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[インタビュー]eスポーツが文化になるまでやめません――ドスパラ/GALLERIAで存在感を示すサードウェーブは,なぜここまでeスポーツに前のめりなのか
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印刷2023/05/30 08:00

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[インタビュー]eスポーツが文化になるまでやめません――ドスパラ/GALLERIAで存在感を示すサードウェーブは,なぜここまでeスポーツに前のめりなのか

画像集 No.003のサムネイル画像 / [インタビュー]eスポーツが文化になるまでやめません――ドスパラ/GALLERIAで存在感を示すサードウェーブは,なぜここまでeスポーツに前のめりなのか
 2022年の9月27日,コンピューターショップのドスパラで有名なサードウェーブが,「紺綬褒章」を受賞した(褒状伝達式およびサードウェーブによる発表は,2023年1月12日)。「紺綬褒章」とは,公益のために多額の寄付を実施した個人または法人を顕彰する,国の褒章制度の1つ。明治14年に「褒章条例」が公布されてから続く由緒正しい褒章で,天皇陛下より授与されるものだ。
 一体何をしたのかと読んでみると,「京都府と茨城県に対し寄付を行った功績が認められ」とのこと(関連記事)。そういえばサードウェーブは以前から,「全国高校eスポーツ選手権」などを筆頭に,eスポーツ関連では大小さまざまなことに手をつけている。
 それなりに長いお付き合いのある会社なので,中のことなどいろいろ聞こえてくることもあるが,サードウェーブがそれらの案件で大きな利益をあげているとは聞いたことがないし,そもそもどう考えても,そのほとんどにおいてお財布事情は厳しいとしか思えない。利益を追求するはずの株式会社で,それでもなおそれらを追い求めるのは,一体どういう理由からなんだろうか。

 久しぶりに尾崎社長の時間をもらえたので,そのあたりを根掘り葉掘り聞いてみた。

株式会社サードウェーブ 代表取締役社長 尾崎 健介
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 サードウェーブは2022年,eスポーツを通じて人材育成や産業振興などの地方創生事業に取り組む京都府と茨城県に対して寄付を行い,その功績により,「紺綬褒章」を受賞したと発表した。対象が法人のため,実際に贈られるのは褒状で,サードウェーブ本社では本日,褒状の伝達式が行われたという。

[2023/01/12 17:30]

全国高校eスポーツ選手権 公式サイト



4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。……というか,とてもお久しぶりです。

尾崎氏:
 そうですね。

4Gamer:
 ネット越しはともかく,最後に直接お会いしたのは,たぶん高校eスポーツ選手権が始まる前にお話をしたときくらいかなと。

尾崎氏:
 もうそんなに経ちましたっけ(編注:第一回が2018年なのでおそらく5年前くらい)。大変ご無沙汰しております。

4Gamer:
 コロナでちょっとだけ停滞しちゃいましたが,eスポーツもすっかり市民権を得つつありますし,御社もとてもお忙しいのではないかと。最近ではDreamHackにも絡んでいるようですし。eスポーツ界隈で,何かビジネス的に顕著に変わったところってありますか?

尾崎氏:
 まだまだ途上だと思っていますけど,でも確かに何年か前の「eスポーツとは?」みたいなところ話から考えると,ずいぶん変わりましたよね。「それがなんであるか」を説明しなくてよくなったといいますか。

すでに5回開催され,いよいよ6回目を迎える「全国高校eスポーツ選手権」(アーカイブ
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4Gamer:
 そうですね。業界の人ならいざ知らず,ちょっと前まではあまりちゃんと知られていない状態でしたから。

尾崎氏:
 そうですよね。

4Gamer:
 でも,eスポーツが今から来るかなっていうときにコロナになっちゃって,そこはちょっとだけ残念でした。若干足踏み感が出てしまったというか。
 まぁでもそんなことには関係なく業界の方は皆さんがんばってますし……そういえばさっきここ来るときも下で何かやってましたね。

※取材日である2023年3月22日(水)は,サードウェーブのオフィスが入っているベルサール秋葉原の1階で,ちょうど「マイナビeカレ〜esports全国大学選手権〜」が実施されていた。(関連記事

尾崎氏:
 マイナビさんの大学選手権ですよね。

4Gamer:
 はい,えらい盛り上がってました。最初遠目で見たときにはeスポーツと思わず,「またなんか派手なイベントやってるなぁ」くらいの。

尾崎氏:
 確かにそんな感じです(笑)。

4Gamer:
 近づくにつれて「マイナビ」という文字が見えたので,マイナビで人がたくさんだから就職相談かと思ったら,eスポーツの大会でした。

尾崎氏:
 当社だけじゃなくて周りの会社さんたちも,昔に比べたらeスポーツでビジネスをして食べていける会社さんとかチームが多くなってきていて,そこはすごくいいなと思いますね。

4Gamer:
 周辺の人たちがちゃんとお金を稼げないと,長く続かないですもんね。

尾崎氏:
 そうですね。

4Gamer:
 僕らが最初のEVO Japanをやったときも大変でした。ひたすらに出ていく一方で。

尾崎氏:
 そうだったんですね。

4Gamer:
 そりゃあ親会社の社長も怒りますよね。本当に出ていくだけだったので(笑)。まぁでもやってる現場の僕らはめちゃくちゃ楽しかったです。
 当時はスポンサードみたいなものもあんまり根付いてなかったですし,協賛してくれるような会社もあまりなかったので,本当に手弁当みたいになっちゃって。偉い高級な手弁当でしたけど。

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尾崎氏:
 ただ格ゲーの大会は,あれなしではもう……。

4Gamer:
 さすがに一番知名度が高いですしね。EVOかCEOか,あとは各社さんが自力でやってる各種のツアー。

尾崎氏:
 各社さんのものは,それぞれが自社でやられてるので,ちょっと毛色が違いますよね。

4Gamer:
 ええ。でもあの規模のものを自社で回してるのはホントすごいです。大会をやってみると,その凄さがホントよく分かります。

尾崎氏:
 確かにそうですね。

4Gamer:
 まぁでもeスポーツは格ゲーだけじゃないわけですし,裾野はどんどん広がる一方で。そのせいもあるのか,サードウェーブさんのプレスリリースの多いこと多いこと……。

尾崎氏:
 ご迷惑をおかけしております(笑)。

4Gamer:
 いやぁ,でも本当に手数が多いです。しかも内容が多彩なんですよね。コラボだったり,大会協賛だったり,チームと組んでみたり,推奨モデルがあったり。


売上には直結しないけど,eスポーツの市場とか文化というものを作りながら進めたい


4Gamer:
 まぁそういういろんな一連の動きの一つの結果として,昨年「紺綬褒章」を受けています。遅ればせながら,受賞おめでとうございます。

※この場合,正確には「紺綬褒章の褒状」と呼ぶ(対象が法人なので)

尾崎氏:
 ありがとうございます。

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4Gamer:
 あれは京都と茨城のeスポーツ絡みでしたっけ。
 これ,全然他意はないんですが,なぜ京都と茨城だったんですか?

尾崎氏:
 あぁそこは割とシンプルなんです。都道府県ごとに,ふるさと納税があるじゃないですか。

4Gamer:
 ありますね。

尾崎氏:
 都道府県市区町村の自治体ごとに,ふるさと納税を「これで受け入れます」という入口を開くのは,自治体なんです。

4Gamer:
 あぁ,なるほど。

尾崎氏:
 なので,我々が「eスポーツでの地方創生に興味ある都道府県にふるさと納税します」と言っても,自治体サイドで入口を開いてくれないと動けないんですね。

4Gamer:
 確かにそうですね。

尾崎氏:
 ですので,京都とか茨城とか,あと群馬だったり,そういうことに熱心な自治体を選ぶことになるんです。

4Gamer:
 こういうのって業界貢献……でもあるかもしれませんけど,どっちかというと社会貢献だと思うんですよね。でもこれ以外にも,ヒューマンパワーとお金を使った社会貢献活動って,実は御社結構やってますよね。

尾崎氏:
 まぁ……そうですね。そうかもしれません。

4Gamer:
 その先に,尾崎さんは何を見てらっしゃるんでしょうか。
 ただのボランティアにしては件数も金額も大きいし,株式会社であるにも関わらずeスポーツで利益を得ようとしてる感じもあまりしません。行き着く先に,何を見てるんだろう? というのはすごく興味があります。

尾崎氏:
 eスポーツのゲームって,なんていうか……来るぞ来るぞと言われ続けてなかなかブレイクしないですよね。“元年”が何回も来たりとか。

4Gamer:
 それは否定できません。

成績が悪いという理由で部活を停止されないように,勉強を踏ん張ることで結果的に全員成績が伸びたとか(高校eスポーツ部支援プログラムより)
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尾崎氏:
 まぁそれはいったん置いておくとしても,結局のところ長続きするためには,本当に文化としての基盤ができないといけないと思っているんです。
 これは以前にもお話したかもしれないですけど,野球で言えばリトルリーグがあって,高校野球があって,大学野球,そしてプロがあって。スポンサーが付いて,テレビで放映されて。草の根的には,趣味の草野球なんかもあったりするし,バッティングセンターもあるし,公共のグランドもあるし,そういうこと全部で“野球”という文化が成り立っているわけです。
 ビジネスとしても趣味としても成り立ってますし,高校野球というものを通して,教育にも役立ったりしています。

※余談だが「リトルリーグ」は単なる近所の少年野球チームではなく世界的な組織で,本部はアメリカのペンシルバニアにある。1939年に設立された歴史ある団体で,少年野球だけで世界80か国に210万人以上の選手がいる。なお日本では,1964年に協会が設立された。

4Gamer:
 なるほど,分かります。

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尾崎氏:
 ですからeスポーツも同じように,そういうものが必要なんじゃないかと思ってまして。
 また違う例ですが,音楽のヤマハさんって,黙ってるだけでピアノが売れたわけじゃないと思うんですよね。コンサートをして聴く楽しみを教え,ヤマハ音楽教室を全国に作って自ら弾く楽しみを教え,そういうことをやりながらピアノの販売台数を伸ばしていったんだと思うんです。周辺を含めたそういうものを一緒に作っていかないとだめかな,と。
 ヤマハ音楽教室というものは,おそらくですけどヤマハさんにとってそんなに利益が上がるものではないんじゃないかと思ってるんです。でもやっぱりその教室があることで,ピアノを学んで,コンクールなどで発表する場所があって,親御さんとか友達が見に来て,そこからプロにつながる道を作る。必ずしも売上には直結しないけれど,その市場とか文化というものを作っていきながらじゃないと。
 何かその年の流行りのゲームで,1回優勝したら1000万円もらったりして,もちろんそのときにその人は嬉しいけど,次の年にそのタイトルの大会があるかどうか分からない,とかそういうのではちょっと。

4Gamer:
 最後のほう,やたら具体的ですね。

尾崎氏:
 大変な目に遭ってる子たちをたくさん見てきたので……。

4Gamer:
 確かにeスポーツがバズワード化して流行ったとき,持ち上げてハシゴ外しかけた感じはありますよね。

尾崎氏:
 そうなんですよね。

4Gamer:
 外してるのは,結局のところは僕ら業界側ですけど……。でもなるほど理解しました。そういう部分も含めて改善……いや改善じゃないですね,作り上げていくという動きなわけですね,一連のものは。

尾崎氏:
 そうなります。

4Gamer:
 でもそれって一社でやるべきものなんですかね。

尾崎氏:
 みんなでやりたいのはまったくそのとおりなんですけど,なにせお金が持ち出しになるのでなかなか……。でも「一緒にやる」のは何もお金だけじゃないと思うんですよ。それこそ御社みたいなメディアが大会についての記事を書くことによって,出場した選手たちがいろんなところに露出されて。

4Gamer:
 そうですね。

尾崎氏:
 その大会をスポンサーしている会社も,メディアが書くから効果を実感できるわけです。メディアを通さなかったら,事実上広告的リターンみたいなものはないわけですし。
 あとはボランティアで手伝ってくれる方たちとか,地元でそういう協会作っておられる人とか,そういう人たちのいろんな,お金だけではないいろんな力が必要なんです。でも以前よりも,真剣にやろうとしている人たちの数が増えてきてくれている気はしますね。

徳島や沖縄など,各自治体と積極的に連携を行っている
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小さくてもいいからちゃんと“本物”を作ってやっていかないと,健全な形にはならない


4Gamer:
 とはいえ……尾崎さんは,これをいつまでやるのかな,という。

尾崎氏:
 文化になるまでやりますよ(笑)。

4Gamer:
 言い切りました。すごい。
 でもそれにも関わらず,まだガンガン攻めていくフェーズではない……という空気を感じます。

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尾崎氏:
 そうですね。いっぱいお金と人を集めてワッといくというよりは,もっと大きくする前のことを一生懸命やるべきかなとか。幸い,ご興味を持っていただけてる企業さんも多いですし。

4Gamer:
 なんかとりあえず進んじゃえみたいな風潮もよしとされがちな業界ですが,とても堅実です。

尾崎氏:
 お金で大きくするっていうよりは,実務的にちゃんとしたいと言うか。イメージしているのが,ボーイスカウトみたいな組織で。

4Gamer:
 一過性のものではなくてちゃんと根付かせたいわけですもんね。

尾崎氏:
 はい。ボランティアに近い形で地元の人たちが,各都道府県ごとに大会とかイベントをやって,そんな感じで自走できる組織ですね。

4Gamer:
 管理する団体がなくても,自分たちでちゃんと自走する組織。なるほど,そういうものを目指してらっしゃるわけですね。

尾崎氏:
 ええ。すごい利権がどうこうとかそういう話じゃなくて,例えばスポンサーになってもらったらちゃんとメリットがあるような,そういう形を作るにはやっぱり小さくてもいいからちゃんと“本物”を作ってやっていかないと,健全な形にならないと思うんです。

4Gamer:
 確かに,ちょっと急激に大きくなっていく感じはあるので,何かちゃんとした杭みたいなものを打ち込んで進んでいかないと,どんどん違う方向にいっちゃう気がします。

尾崎氏:
 そうですよね。大会とかイベントとか,ある程度規約みたいのをしっかり作り上げて,その大会ごとに健全な形にしていかないとやっぱりダメだと思うんです。それだけで全部がうまくいくわけじゃないですけど,そういうことの積み重ねですよね。

4Gamer:
 なんかかつて「これからはeスポーツだ!」みたいな感じで盛り上がっていたとき,いろんな会社がわらわらと集まってきましたけど,彼らがeスポーツにちょっと飽きて違うものを見ているいま,ちゃんと“やりたい人達”が残って,よしなんかやるか!みたいな感じになってる印象はあります。

尾崎氏:
 そういうのはあるかもしれません。


“eスポーツ”というのは手段の一つであって,いろんなものを求める人達が集まることで文化になる


4Gamer:
 しかし私さっき「社会貢献活動」って表現しましたけど,ちょっと違いますね。社会貢献活動をしているわけではなさそうです。

尾崎氏:
 そうですね(笑)。

4Gamer:
 もちろんそういう要素はありつつ,ゼロから何かを作っているというか。

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尾崎氏:
 もちろん意味合い的には社会貢献にもなるとは思うんですけど,やはりそこは事業活動でもあるので。
 ただ……なんて言うんでしょう。eスポーツそのものが何かの目的になっているわけじゃなくて,eスポーツを通して地方創生をするとか,eスポーツを通して健全な青少年の育成をするとか,eスポーツを通して夢を叶えるとか,“eスポーツ”というのは手段の一つであって,関わる人たちにとってそれぞれ目的は違うと思うんですよね。
 そういう軸がいくつもできて,そこで初めて文化として定着していくと思っているので,社会貢献というよりは一つ一つを作っていく過程で,自分たちもそれを作ることに貢献できたらいいなという感じです。

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 2019年12月28日と29日,全国の現役高校生を対象としたeスポーツ大会「第2回全国高校eスポーツ選手権」の決勝大会が開催された。今大会の現場を仕切る毎日新聞社の清野悠介氏と,サードウェーブの佐藤和昭氏に,どういう想いで取り組んでいるのかを聞いた。

[2020/01/20 17:27]

4Gamer:
 その貢献に携わる,御社の一連のアクションを,社内では何と呼んでるんですか? なんかプロジェクト名とかあったりするのかなと。

尾崎氏:
 うーんなんでしょう……3年ほど前に,我々のミッションステートメントを変えたんですよ。「人々の創造活動の可能性を最大限にする」と。

4Gamer:
 はい。

尾崎氏:
 我々は,小売から始まって製造業,そしてサービス……eスポーツとかですね。販売から製造,製造からユーザーの活躍できる場を創造するところまでを,我々の企業目的としようということで変えたんです。しかし……確かに社内では何て言っているんですかね,僕。何て言ってる?(と横にいた広報さんに)

広報さん:
 なんか当たり前になっててよく分からないです……。

尾崎氏:
 そう,当たり前になってるんだよね。

広報さん:
 とくに名前を付けて特別扱いしないといいますか。

4Gamer:
 それはそれですごいですね。結構な投資だってしているわけですよね。

尾崎氏:
 ええ。何年か前にeスポーツに20億円投資するというのを決めました。いままさにそれをずっとやってきているところです。

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4Gamer:
 金額からして,なにか直接的なリターンを得るため……とかではなさそうです。

尾崎氏:
 そうですね。これからeスポーツに取り組んでいくという意思表明というか。ビジネスのリターンとかじゃなくて,eスポーツの市場をきちんと作ろうと。

4Gamer:
 その時点でそれが明確になったんですね。

尾崎氏:
 はい。なので,これをやったらいくらリターンがあるのかとか,そういう部分は当然企業活動の事業の中でやっていますが,eスポーツに関しては「文化」にすることが肝要だと思っています。文化になれば,どこかで我々にも返ってくるだろうと。

4Gamer:
 確かに返ってはくると思いますが,だいぶロングスパンです。

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尾崎氏:
 まぁちょっと遠いですけど,返ってくるんじゃないかなぁ……と,そんな気がするんですよね(笑)。

4Gamer:
 御社のビジネス的には,確かに相性はいいですし。でも何かのリターンを期待しているんだったら,ちょっと金額もやってることも大きくて広すぎるし。……なんでしょうね,ベタすぎるというか草の根すぎるというか。

尾崎氏:
 そうなんです(笑)。

4Gamer:
 でも,eスポーツの業界を作るんだ,世界を作るんだ,という取り組みだったのであれば納得です。

尾崎氏:
 そうですね。それに貢献するという感じです。“自分たちが作る”と言うのはちょっとやっぱりおこがましいのでは,となりますし。

4Gamer:
 それらの貢献の1つの形が,紺綬褒章であったというわけですね。


独りよがりにならないように,世の中の求めるものにキチンと対応していきたい


4Gamer:
 私個人は,eスポーツというものにすごく頑張ってほしいと思っています。でも日本ではまさにこれからというときに,コロナで3年くらい足止め食らっちゃって,そこがちょっと残念でした。でもこれからはイベントがバンバン盛りだくさんですよねきっと。

尾崎氏:
 そうですよね。DreamHackとかも,楽しみです。

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[2023/05/17 17:00]

「DreamHack Japan」公式サイト


※DreamHackは,1994年にスウェーデンで初めて開催された電子競技イベント。数多くのコミュニティで構成され,複合型の没入体験イベントとして世界最大規模。2023年5月13〜14日に,日本で初開催。

4Gamer:
 DreamHackにも「GALLERIA」のロゴありますもんね。eスポーツはどこにいってもサードウェーブが付いてきます(笑)。
 自分のメールボックスを御社名で検索しても,かなりの量がヒットするので,ホントにいろいろやってるんだなというのがよく分かります。

尾崎氏:
 ありがとうございます。でもまだまだちょっと……。

4Gamer:
 まだ?

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尾崎氏:
 例えばふるさと納税にしてもまだ,自治体ベースではまだ4つくらいしか応援できてませんし。

4Gamer:
 eスポーツによる地方創生というのは,尾崎さんは具体的にどんなものを想定されてるんですか?

尾崎氏:
 eスポーツというくくりだけの話ではなくなってくるんですが,例えば……ゲームクリエーションとかマインクラフトとかそういうのを含めて考えてます。eスポーツの大会もそうですが,親子でYouTuberになろうみたいなイベントや,マイクラでこういうものを作ってみましょうというイベントを,自治体がやったりですとか,そういうのってすごく人が集まるんですよ。

4Gamer:
 そうでしょうねえ。

尾崎氏:
 興味がある子たちは大勢いて,今までになかった市場もあるんですが,そういうものを受け入れる場もなかったし,ツールもなかったし。

4Gamer:
 なるほど。行政は“箱”を作るのは大好きなので,場所はあるんですけどねたいてい。

尾崎氏:
 例えばPCで「Fortnite」や「Valorant」が出来る環境を作って,大会を開いて,現地の子たちにいろいろ教えてあげて……みたいな形を取れれば,地方創生の一環になるんじゃないかなとか。

4Gamer:
 意外と広い範囲でお考えだったんですね。ゲーム全般というかIT全般というか。
 つまり……尾崎さんにとってeスポーツは,もしかして「きっかけ」なんでしょうか。

尾崎氏:
 そうですね。

4Gamer:
 大きな一連の流れを作るための。

尾崎氏:
 おっしゃるとおりです。

4Gamer:
 それはもう,地方の方とどんどんお話しするべきですよ。いま田舎に住んでて行政の動きを見ててしみじみ思うんですけど,地方創生というのは本当に難しいんだなと。

尾崎氏:
 大会とかやったりすると,参加した方が本当に喜んでくれるんですよね。高校選手権とか,親子のYouTuber教室とか,人が集まりたくなるようなことを自治体がやっていかないと,本当の意味での創生にならないんじゃないかなと思うわけなんです。

4Gamer:
 そして御社がその手助けとなれるような。

尾崎氏:
 そうですね。ちょっとでも貢献できればなと思ってます。

4Gamer:
 そんな御社のサイトを先日いろいろ見てたんですが,100年先も世の中に求められる企業を目指すと書いてありました

※サードウェーブの企業理念(サードウェーブコーポレーションサイト

尾崎氏:
 はい。

4Gamer:
 釈迦に説法ですけど,企業の寿命は一般的に30年です。

尾崎氏:
 はい(笑)。

4Gamer:
 100年企業って,どんなことが大事だと思ってますか?

尾崎氏:
 難しいですけど,やっぱ独りよがりにならないように,世の中の求めるものにキチンと対応していきたいですね。100年後ともなれば,今のわれわれのPC事業も,おそらくなくなっているでしょうし。

4Gamer:
 少なくとも形を大きく変えて,違うものになっている気がしますね。

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尾崎氏:
 姿はどうであっても,自分たちが売りたいものじゃなくて,ユーザーさんとか世の中から必要とされるもの,求められるものをきちんとやっていく能力とか考え方を,会社の中に残さないといけないなと思っています。

4Gamer:
 そういうことを日々考えながら,膨大な数のプレスリリースが出てきているわけですね(笑)。

尾崎氏:
 伝えたいことが多すぎてすみません(笑)。

4Gamer:
 あんなにたくさんのプレスリリースが来る会社,ほかにないですよ。

尾崎氏:
 そうなんですか?

広報さん:
 他のメディアさんからも以前言われたことがあります……(笑)。


ビジネス的要素以外のところでいろいろ考えてやっていかないと,長期の大会は永続きしないんです


尾崎氏:
 ゲームの流行り廃りって速いじゃないですか。だからeスポーツも,“大会”だけをメインに見ちゃうと,追いついていけなかったり見誤ったりするところが,絶対たくさん出てくると私は思っているんですね。

4Gamer:
 言われてみればそうですね。「大会」に軸足を置くからブレることがあるのか。

尾崎氏:
 例えば何かを主催するとして,半年後にこんなのをやりますって言っても,その半年間で情勢は変わるじゃないですか。だから我々としては,毎年選手権を行うとか,それをするための団体を作るとか,地方でもそういうメンバーを集めてやっていくとか,むしろそっちの方が重要だなと思ってまして。

4Gamer:
 確かに,例えば格ゲーなんかだと割とキチンとした大会が組まれていて,毎年あるものが決まってたりして選手が手持ち無沙汰にならないですよね。ほかのジャンルも全部そうかというとそういうわけでもなく……。

尾崎氏:
 そうなんですよね。

4Gamer:
 チームはあるけど試合がない,っていうのもちょくちょく聞かれる話です。
 あ……いま言われてようやく気付いたんですが,だから御社は,いつも1年間の長いスパンであれこれやってるんですね。

尾崎氏:
 そうなんです。
 商業的な要素はもちろん重要なんですけど,例えば何か流行り物のタイトルの大会をやって,流行が終わったり変わったりしたときに,結局商業ベースだと視聴者が足りなくなったりしてやめざるを得なくなるんですね。

4Gamer:
 それはそうですよね。商業ベースならごく自然な話です。

尾崎氏:
 だから高校選手権とかがそうですが,そういうのはビジネス的要素以外のところでいろいろ考えてやっていかないと,永続きしないんです。なので我々としては逆に,ああいうものはプロフィット/ロスのバランスさえとれれば,もう我々の役割は終わりです。あとは有志の皆さんでちゃんとできます。
 まあ利益が上がったら上がったで,それをちゃんと残して来年のために……みたいなことをやっていけばいいわけで,それは当社じゃなくて,たぶん運営委員会なりがやっていけばいいかなと思ってます。

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4Gamer:
 そういうお考えだから,高校選手権も急に裏方に回ったんですね。

尾崎氏:
 そうですね。やはり株式会社が前面に出ると,教育機関とかの方々にはどうしても身構えられてしまいますし。

4Gamer:
 まぁ仕方ないことですよね……。
 儲けのためにやってるんでしょ,と思われてしまう可能性は大いにあります。

尾崎氏:
 実際はどんだけ損してるのかと(笑)。

4Gamer:
 ちょっと中の話を聞いてるだけで,容易に想像がつきます。

尾崎氏:
 いや本当に……。

4Gamer:
 なので,いとも簡単に裏に回ってすごいなと思いました。あぁこの人は有言実行なんだなと。
 第1回をやる前に初めてお話を聞いたときから「うまく回ったら我々は裏に回ります」とおっしゃってましたけど,そのとおりになりました。

尾崎氏:
 うまくいってるかどうかは,まだちょっと期間が必要ですけどね。

4Gamer:
 でも,だいぶ固定化してきましたよね,大会として。

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尾崎氏:
 高校の中にパソコン部とかeスポーツ部とかがたくさんできて,ちゃんと毎年どこの学校も出てくれるとか,選手権だけじゃなくて,新人戦とか1年生大会とか,本当はそういうのもいくつかやっていかないといけないんですけどね。まだまだやることはたくさんあります。

4Gamer:
 主にどんなことが障害になるんですか。

尾崎氏:
 やはりまだ学校にきちんと認められるところまでいってないところですね。

4Gamer:
 「コンピューターゲーム」を部活でやるのか,と?

尾崎氏:
 そういうのもありますが,実はもっと細かいところでも問題はあって,学校のネットワークのポートはここしか使ってはならないというルールとかですね……。

4Gamer:
 あぁ……そうか,そういうのがありますね。

尾崎氏:
 学校だけでは決められないようで,なかなか難しいんです。

4Gamer:
 ゲームの扱われ方だけじゃなくて,学校の構造とかそういう問題もあるわけなんですねなるほど。

尾崎氏:
 まあでも学校に限らず,昔に比べれば全然進んできて,世の中が変わってきてるなとは思ってます。一日じゃできないだけで,これを続けていればだんだん近づいていってるな……と思い込みながらやってます(笑)。

4Gamer:
 じゃあ冒頭おっしゃってたように,尾崎さんは「文化になるまでやめない」とのことなので,ぜひとも今後ともいろいろ頑張ってください!

尾崎氏:
 ありがとうございました。

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