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RMTやBOTの取り締まり専門部隊ではない,その本来の役割とは――スクウェア・エニックス「スペシャルタスクチーム」インタビュー
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印刷2007/01/19 21:31

インタビュー

RMTやBOTの取り締まり専門部隊ではない,その本来の役割とは――スクウェア・エニックス「スペシャルタスクチーム」インタビュー

 「ファイナルファンタジーXI」(以下,FFXI)のプレイヤーなら,「スペシャルタスクチーム」の名前を,どこかで目にしたことがあるかもしれない。通常のGM(ゲームマスター)と異なり,ハックツールの利用やRMTへの関与による不正行為者の,調査と処分に当たる専任チームだ。2006年10月に組織され,その活動成果たる処分アカウントの数と内訳は,ここまでほぼ月例で発表されてきている。

 活動趣旨や取り締まり内容だけを見る限り,反RMT戦線の急先鋒ででもあるかのように思える同チームなのだが,実際はどのような意図を持ったチームなのだろうか。また,彼らの把握している「組織的なRMT」の実像,そして,徹底した活動の根本に据えられたRMT観は,いったいどういうものなのだろうか? 
 今回は,そのスペシャルタスクチームを率いる3人,田中弘道氏とグローバル オンライン プロデューサーのSage Sundi(セイジ・サンディ)氏,グローバル コミュニティー プロデューサーのFoxclonこと室内俊夫氏に話を聞いてみた。

 普遍的な倫理をめぐる観念論より先に,現実としてのBOTやRMTに対処する彼らの談話を通して,スクウェア・エニックスが考えるオンラインゲームサービス,その中でスペシャルタスクチームが果たしている/果たすべき役割が,より明確になるはずだ。そしてそれは同時に,我々ゲーマーの一人一人が,RMTという,いったいどこから話を始めたらよいか分からないくらい入り組んだ問題を,考えるための緒(いとぐち)となってくれるに違いない。



■GMチームでない,スペシャルタスクチームとは?

スクウェア・エニックス「スペシャルタスクチーム」を率いる,田中弘道氏
4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。いままでも何回かメールで個別の質問をさせていただいているわけですが,本日はもう少し大枠でのお話をお聞きできればと思っています。
 まず,スペシャルタスクチームを結成することになった経緯,あるいはきっかけといったところを教えてください。

Sage Sundi氏:
 どんなMMORPGでもそうなのですが,チートやアイテムデュープ,RMTといった,ごたごたした悩みを抱えていて,それはFFXIでも同様です。ただ,せっかくここまで成長したFFXIのコミュニティですから,きれいにしておきたいと思ったのです。

4Gamer:
 きれいに,ですか。

Sage Sundi氏:
 そもそもコミュニティは自己浄化していくものですが,ほかの作品の例を見ても,事がチートやRMTともなるとコミュニティの手には余ります。

4Gamer:
 そこで,運営側の手が必要であると。

Sage Sundi氏:
 ええ。そうである以上,真剣にやるほかない。それまでもチートなどについては,GMの手を通じて対処していたわけですが,どうしても追いつかない。GM側の作業に影響が出てしまうくらいなら,スペシャルチームを作って,そこが担当したほうがよいという結論になりました。
 GMのポリシー公開も含めて,サービス全体を良くしていこうという流れの一つなのです。

4Gamer:
 いまの話でチームを作る理由は分かったのですが,その活動結果をわざわざ公にしていることには,どんな狙いがあるのでしょうか?

Sage Sundi氏:
 そこはある意味,決意です。チームを作った以上やらなければならない,というか。これまでもずっと裏方でやってきたわけですけれども,チームを作った以上,絶対に浄化するぞ,という思いがあるからですね。

田中弘道氏:
 また例えばGMポリシーなどを公開するのは,プレイヤーさんによる誤解を解きたいということでもあります。
 MMORPGの運営というのは,ブラックボックス化している部分があって,それが誤解の元だと思うのです。そこで,どんどん言ってしまったほうが楽だという認識があります。

Sage Sundi氏:
 まあもちろん,言ってしまった以上やらなければならないというプレッシャーは生じるんですけどね(笑)。

4Gamer:
 それはそうですね。その意味でも「決意」なのだと思いますが。ところで先ほどのお話のとおり,スペシャルタスクチームはGMとは別の組織なんですよね?

Sage Sundi氏:
 ええ。スキル的にはGMと同じものも多いので出身者は多いですけど,そうでない人ももちろんいます。

4Gamer:
 GMチームがあって,アカウント・アドミンチームがあって,今回のスペシャルタスクチームがあると。

Sage Sundi氏:
 そうです。アカウント・アドミンチームは,もともと内部にあったものですけれど。

4Gamer:
 外から見えるのはその3チームなのですが,残り二つとの関係で,スペシャルタスクチームの守備範囲については,どう捉えればよいのでしょうか?

Sage Sundi氏:
 ええと,まずアカウント・アドミンチームですがこれはGM業務をより客観的に見て,GMによって行われた懲戒処理が適切であったかどうかを監視する第3者機関のような存在です。また,強制退会判断をできるのは,アカウントアドミンだけに絞っています。

4Gamer:
 GM業務のストレートな延長というわけですね。

Sage Sundi氏:
 GMチームの職務内容については公開しているとおりです。そしてスペシャルタスクチームの仕事は,ある意味それら以外全部と考えてもらったほうがよいかもしれません。

4Gamer:
 二つのチームの守備範囲以外,全部ですか。

Sage Sundi氏:
 そうです。「浄化」というキーワードに結びつくもののすべて,です。

田中弘道氏:
 もちろんコミュニティサポートなどは別のチームですが,コミュニティを良くしていくことについては,広報対応を含めて残りすべてをやる,ということです。

4Gamer:
 そんなに広いのですか。そうなると人数も相当の規模になるんですよね?

Sage Sundi氏:
 ええと,人数は秘密です。イメージとしては,ロサンゼルス市警のSpecial Task Forceから来ているのですが。

4Gamer:
 さすがに秘密ですか。ところで,成果の発表はだいたい月に一度のようですが,この形だと,まるでその直前にしか活動していないように誤解されたりしませんか?

室内俊夫氏:
 活動自体はもちろん常時行っているのですが,告知を行う意義は別のところにもあります。経過報告もさることながら,大量のギル(ゲーム内通貨)がゲーム世界からなくなったり,いままでいた人が急にいなくなったりする,その変化が大きいので,活動内容ともども,起きていることの説明をしているのです。

4Gamer:
 プレイに必要なアナウンスを兼ねていると。

室内俊夫氏:
 また,実績の報告だけでなく,例えばゲームプレイ上の抜け道となるようなものがあったとき,先に言ってしまうと不都合が大きくなりますから,直してからまとめて報告するといったことがあります。

田中弘道氏:
 そうしたわけで,プレイヤーへの告知は月に1度と決めているのですが,内部での報告は毎日の朝礼で行われています。前日に起こったことや問題点などをGMチームから開発へ報告し,その検証と対処を日々行っています。
 例えばそのなかで不正と思われる行為を見付けたりしたら,それにどう対処していくかといった話は,随時なされています。

Sage Sundi氏:
 前の晩の話を朝するという慣例は,文字どおりFFXIのサービスインのその日からずっと続いていますね。

4Gamer:
 少々変な質問なのですが,告知されるアカウントはすべて,告知のタイミングで一斉にバンされているのでしょうか? それともその前から少しずつバンが続いているのでしょうか?

Sage Sundi氏:
 日々の対処としてのバンはありますが,一斉処分については直前にまとめて行います。

4Gamer:
 文字どおり,一斉処分というわけですか。

Sage Sundi氏:
 一部だけ処分を実施してしまうと,逃げられてしまうのです。例えばRMTがらみの話だと,ギルを安全なところに移されてしまったりとか。そうした可能性がありますので,告知のタイミングでガツンと行ったほうが,一気にギルを凍結できます。

4Gamer:
 なるほど。確かにそうかもしれません。

室内俊夫氏:
 RMTはまさに最たる例で,どこか1か所を捉まえても,それは氷山の一角にすぎない。ですからRMTに関して日々やっていることは,ギルの流れをひたすら調査することです。
 そして,ある程度の組織などがあったとしてその全容が見えたところで,まとめて処分するといったやり方をしています。

「スペシャルタスクチーム」から月例で行われている報告(左)と,公開されているGMポリシー(右)。どちらも,FFXIの公式サイトから


■ゲーム内通貨の流れを追跡して,RMTの組織を解明する

「スペシャルタスクチーム」を率い,子供達に安心してプレイできるコミュニティに向けた取り組みを強調する,Sage Sundi(セイジ・サンディ)氏
4Gamer:
 今日はまさにそのあたりをお聞きしたいと思うのですが,以前発表のあった「組織立った関与の見られるもの」という表現について,これは,どういった状況を意味するのでしょうか?

Sage Sundi氏:
 開発側から見た場合,ギルがどのくらい生成されているかはすべて把握できるじゃないですか。そこを出発点とした場合,かなりの割合で流れを明らかにできていると思います。相手となる人達は,だいたい見えています。

4Gamer:
 「組織立った」という場合の“組織”という言葉は,文字どおりRMT業者の組織と考えてよいのでしょうか?

Sage Sundi氏:
 そうですね。もちろん,プレイの背後がすべて見えるわけではないので,実際に何名いるとかは分かりません。でも,例えば物理的に無理な同時進行が検知されれば,それは組織なりグループなりと見るほかないですよね。

4Gamer:
 なるほど。

Sage Sundi氏:
 こちらが判断するところによれば,RMTで個人経営はあまり多くありません。もちろんいますが,全体として動きは少なく,その場合事態の進行もスローです。

4Gamer:
 一人では限界があると。

Sage Sundi氏:
 ええ。目立つ動き方をするのは,やはりグループなんです。

4Gamer:
 そのグループというのは,どんな形になっているか,差し支えのない範囲で教えていただけませんか?

Sage Sundi氏:
 では,こちらを見ていただけますか?(と言って,卓上に図を広げる)何十,何百という細かい業者が繋がった図が,内部にはあるのですが,それをごく簡単に図式化してみたものです。



4Gamer:
 かなり簡略化したものと。ぜひ,これの元になった資料を見てみたいものですね(笑)。

Sage Sundi氏:
 いや,会議のときにプロジェクターで映している図は,画面に入りきらないほどの大きさです。まあでも,それはさすがに差し障りがありますので(笑)。
 この図で「ハンター」と書かれているのが一次生産者で,チートを行っているわけです。これらの人が稼いだギルを送る先になっているのが,「中間卸業者」です。そして中間卸業者が「小売り業者」に回しています。一部ハンターから直に小売り業者へ向かう部分もありますが,ほとんどはこのパターンなのです。

4Gamer:
 なるほど……販売サイトと一体ではないものもある,と。

室内俊夫氏:
 形式はバラバラで,一体のところもあるし,自社サイトにハンターを抱えた小売り業者もいます。小売り業者が大量のギルを抱えたアカウントを所持している場合,それは卸売り用でなく金庫であることもあります。

Sage Sundi氏:
 そうしたケースでは卸売りというより,業者間で融通し合う程度になりますね。それに対して,ここでいう中間卸業者は,日々相当の額を出入りさせている場合を指しています。

■RMT業者に国境はない

4Gamer:
 しかしこの図を信じるならば,基本的に日本もアメリカも,RMTサイト間に垣根はない,すべて繋がっているということになりますが。

Sage Sundi氏:
 ええ,同じですよ。全部同じです。

4Gamer:
 同一の市場と考えてよいと?

Sage Sundi氏:
 はい。

4Gamer:
 ほおお,それは驚きですね。もちろん,あり得ない話ではないわけですが。

室内俊夫氏:
 FFXI関連で大手のRMTサイトがあるのは日本とアメリカですが,裏をたどっていくと,たいがいどこかでつながっています。もちろんつながっていないところもありますが,それは小さいところばかりです。

Sage Sundi氏:
 そう,名だたるところは全部つながっています。

田中弘道氏:
 昨年(2006年)暮れに,日本を中心とした「手入れ」が行われたわけですが,なぜかアメリカの最大手RMTサイトのギルまでがなくなりました。実を言うとあれは予想外でして。

室内俊夫氏:
 最初,北米と日本を別々に調査していたんですよ。ところが日本で調査しているうちに,アメリカのほうまで行ったわけです。

4Gamer:
 そこで初めて,つながっていることが明らかになったと。

室内俊夫氏:
 へたに告知で日本を強調しすぎたせいで,「北米ではやっていないじゃないか」と言われてしまったことが反省点でしょうか……。

Sage Sundi氏:
 日本の小売り業者を中心に進めていったというだけで,結局北米にも手が及ぶんですけどね。

室内俊夫氏:
 ですのでいまは,そういった(日米を区別した)見方をせず,必ずやつながっているものと仮定して進めています。現に,たいていつながっているのが判明するわけですが。

Sage Sundi氏:
 直接につながっていない場合でも,中間卸業者を通してつながってしまいます。同じところから仕入れてるじゃないかと。

4Gamer:
 それぞれ,全然別な系統の仕入れルートがあるわけじゃないんですね。

Sage Sundi氏:
 ええ,別ではありません。

室内俊夫氏:
 まあ,それぞれのRMTサイト側でそれを意識しているかどうかまでは分かりませんけどね。こうしたことは,内幕に立ち入って調べていない限り,分かりません。興味深い構図です。



■稼ぐ・流す・売る:RMTの分業体制

「スペシャルタスクチーム」を率い,今回のインタビューではGMチームとの関係など,チームの位置付けを中心に説明してくれた,室内俊夫氏
Sage Sundi氏:
 スペシャルタスクチームが出来る前は,小売りばかりを狙って対処していていたのですよ。ただ,結局中間卸業者を押さえて凍結していき,次にハンターをチートなどで捕まえていかない限り,小売りは減らない……。

4Gamer:
 つまり小売りは,ただのフロントエンドであると。

Sage Sundi氏:
 そのとおりです。小売りはあくまでもただの小売りなので,アカウントを買ってくれば営業を再開できてしまいます。これに対処してもまた出てきてしまいますから,狙うべきは中間卸業者とハンターなのです。

室内俊夫氏:
 かたやゲーム内でまっとうにプレイしているみなさんにとって,一番邪魔なのがハンターなのです。何かしら競争するハメになってしまったりとか。
 ですからゲーム内的には第一にハンターが問題で,あとは流れを掴んだうえで,一網打尽にしようという計画です。

Sage Sundi氏:
 中間業者まではスペシャルタスクチームだけで調べられることなのですけれど,ハンターの場合は開発の力を入れないと,不正行為のウラが取れません。

4Gamer:
 ああ,そうですよね。捜査対象のベクトルが異なりますし。

田中弘道氏:
 実際に活動を開始するまでには,構想から何年もかけています。海外も含めるとなると,それぞれの国/地域での法律問題ですとか。法令に合致した活動でなくてはならないので,そのための調査にも時間がかかりました。

4Gamer:
 お聞きしている内容で,法務的な観点が絡んでくるのはどのあたりでしょうか?

室内俊夫氏:
 例えば,スペシャルタスクチームで行っている調査方法により,RMTに関する規約違反を理由にアカウント処分を行うことに,本当に問題がないかどうか,とか。そうした裏付けの必要性,比較的小さな懸案がいくつもあって,それぞれの国でベースとなる法律が異なるなかで,きちんと動く必要があるわけです。

4Gamer:
 ちなみに,RMTなりファーミングなりで最初の処分者が出たのはいつですか?

Sage Sundi氏:
 1年ほど前だったと思います。それまでも,チートなどで処分を続けていたのですが,RMTそのものに踏み込んで良いという法務的判断に時間が必要でしたので。明確にRMTによる処分者が出たのは,その1年ほど前のタイミングです。
 当たり前ですが,巨額のギルを動かすことそれ自体は規約違反ではないわけで,そこで業者が別目的でやっていることだと,論証するのが難しかったというわけです。

■不正な通貨,不正でない通貨など見分けられない

4Gamer:
 ところで,よく見られるRMT業者さんの主張で「これはゴールドファーミングで作り出したゲーム内通貨じゃありません」というものがありますよね。彼らがそれを見分ける方法って,何か存在するんでしょうか?

Sage Sundi氏:
 ……いや,難しいでしょうね。持ってくるキャラクターはおそらく,レベル1の運び屋だと思いますし。そうなると,もう分からないというか。

田中弘道氏:
 開発側であれば,正規な方法で手に入れたギルなのかそうでないかは,分かるんですけどねえ……。ゲーム内での発生を起点として,どう業者さんに渡っていくか。それをたどればいいわけですから。それが第三者に分かるかというと,ちょっと怪しいと思います。

4Gamer:
 ……と言うのも,以前「個人レベルでの売買も調査対象にする」旨のアナウンスがあったものですから。プレイヤーさんのなかにはちょっと心配な人もいると思うんですよ。たまたま友達からアイテムやゲーム内通貨を大量にもらったら,疑われたりしないかと。

Sage Sundi氏:
 業者的な行動様式と一般プレイヤーの行動では,まったく振る舞いが違いますから,ログを見れば一目瞭然です。

4Gamer:
 さすがにログを解析する必要が生じますね。

Sage Sundi氏:
 手口も変わってきていますからね。もともと普通にプレイされていたアカウントを買ってきたり。ぱっと見で業者でないと判断して弾くようなことはしないで,とことん見ます。

4Gamer:
 先ほどの図の細部で疑問点があるのですが,小売りを手がけていない中間卸業者って,どうやってハンターに自分の存在を知らせているんでしょうか?

Sage Sundi氏:
 これが,私にも分からないんですよ。案外狭い範囲の人間関係で回っているのではないかと,推測しているんですけどね。でないとおかしいですから。
 ただ,ハンターが卸業者を兼ねていて,小売りより手前の卸売買もすれば,稼ぎもするというほうが一般的かもしれません。いずれにせよ,ハンターと中間卸業者の距離はかなり近いものと見るべきでしょう。

室内俊夫氏:
 ログから見える限りでは,稼ぐ係がいて,貯める係がいて,運ぶ係がいる。そういういったわけです。



■今後のターゲットは,個々の売買と不正な稼ぎ

4Gamer:
 しかし,そこまで掴んでいるとすると,スクウェア・エニックスとして違う側面に使ったりはしないのですか? 課税の問題や法令の問題など,RMTの周辺には現状いろいろ不透明なことが多いですよね。

Sage Sundi氏:
 うーん,まあ,税や法整備については,我々が率先して動けるところではないですからね。要請があれば,当然協力はするんでしょうけど。

田中弘道氏:
 我々が考えているのは,一般のプレイヤーさんが楽しくプレイできるか,です。それ以上のことは,言ってしまえばやってないです。一網打尽にできてしまえば,それが一番いいんでしょうけど,いろいろ細かく分かれていますからね。

Sage Sundi氏:
 小売り業者ごと,中間卸業者ごとガツンと潰したこともありますけど,帰ってきて手口を変えるんですよね。

4Gamer:
 へこたれないんですね。

Sage Sundi氏:
 へこたれないですねえ。

田中弘道氏:
 とはいえ,業者が効率を追求するとなると,普通にコツコツと稼ぐようなことはしません。

Sage Sundi氏:
 そこでだいたい,シッポを出し始めてしまう。

室内俊夫氏:
 何度も叩かれていると,彼らは彼らなりに,なりふりかまわなくなってきます。おそらく,急いで在庫を元に戻さなければならないという判断が働くのだと思います。それで早く稼ごうとするので,ボロが出やすくなるのです。

4Gamer:
 ああ,負けが込んだ麻雀みたいに,一発逆転を狙うわけですね。

室内俊夫氏:
 ええ。ただそこで回転を上げれば,その様子は手に取るように見えるので,それに応じた対処をしていけるわけです。

Sage Sundi氏:
 そうしたタイミングで,たまに隠し金庫が出てくることもありますね。

室内俊夫氏:
 いままで調査していても気づかなかったような謎の資金が,出てくる日が,たまにあるのです。

4Gamer:
 凍結していた在庫に手を付ける,と。

Sage Sundi氏:
 そこで,いままでそう見えなかった業者同士がつながったりとか。追い込みは着実に進展しています。

4Gamer:
 業者の動きが掴めて,随時バンしていくとして,その後の取り締まりはどう展開していくのでしょうか? 

Sage Sundi氏:
 このあとは本当に個々がターゲットです。ハンターや,買う人ですね。そこを浄化していくことを考えないと,イタチごっこが続くだけになってしまうので。

田中弘道氏:
 RMTから生じる問題として狩り場の独占があります。これまでにもGMチームと連携してさまざまな対策を随時実施してきましたが,ここを中心に,現在も対処を進めています。
 例えば昨年末にアイテム「クラーケンクラブ」の入手方法を変更したのも,特定の場所に業者と思われる人達がずっと貼り付いていたからです。

Sage Sundi氏:
 そこは警告よりも,開発のほうできちっと対処してもらったほうが早いですね。

4Gamer:
 開発と一体化している会社ならではの強みですね。

室内俊夫氏:
 スペシャルタスクチームの仕事はあくまで運営の一部ですから,いまあるゲーム世界のなかでどう追いつめていこうか,という部分が主体です。
 それに対して,根っこの部分を変えていくのは,やはり開発チームです。特定の行為をできなくするとか。一般の人にはほとんど影響がないけれども,業者の人には辛くなるような,そういう変更を考えていく話は,都度都度しています。

「FFXIにRMTはいらない」スペシャルタスクチームは,そう断言する


■「FFXI」にRMTはいらない

4Gamer:
 ええと,我々メディアの側にも責任の一端があるのかもしれないですが,プレイヤーさんが割と極論に走ってしまっていて,「とにかく業者を片っ端から潰せばいいじゃないか」という議論になりがちですよね。
 ただ,そう単純な話でもないのは明らかですし,先ほどの話題にも出たとおり,この先どう動いていくのかが重要だと思います。

Sage Sundi氏:
 原則としてはっきりさせておかなければならないのは,我々は法律やら何やら,ルールの下で動いていることです。ですから業者さんにもルールを守ってほしい。そこは変わりません。要は「FFXIはRMTを望んでいません」という宣言なのであって「ならばこのゲームには触らないでおこう」と思っていただければよいのです。
 おそらくそれ以外にお互いが納得する道はなくて,業者がやり続ける限りは,我々もやり続けるというふうになってしまいます。

4Gamer:
 おなじみの議論というわけですね。

Sage Sundi氏:
 ええ。規約は守る。それが普通だと思うのです。逆に,RMTがOKなゲームがあるのであれば,そちらでやっていただきたい。そういうことです。プレイヤーの声を聞いてみても,やはりFFXIにおいては「RMTはイヤだ」となっていますので。
 そしてスクウェア・エニックスとしても,FFXIにRMTはないほうがよいと思っている。そういう設計のゲームでしょう? という話ですから,ここはやめていただきたいと。

4Gamer:
 そのあたりは,割と間違って伝わりがちですよね。「スクウェア・エニックスはRMTを許容しない」といった,短絡というか乱暴な一般化というか。そうしたRMT全般に対するスタンスの話じゃないと思うんですよね。

Sage Sundi氏:
 ええ,違いますね。

4Gamer:
 ところで確認しておきたいのですが,スペシャルタスクチームはFFXIだけのものなのでしょうか?

Sage Sundi氏:
 いや,そうではありません。例えばチートに関しては,ほかのゲームでも同様の対処が生じますから。

田中弘道氏:
 反対に例えばアイテム課金制のゲームの場合,そもそも運営側がアイテムを販売していますから,そこでRMT禁止とか言っても,空しいじゃないですか(笑)。共通した活動もあれば,作品ごとにポリシーが異なるものもあります。

Sage Sundi氏:
 RMTを潰すにしても,アイテム課金をやるにしても,結局運営側としてゲームの文化とコミュニティに密着して,きちんと理解していないと,うまく動かせないということです。
 いま何をやるべきかということは,現場から上がってこなければならないのです。スペシャルタスクチームの活動は,そうした経験を積んでいくことでもあります。

■RMTそのものが原理的に問題なのではない

4Gamer:
 では,しばし現実の運営の話から離れて,RMTそのものに対する見解をお聞きできますか? どう考えていて,今後どうなると予想しているか,といったことです。

Sage Sundi氏:
 結局,ゲームの設計なのではないかと思います。最初のビジネスモデル,つまりどういう思想でその事業が設計されているか次第だと思うんですよ。

田中弘道氏:
 極論してしまえば,プレイヤーさんの間で需要と供給あっての取り引きが,物であれデータであれ成り立っているならば,原理的に見てそれ自体に違法性はぜんぜんないわけです。

4Gamer:
 確かに。

田中弘道氏:
 あくまでそれがゲームバランスを崩す原因になったりすることで,先ほど述べた「業者の不正行為」ということになる。一般のプレイヤーさんが迷惑をこうむることが問題なわけで,RMTの行為自体に違法性があるわけではない。あくまで,いろいろなものの原因になっているから問題なのです。

4Gamer:
 そのあたりのお考えは,今後あらためて表に出していったほうがいいのかな,とも思いますね。どうしても一般にはいっしょくたにされがちな傾向がありますし。RMTの問題とチートの問題と,ノーマナープレイヤーの問題と……とか。それらをまとめて話すと,ぐちゃぐちゃになってしまいますから。

Sage Sundi氏:
 ……そうですね。結局,ゲーム内のデータが,権利として誰のものかという問題がありますよね? 「Second Life」みたいな方法も,確かにあるんだとは思いますよ。
 一種の進化形として,ビジネスモデルがそのように設計されているのならば,アリだと思います。Second Lifeは自分で作る世界だから,そこでの責任はその人自身がとるわけです。
 それに対してFFXIは,開発陣がいて,そこが責任を持って運営しているのだから,それが崩されるのは問題です。

4Gamer:
 Second Lifeの話題が出てきたところで,ゲーム内の資産に課税することについては,どうお考えですか?

Sage Sundi氏:
 そもそも資産価値があるのかどうか。中国とか,法的にプレイヤーのものとしている国もありますけどねえ……。

4Gamer:
 そこについて,スクウェア・エニックスとしては,どう思われますか?

田中弘道氏:
 スクウェア・エニックスがどう思うか,というよりは,日本で,警察などとのやりとりにおいて,警察側から指摘されるのは,スクウェア・エニックスはデータを貸与している立場だということです。ですので,チートなどでプレイヤーさんから苦情が入った場合も,スクウェア・エニックスが被害届を出さなければなりません。

4Gamer:
 そうですね,それが現在の一般的なあり方ですよね。

Sage Sundi氏:
 ということは,データは我々のものであるという認識に立っているわけです。

FFXIにおけるコミュニティの発達ぶりが,見て取れる一幕。公式サイトには「攻略/データベース」が65サイト,「掲示板」が18サイト,「リンクシェル」633サイト,「総合」114サイト(以上すべて,2006年1月18日現在)と,各カテゴリーにわたるコミュニティが登録されている


■運営の一環として,環境を守るがゆえの取り締まり

4Gamer:
 いままでのお話の中でも要所要所に出てきましたが,もう一つあらためてお聞きしたかったのが,そもそも新しいチームを作ってまで大々的に,RMTやチートを排除していく理由は何なのでしょうか,ということです。
 もちろん,一プレイヤーとしての立場ではもう全面的に「お願いします」という感じなのですが,客観的に外から見た場合,それはどうしてなのかと。

Sage Sundi氏:
 繰り返してしまいますけど,MMORPGでもそれ以外でも,やはり「きれい」でいたいですよね(笑)。

一同:(笑)

Sage Sundi氏:
 やはり安心してプレイしてもらいたいわけです。オンラインゲームに慣れ,また,それなりの社会体験を積んだ人であれば,それほど問題にならないかもしれませんが,中学生の方とかもいるわけじゃないですか? それより小さい子とかね。

4Gamer:
 ええ,確かに。

Sage Sundi氏:
 子供のいる人が,安心して子供にプレイさせられるゲームにしていきたいですよね。やっぱり。

田中弘道氏:
 RMTが絶対に介在しないゲームを作ることは簡単なのです。トレードそのものができないようにしてしまえばいいわけですから。プレイヤー間のやりとりを廃止するとか,自己生産方式にするとか,すべてアイテム課金に準ずるやり方にするとか。それ自体はたやすいことです。
 ただ,FFXIというゲームが,バーチャル経済を含めたもう一つの生活空間として設定されているものですから,そこで取り引きという楽しみを奪ってしまうのは望ましくない。

4Gamer:
 それはそのとおりですね。

田中弘道氏:
 プレイヤー間のやりとりや競争も,ルールに則ったものであればよいと思いますが,ゲームを離れたところで,例えばリアルマネーでやりとりされてしまうと,まじめにやっている人がバカを見ることになります。当然ながら,反発も出てくるわけです。

Sage Sundi氏:
 もちろん,社会のアナロジー(類推)である以上,「必要悪というものがあるじゃないか」という,難しい問題を孕んでいるんですけどね。

4Gamer:
 過去の記事でも触れてきましたが,RMTそれ自体が悪であるわけではない。それはそうとして,実態面でたいがいの場合,悪い事態を引き起こしている,と。
 ただ,ここまで徹底して取り締まるのは異例です。それはなぜなのかな? というところですね,つまり。

Sage Sundi氏:
 いや,やるものじゃないですかね? ほかのところも。日本がどうなのかちょっと分かりませんが,海外でもいくつかは割ときっちりやってますよね?

4Gamer:
 Blizzardとかそうですね。



■プレイヤーの動きとして見たときの問題解決を目指す

田中弘道氏:
 正直,ハンターも卸も小売りも,ゲーム内のルールとマナーに則ってきちんと稼いだお金なら,誰も文句を言わないかもしれません。ただ,そこには絶対に不正や迷惑行為が入ってくるので,それが問題なんじゃないですかね。

4Gamer:
 だからこそ,プレイヤーさんもいっしょくたに考えちゃうんでしょうね。

田中弘道氏:
 ゲーム内のオークションを使ってやりとりするなら――普通のプレイヤーさん同士であれば――問題にならないかもしれない。
 一般的なRMTとて一方は通常のプレイヤーさんなんですが,業者の行動自体は,すでに稼ぐことが目的になっています。

4Gamer:
 ただ,いまの発言を字義通りにとると,一般のプレイヤーさん同士ならRMTもOKだよ,と聞こえてしまいますが?

Sage Sundi氏:
 まあでも,友達同士や兄弟同士のやりとりなのか,そうでないのかなんて,私達にも分からないのです。口約束やちょっとしたお礼も,社会の縮図の一つですよね?

田中弘道氏:
 仮にそこに健全な取り引きだけがあるのならば,問題にならないんでしょうね。実際にはそうでないから,規約で取り締まらざるを得ないわけで。

室内俊夫氏:
 そうであればおそらく,気にすらなっていないはずですね。

Sage Sundi氏:
 率直なところ「ゲームをしたい」という動機から発しているなら,まず問題はないのです。ただ,実際には稼ぎに来てますからねえ。

4Gamer:
 では,さしあたってスペシャルタスクチームとしての見解は,あくまでプレイヤー側――まあ,ハンターである彼らをプレイヤーと呼ぶべきかどうか微妙ですが――に視点を合わせて動いている,と。どちらかといえば。

Sage Sundi氏:
 そうです,そうです。そこが先ほど述べた,GMの公開ポリシーなどと同じ部分なのです。「きれい」にしたい。プレイヤーにとって望ましい世界にすべきだ,という。

田中弘道氏:
 やはりRMTの詐欺事件とか,現実の犯罪に巻き込まれてしまう危険が,第一に考えるべき事柄です。それからゲーム内においては,不正行為および特定の集団による狩り場独占などによって,一般のプレイヤーが迷惑をこうむる。
 そうしたところでのプレイヤー保護が,スペシャルタスクチームの仕事です。

Sage Sundi氏:
 FFXIはせっかく,コミュニティとしていろいろ確立できたところだと思うのです。これを長く生かすには,それしかないと思います。自分の子供に入らせたくないようなコミュニティは,ダメだと思うんです。

■継続的な取り組みと,意志表示としての報告

4Gamer:
 プレイヤー保護が,結果的にRMTの取り締まりに向かうと。そうした部分が,いままでの発表で見えなかったところかもしれません。「スペシャルタスクチームとは,RMTを排除する組織である」という,短絡的な解釈だけで。

Sage Sundi氏:
 言ってきたつもりではあるのですが,確かに伝わりにくいことだったかもしれませんね。

室内俊夫氏:
 根っこにあるのは,GMと同じものなんですよ。

4Gamer:
 ああ,そうか。レイヤーが違うだけで,別バージョンのGMなんですね。

室内俊夫氏:
 そうです。それと,アプローチの方法がGMと違うというだけで。

Sage Sundi氏:
 活動報告を公にし始めたのは最近ですから「なんでいまさら?」と思う人もいるとは思いますが,プログラムの改良やら何やら,これまでもずっとやってきました。その報告であり,意志表明でもあるのです。

4Gamer:
 まあでも,言わなければ分からないこともありますし。

室内俊夫氏:
 そうです。そして,言わないでやると,おかしな伝わり方をしてしまったりもします。

Sage Sundi氏:
 「GM呼んだら,呼んだほうが処罰されるぞ」とか。でもこうした話の本当のところは,当事者に都合の悪い事情説明が省かれたまま,第三者による噂だけが流れたものだったりするのです。

4Gamer:
 オンラインゲームでは,運営側の取り組みもその意図も,プレイヤーさんと正しく共有する努力が必要ということですね。プレイヤーさんにとって吉報となる報告を,今後も楽しみにしています。本日はありがとうございました。



 冒頭でも触れたが,今回のインタビューは「スクウェア・エニックスという会社が,RMT全般についてどう思っているか」という,ゼネラル・トゥ・ゼネラルな話題では全然ない。FFXIに限られるわけではないとはいえ,主にFFXIでの活動において,「スペシャルタスクチームが,どう考えてRMTの徹底した取り締まりを実施しているか」という,まことに具体的,現実的な視点に基づいてのものだ。
 その彼らはいわば「別バージョンのGM」であり,「プレイヤー保護」「コンテンツを長く生かす」という,これまた至極現実的な地平に立つ。そして,RMTを折り込んでいないゲームとしてのFFXIにおける,RMTの厳しい取り締まりに至った。

 その一方で彼らの発言はときおり,こちらが驚くほどの率直さを示す。ゲームバランスに重大な影響を出さず,一般プレイヤーのプレイ環境を不快にしないなら,別にRMTそのものを目的論的に断罪するつもりはない……そう読めても不思議でない,論題の立て方なのだ。
 だが,思うにこれこそが,余計な抽象論を差し挟まず,純粋に運営者の立場に立ったときのRMT観なのかもしれない。もちろん,RMT全般をめぐっては,ゲームデザインと規約は常に公正なのか,規約からはみ出す欲望はすべて無意味なのか,という類の問いかけはなおも残るだろうが,少なくとも運営側が,「規約は守ってもらう」という原則を崩すわけにはいかない。それを踏まえる限り,今回のインタビューは実に即物的な話題に終始している。

 問題点を整理せず,実態に基づかない姿勢でRMTを感情的に切り回してみても,話は前進しない。きちんと対象と状況を限定したからこそ,スペシャルタスクチームの姿勢は明確になったのだ。そうした文脈を読み取ってもらえれば,このインタビューにも意味があったことになるだろう。(インタビュー:Kazuhisa / 文責:Guevarista)

(2007年1月15日収録)

  • 関連タイトル:

    ファイナルファンタジーXI

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