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企業に頼む? フリーランスに頼む? ローカライズで失敗しないためのTIPSをまとめたセッションをレポート[IDC2024]
ゲームの多言語対応は個人開発者や小規模開発チームにとっては悩ましいポイントのはず。翻訳を依頼するときのひとつの目安として役立ててほしい。
セッションを行ったのはアクティブゲーミングメディアで,ローカライズチームのプロジェクトマネージャー チームリーダーを務めるジェームズ・デービス(James Davis)氏と,同社営業部の上杉舞結氏の2名だ。
まず最初の話題は,今多くの人が気になっているであろうAI翻訳について。これはどれほど実用的なのだろうか? 日々ローカライズ業務に関わるジェームズ氏の印象としては,AIはまだまだ日本語的なニュアンスや人物の口調を考慮した翻訳は苦手とのこと。また日本語の行間を読ませる表現や,作品ごとの世界設定を考慮した翻訳は人間にしかできないそうだ。
それは深層強化学習などのチューニングを行ってもなかなか難しく,無料版のAI翻訳ツールを使用する場合は学習した内容を二次使用されるリスクもある。そしてどのみち訳文は人間による原文との比較確認が必要であり,クオリティにこだわる場合は人間が訳し直すケースも出てきてしまう。
というわけで,まだまだ翻訳作業は人力で行うのが現実的であるとデービス氏は語る。では翻訳会社に頼む場合とフリーランスの翻訳者に頼む場合,それぞれどんなメリットとデメリットが存在するのだろうか。それをまとめたのが下のスライドだ。
一番大きな違いはやはり費用である。フリーランスの相場は一文字あたり4円から8円。一方で翻訳会社は1文字16円ほどになる。
翻訳の品質は担当する人の腕次第で,フリーランスでも優秀な人物は珍しくない。ただ,依頼側が理解できない言語については,その人の翻訳レベルがどの程度なのか推し量ることすら一苦労となる。その点,会社に依頼すれば優秀な翻訳者や,そのゲームジャンルが得意な翻訳者を探す手間が省け,また専任のチェッカーが翻訳の品質を確認してくれる。
ただ直接連絡できるゆえのレスポンスの早さ,契約や納期で融通を効かせてくれる場合もあるなど,フリーランスに頼む良さもあることは確かだ。そこでケースごとにどちらに頼めばいいのかが分かる診断チャートを用意したという。
とにかく費用が限られている場合は,それでも引き受けてくれるフリーの翻訳者にお願いするのがいいだろう。また,自分の知人がよく仕事を依頼している翻訳者がいれば,その人は信頼して問題ないと思われる。そうした人物は,自分が苦手なジャンルの仕事を依頼された場合でも,よりふさわしい翻訳者を紹介してくれるかもしれない。
一方,ある程度お任せしても品質が担保されるのが翻訳会社の良さだ。複数の言語に一度に対応してくれるのも心強い。複数の言語の翻訳をフリーランスに依頼する場合,個別にやり取りしたり,交渉したりする必要があるため,それが負担になることもある。
次に翻訳の依頼方法の比較だ。翻訳会社は多くの場合,公式サイトに翻訳見積り用のフォームがあるもの。まずどこに頼むにしても,大体の文字数は必要になる。翻訳してほしい言語も必須だ。
一方,フリーランスに依頼する場合はSNSを使うのが一般的だ。また翻訳者募集のポストをすると,仕事を探している人が応募してくるかもしれない。その場合は過去作品やポートフォリオを提出してもらって検討しよう。ただ,良質な仕事をする翻訳者は抱える案件が多く,そうした募集のポストに応じることは稀なので,基本的には自分たちからコンタクトしてみるほうがいいそうだ。
ゲームの展示イベントやカンファレンスで翻訳者と接する機会があったら,過去に手掛けた作品や費用の概算,もしくは文字単価,得意なゲームジャンルを聞いてみるのもいい。どんなゲームでも遊びこなせる人が少ないように,どんなジャンルでも翻訳できる人は稀だからだ。一番確実なのはトライアルで何かを訳してもらうことだが,これは自分が翻訳する対象の言語が分からないと判別できないという問題がある。
なお翻訳を依頼するときのTIPSとして,渡すテキストをExcelやCSV形式で用意するとスムーズに作業を行えるという。逆に,開発で使用するPOファイルは文章の連続性が損なわれることがあり,PDFファイルは翻訳ツールで読み込んだときに文字化けを起こしやすいため,避けたほうが無難だ。ただ,納期までに余裕があれば,テキストをExcel化する作業を翻訳会社が担うこともできるので,まずは気軽に相談してみよう。
さらにキャラクターや作品の雰囲気を掴むための絵や資料,音声があると翻訳の助けになる。作品のコンセプト,物語でプレイヤーに伝えたいイメージなど,手がかりになるものを事前に渡しておくとイメージに近い翻訳になりやすい。制作者と翻訳者のギャップをいかに埋めるかが大事だという。
翻訳にかかる時間は目安として1日あたり3000文字。関わる人数を増やせば,手分けして日数を短縮することも可能だが,その場合は均質な仕上がりになりにくいため,シナリオを重視する作品などは時間に余裕をもって依頼したほうがよいそうだ。
以上,ローカライズの第一線にいる人物の話だけに参考になる内容だった。もしゲームのローカライズに困ったときは本稿にまとめたデービス氏の言葉を思い出してみてほしい。
「Indie Developers Conference 2024」公式サイト
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