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女児向けゲームの黎明:第1回は「Barbie ファッションデザイナー」。アメリカの女児ゲー市場を作り上げたパイオニアをレビューする
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印刷2025/01/30 08:00

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女児向けゲームの黎明:第1回は「Barbie ファッションデザイナー」。アメリカの女児ゲー市場を作り上げたパイオニアをレビューする

 「女児向けゲームの黎明」は,女の子向けに作られたゲーム,いわゆる“女児向けゲーム”の初期の作品を追う短期連載だ。

 いまではメジャーな存在となった女児向けゲームだが,男性向けのゲームが多くを占めていた80年代から90年代頃に生まれた作品はどのようなアプローチで女の子に訴えかけ,楽しませていたのだろうか。そしてその作品はいかにエポックメイキングだったか,実際にプレイしながら深堀りしていく。

 どんな性を持つ人でも,等しくゲームを楽しむ権利がある。それはいつの時代も変わらないが,初期のゲーム業界は男性向けの作品が多かった。もちろん女性が男性向けに作られたゲームで遊んでもいいし,実際遊んでいた人もたくさんいると思う。そして,そのなかで女性に向けた作品もいくつか作られていたが,比率としてはやはり男性向けと比べて少なかったのは確かだろう。

 そんななか,アメリカ市場で“女児向けゲーム”が売れる可能性を切り拓いた作品が存在する。それが,今回紹介する「Barbie ファッションデザイナー」だ。本記事では,本作がどのように女の子に訴求する作品であったのかや,その歴史的意義を解説する。

「Barbie ファッションデザイナー」について


 本作は,マテル社が販売する女児人気の高いファッションドール「バービー」を基にした作品である。1996年にWindows向けにリリースされ,日本ではNECインターチャネルより発売された。

 ゲームジャンルは衣装デザインシミュレータで,パッケージに書かれた公称ジャンルは“デザイナー育成ソフト”だ。バービーの服や色,柄などをゲーム上でデザインしてバービーに着せる内容で,付属の布地にプリントできるなど,人形遊びを拡張する仕組みもある。

 日本ではそれほど有名なゲームではないが,アメリカでは業界に大きなインパクトを与えた作品だ。当時,女児向けのゲームがかなり少なかったにもかかわらず,PCゲームとしては驚異的な売り上げを見せ,女性向けゲームの歴史においては非常に重要な立ち位置の作品として認められている。2023年度には,アメリカのストロング国立演劇博物館が,社会的影響力の高さを認めた作品を表彰するアワード“世界ビデオゲームの殿堂”にも,「Wii Sports」「The Last of Us」と並んで選出された。

 本作がいかに影響力を持っていたかは後述するとして,まずは本作の内容物やゲーム内容をチェックしてみよう。

限定版にはドールも付属


 今回紹介するのは,日本で発売された発売記念限定版だ。主な内容物を見ていこう。筆者私物のため,全体的に状態が悪いことはご了承いただきたい。

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 まず目を引くのは,バービー人形そのものが入っていることである。これは限定版のみの仕様で,バービー人形を持っていなくてもゲームと共に楽しむことができる。人形が見えるパッケージはとても引きがあるが,一見するとゲームというよりおもちゃにしか見えない。

 本作はゲームを遊ばない層に売る必要があったため,売るべき層に「私のものではない」と感じさせないこのパッケージは,製品の狙いであり,興味深い工夫だと言えるだろう。話によると,本作はゲーム売り場ではなくおもちゃ売り場に置かれていたということもあったそうだ。

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 櫛や靴などの小物カラーマーカーが付属していて,好きなように彩色して人形に装着できる。すべてがゲームと連動しているわけではなく,ゲームを起動していないときでも人形として遊べるのが良い点だ。

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 注目すべきは,この布地だ。これは本作専用に用意されたもので,ゲーム内で作ったデザインをそのままプリンターを使って印刷できる。印刷したものを説明書の指示に従って加工すれば,人形の洋服が完成するというわけだ。

 ゲーム内で作ったものをプリントアウトして遊べる作品はいくつかあるが,それを人形の衣装にできるという仕組みは現代から見てもユニークで,ワクワクさせられる。

おもちゃ遊びを拡張する「デザインツール」的魅力


 基本的なゲームの流れは,服の種類や小物を選び,模様や色を決めるというものだ。子供でも分かりやすいように,バービーが音声で操作を解説してくれる。日本版には日本語ボイスがついていて,選択するたびに「素敵ね」などの反応を見せてくれるので,バービーと一緒に服選びをしているような感覚を味わえる。

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 最初は,作成するファッションのカテゴリを選択する。ウエディング衣装からバケーション衣装ガーリーなものから(当時の)若者風のトレンディな衣装まで6つ用意されていて,それぞれテイストの異なるアイテムを着せ替えられる。

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 次に服の種類を選んで着せていく。ブラウス・ジャケット・パンツ・ドレス・スカートなど5〜6カテゴリから選び,右枠内の矢印を押すことで,種類を選べるようになっている。選べる服の種類は多く組み合わせも豊富なので,「自分だけのオリジナルファッションをデザインしている」という感覚が確かに感じられる。

 アクセサリ・小物も豊富に用意されていて,バッグやベルト,スカーフやヒールまで選択できる。自分が思うままに設定できるが,バービー自身が「今の私のファッションには合わないわ」と指摘してくることもあり,なかなか凝っている。

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 服とアクセサリがそろったら,無地の服装を華やかにするフェーズに入る。花柄・リボン柄などの模様や色から好きなものを選び,装飾したい場所をクリックすると,色や柄をあしらえる。

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 筆者がデザインしてみたものがこちら。紅色のジャケットに黒いシャツ,ベルトに薔薇の柄が入った紫色のパンツのコーディネートで,大人っぽい仕上がりになった。

 服のカスタマイズはとても簡単かつスムーズで,気軽にあれこれ着せ替えできるのがとても楽しい。彩色はペイントソフトの塗りつぶし機能のようになっており,模様の外側と内側で色を変えるなど,細かなカスタマイズができるため,プレイ前に想像していたより個性が出せる作りに驚いた。

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 衣装が完成したあとにもお楽しみがある。それは,プレイヤーがデザインした衣装をバービーが着て,ファッションショーのランウェイを歩いてくれるというものだ。デザイン画面のバービーは2Dイラストだったが,このパートでは3Dグラフィックがレンダリングされて現れる。

 ランウェイのアニメーションは簡易的ではあるが,細かくデザインできるからこそ,3Dグラフィックになったときの喜びは大きい。高い自由度で衣装をデザインできるうえ,色や模様までしっかりと3Dモデルに反映されている細かさに感動した。

 もちろん現代から見ると珍しくないシステムだが,初期の着せ替えゲームでここまでしっかりした作りになっていることに驚かされる。3Dモデルの描画には少し待ち時間が発生するが,筆者にとっては待つ価値のあるものだった。

 本作が発売した1996年は,3Dのゲームがメジャーになったばかりの時期だ。当時としては,自分自身でデザインした衣装が3Dのバービーにそのまま反映される驚きは,非常に大きかったのではないだろうか。

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 先述の通り,本作には布地が付属していて,作ったデザインをプリントできる。今回は機材の都合上プリントは試せなかったが,パッケージ裏に作例が載っていて,かなり本格的に作成できると分かる。

アメリカのゲーム業界に与えたインパクト


 本作は,女児向けゲームとして初めて商業的に成功した作品とされている。当時の市場調査会社・PC Dataの調べ(ロサンゼルス・タイムズ経由)によれば,1996年11月に発売されたあと,年末までに35万1945本を売り上げ,その年で6番目に売れた作品となった。

 以上のように本作は,パッケージ内容物やゲーム内容を通じて,現実のおもちゃ遊びを拡張するような作品であることがお分かりいただけるだろう。キャラクターを使った独立したゲームを作るのではなく,すでに楽しんでいる子供の多い人形遊びに新しい楽しさを付け加える作品が大きくヒットしたのだ。当時,主に男性に向けられていたPCゲーム市場において,おもちゃと連動させることで女の子にアピールしたという点は非常に興味深い。

 本作以前の米PCゲーム業界では,やはり女性はゲームプレイヤーの対象として,あまり認められていなかったようだ。本作のエグゼクティブプロデューサーであったNancie S. Martin氏の2000年のインタビューでは,当時の常識においては「女性はテクノロジーを好まず,コンピュータを恐れている」と考えられていたと証言している。そんななか,Nancie氏は女性がコンピュータを恐れているのではなく,アクセスしやすい(親しみやすい)コンテンツがないことが問題だと考え,それが本作を開発するきっかけのひとつとなったそうだ。

 「Barbie ファッションデザイナー」の成功を受けて,翌1997年には数多くの会社が女児向けゲームを相次いで発売した。当時Wiredに掲載された記事などを参考にすると,1996年まではほとんど見られなかった女児向けゲームを多くの企業が新たに発表し,その数は200近くにもなったという。

 女の子がゲームに参加できることを目指し,新興企業が設立されるケースもあった。例えばPurple Moonという企業は,主人公が中学2年生になる最初の日を迎えるまでを描いたADV「Rockett's New School」を発売し,1999年までたくさんの作品をリリースした。

 当時の米国における女児向けゲームに少し話を広げると,本作以前に試みがなかったわけではない。本作がリリースされる1年前の1995年にはHeR Interactiveという会社が設立されていた。

 同社は1995年11月に,恋愛要素を押し出したFMVデートシム「McKenzie & Co.」を発表している。その後,児童向け推理小説「少女探偵ナンシー」を原作としたポイント&クリック型ADV「Nancy Drew: Secrets Can Kill」を発売し,その後もこの作品は2024年まで続く代表的長寿シリーズとなった。

 これ以前にもいくつか例は挙げられるが,女性向け・女児向けゲームが米国の業界や市場で多くの注目を集めるようになるのは,90年代半ばから後半が大きな起点だった。そのきっかけになった作品こそ,この「Barbie ファッションデザイナー」だったのだ。

おわりに


 まとめとして,「Barbie ファッションデザイナー」は,着せ替えゲームとしてはかなり早い段階の作品であるものの,その作り込みには目を見張るものがあった。ガーリーなものから大人っぽいのまで幅広いテイストのファッションをコーディネートできる点も魅力的だし,自分がデザインした衣装が少しの待ち時間で3Dグラフィックスになって現れるというのも驚きだ。

 衣装を布地にプリントして人形に着せられるという現実と融合した遊びも斬新であり,プレイヤーを夢中にさせる要素が散りばめられていた。

 現代の価値観から見ると,ピンク色や花柄・リボン柄などの「可愛らしさ」を強調したパッケージやゲーム画面のデザインは,ややステレオタイプ的に感じられるかもしれない。だが,そんな本作が当時の多くの女の子を魅了し,PC,ひいてはゲームの世界に参加するきっかけとなったという事実は,今日のゲーム業界にとっても重大な出来事だと言えるだろう。

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