛けてみたものの(ちなみに,こういった人はそこまで珍しくなく,GDCの会場では時折見かける),「想定しているゲームのプレイ時間は?」「オンラインモードはあるの?」といった質問に答えられず,それも失敗に終わった。そもそも楽観的な印象のある渡米計画ではあるが,簡単な質問にも答えられないほど企画の練り自体が甘かったわけだ。

 その後,なんとか知り合った人の手を借りることができたものの,“企画の練り”といったそのあたりの問題点の軌道修正することもないままKickstarterでクラウドファンディングを開始。結果それは失敗に終わった。
 2016年に入ると,資金繰りの悪化からチーム内の雰囲気も悪くなったとのことで,Novell氏曰く「7か月間,誰も声を掛け合わなかった」ような状況に追い込まれたという。
 2017年に入ると仲直りして士気を高め,同国では著名な女優にボイスを提供してもらうという契約を結んだが,結局はその年のうちに自身の生活自体も困窮し,ゲーム開発は断念せざるを得なくなった。
 「誰かの言葉の受け売りだけど,ゲームを開発するということは“ゲーム開発”のほんの一部分でしかなかったのです。失敗は,次に成功するために布石にもなり得ます」と,この経験談を締めたNovell氏は,現在はゲームデザイナーとしてElectronic Artsに籍を置いている。

こちらはGDC 2015の会場で声を掛けていたときの写真。こういった,インディー開発者があてもなく自分のゲームをアピールしている風景は,GDCのような開発者向けイベントの“あるある”でもある
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大道芸人はオーケストラで笛を吹けない


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 Stellar Cartography Interactiveというインディ開発チームを率いるIdo Yehieli氏は,12年ほど前から地元ドイツのインディシーンで活動してきた人物だ。2012年に,「Indie Buskers」という名のゲームジャム(即興でゲーム作りを競い合うイベント)を仲間たちと開催。6人のメンバーで構成される5つのチームが週末にゲーム制作を競い,その様子をストリーミングするという内容の同イベントは,ドイツを中心に多くの視聴者を獲得したという。
 さらにそのイベントでは,Pay What You Want(金額自由)でゲームを販売し,それは2日で作った“未完成なデモ版”ながらも予期せぬ利益を生むものとなり,2度の開催で1万ドルを超える収入が舞い込んだ。それに気をよくしたYehieli氏とその仲間たちは,そのゲームを完成させるべく会社を立ち上げることになったという。
 「2日でできたデモ版がこれだけ売れたのなら,3か月もあればヒット作を完成させられる」と意気込んだ Yehieli氏たちの作品は,「パックマン」にタワーディフェンス要素を組み込んだような「Pakkyman’s Defense」というゲームだった。

Yehieli氏と仲間たちが制作した「Pakkyman’s Defense」。……こう言ってはなんだが,ビジュアルとそのタイトル名からもちょっと“アレ”な雰囲気は漂っている
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 メニューやインタフェースを整え,パワーアップアイテムや防御施設のタイプを増やし,ゲーム内のヘルプ機能も用意。iOSやAndroid,さらにはBlackberry向けに移植も行い,“インディ開発チームとしてできることは,本当に3か月ほどでやってしまった”という。
 しかし,ふたを開けてみると「Pakkyman’s Defense」の売り上げは2万円ほど。500円で売ったとして40本ほどという,寂しい結果に終わった。Yehieli氏はその反省点として,「ゲームジャムでは実況が注目されたのであって,ゲーム自体の注目ではなく,そもそも製品版にするようなアイデアではなかったということ。Bunkers(大道芸人)が,いきなりオーケストラに参加できるわけはないのです」と,どこか切ない言葉で締めくくっていた。

「Pakkyman’s Defense」での反省点を踏まえ(?),現在は「Wagon Train to the Stars」という新作を開発中であるという
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こだわりがある分,引くに引けず……


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 2021年2月にSteamでリリースされたストラテジーゲーム「Gem Wizards Tactics」が高い評価を得ているKeith Burgun氏は,ポッドキャストやYouTubeなどにも活動の場を広げ,さらには著書もあるほどゲームデザインに情熱を注ぎ続けてきた個人のゲーム開発者だ。そんな彼には,Steamでの販売を自主的に停止し,自身の経歴からも“抹消”したゲームがあるという。

 それは,2018年にリリースされた「Escape the Omnochronom」。“一人で遊べるローグライクなDota”を目指したというその作品は,今も確認できるYouTubeやSNSで画像や映像を見ると,アートやグラフィックスはなかなかの雰囲気でかなり出来栄えが良さそうに感じる。Burgun氏も当初は自信のある作品だったようで,ファンイベントを開いてアートコンペ行ったり,Tシャツを販売したり,知り合いのつてでコミック化したりと,かなり手広い展開をしていたという。また,それらを一人で仕切っていたというから,作品への熱量はかなりのものだ。

アートコンテストにグッズ,デジタルコミックスと,それらの展開からはかなりの自信が感じられるが……
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 もっとも,「Escape the Omnochronom」自体は何度となくゲームデザインの見直しがなされていたようで,最初はタイルの上をスライディングしていくようなゲーム性だったものが,ターン制になったり,クリック移動になったりといった変化が常にあったようだ。それらの変化は,何度もマップを往復しなければならないMOBAがベースにあるぶん相性は悪かったらしく,半端ないクリック量を求められるそのシステムに,Burgun氏自身が「遊びたくないゲームだ」と思うようになったという。

 その,Burgun氏自身の感覚は間違えていなかった。情熱は冷め,初期に行っていたようなプロモーションを行わないままKickstarterでのクラウドファンディングを始めるものの,当然のようにそれは失敗する。「(Escape the Omnochronomは)私の野望を詰め込んだ作品だったけど,それまでに注ぎ込んできた時間があれば,ほかのゲームを3〜4本は作れたかも知れない」と本作の反省点を語ったBurgun氏。自分自身に確固たるゲームデザイン論があり,それが実証できなかったことで早々に見切りをつけられたように思えるが,こだわりを詰めたぶん,諦められなかった部分があったのか,もっと早くに判断できたと感じているようだ。
 実際,「あれほどのゲームであれば,個人制作にこだわらずにチームでゲーム開発を行うべきだった」とも語り,どこか名残惜しそうな一面も覗かせていた。

最初のバージョンからゲームデザインを見直していくうち,引くに引けない状態に……。思ったような形にならないことが分かり,引き際を見極められなかったことを反省したようだ
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成功の前に考えるべき“心と身体の健康”


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 カナダのオンタリオ州と言えば,ゲーム開発者向けの潤沢な助成金があることで,世界中のインディデベロッパからは羨望の眼差しで見られる地域である。過去に,その州都であるトロントで5年ほど活動していたのが,Mighty Yell Studiosを率いるDave Proctor氏。自分のスタジオを経営しながら学校に通い,ゲームデザインに関する学位を得るなど,とにかく恵まれた環境に身を置きながらゲーム開発を行っていたという。

 そのとき制作していたのが,2021年8月にリリースされた「The Big Con」。1990年代のアメリカを舞台に,主人公である“皮肉屋の高校生”のアリを操作し,変装したり,他人の会話を盗み聞きしたりしながらお金を集めていくというアドベンチャーゲームだ。小麦色の肌にターコイズカラーの髪をなびかせた独特のアートワークを観たことがあるというインディーズゲームファンもいるのではないだろうか。

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 実際,このゲームに対する評価は非常に高く,発売前からIndependent Game FestivalやTribecca Festival,Canadian Game Awardといった数々のアワードにノミネートされていた。Skybound Gamesがパブリッシャに決まり,「APEX Legends」のヴァルキリー役などで知られる日系アメリカ人声優のエリカ・イシイ(Erika Ishii)さんがキャスティングされ,ゲーム自体のメタクリティックもスコアは現在(2022年3月時点)でも77点を獲得している。

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 ここまで聞くと「なにが“失敗”なのだろう?」と感じるかと思うが,なんと本作,前評判からは想像できない,残念なセールス結果に終わった作品なのだという。
 発売前から高い評価を受けていたため,失敗するという考えはなかったというProctor氏は,まさかの結果に打ちのめされたような気分になったそうだ。「経済的に失敗した場合どうなるかを,しっかり予想していなかったこと」を反省点として振り返ったProctor氏は,さらにこのとき気付かされたという“ゲーム開発するうえで意識すべき重要なこと”について語った。

 それは,開発者自身の心や身体の健康。Proctor氏は,想定していなかった“ゲームが売れない”という現実に直面したとき,気が沈んで睡眠不足へとなり,さらに記憶も散漫になりはじめたという。それは恐怖を感じるほど,心身共に衰弱した状況だったそうだ。

 この経験から,ゲーム開発における成功と失敗のマトリックスが,利益や評価にばかり重きを置かれていることに疑問に感じ,「成功の新しい物差しに人間を中心とした考えも取り入れるべきで,自分とチームの精神的健康に重点を置く必要がある」と考えるようになったという。
 自分や家族,チームメンバーが心理的に負担を覚えることなく,少しでも長くゲーム作りを続けていくことこそが,成功の前にまず考えるべきことだと呼びかけたProctor氏。現在は,会社のスタッフが安心して働けるよう,他社からの開発受注といった安定した収入が得られる形を意識した経営計画を持って自身のスタジオのかじ取りを行っているという。

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 インディカポリプス――活気のあるインディーズゲーム界隈のその裏には,まったくヒットしなかったゲーム,そもそも誰にも知られていない作品,開発がままならず放棄されたプロジェクト,生存競争に敗れ去った若き開発者がたくさんいる。そんな“アポカリプス”である現在のインディーズゲーム界を指す言葉だ。

 4Gamerが最初に現象を取り上げたのは,GDC 2019のこちらの聴講レポートだったと記憶している。モバイルゲームやSteam,Xbox Live Arcadeなどの黎明期には,「何かを作ってアップロードしておけば,ゲーマーが食いついてくる」といったムーブメントがあったが,それも今や遠い過去。SteamやItch.ioにて,年間で数万本というインディー作品が販売されるようになった現在は,ヒットするかしないかよりもっと前の段階である“知ってもらえるか”すら厳しい時代だ。

 そんな時代だからこそ,失敗を経験しながらもゲーム開発者として活動を続け,こうしてGDCの晴れ舞台に立って自身の“しくじり”を語る彼らとその経験談はたいへん意義のあるもので,その重要性は今後も高まっていくだろう。

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