2010年8月31日,「
CEDEC 2010」で“
「Final Fantasy XIV」におけるキャラクター制作 〜品質を支えるワークフローと制作手法〜”と題された講演が行われた。講演を行ったのは,スクウェア・エニックス開発部で,FFXIVのキャラクター班モデル制作チーフを担当した
馬場敬一氏と,同班のテクスチャ制作チーフ
石井晴也氏の2名。
写真左:石井晴也氏 写真右:馬場敬一氏
![画像集#002のサムネイル/[CEDEC 2010]「FINAL FANTASY XIV」のキャラクター制作手法とは。さまざまな工夫が明らかになった講演内容をレポート](/games/092/G009287/20100901009/TN/002.jpg) |
講演のメインテーマは,PCとPlayStation 3で発売される予定の
「FINAL FANTASY XIV」(
PC /
PS3)(以下,FFXIV)におけるアバター(プレイアブルキャラクター)と,それらが身につける装備品の制作手法についてだ。装備品のクオリティにこだわりつつ,バリエーションを多くするという目標をかかげ,実際にどのように制作していったのか,またどういった工夫をしたのかなどが具体例と共に紹介された。
4Gamer読者ならご存じのとおり,FFXIVは現世代のオンラインゲームとしては最高級といえるグラフィックスのクオリティを誇っている。CEDEC会場内で最も大きいメインホールには,FFXIVのノウハウを知るために,大勢の人達が集まっていた。
FFXIのアバターをいかにしてFFXIVへ引き継ぐのか
FFXIVの開発にあたり,キャラクター班は大きく三つの目標を掲げた。「
ファイナルファンタジーXIのアバターを引き継げるビジュアルの実現」「
長期運営に耐えうる高品質グラフィックス」,そして「
限られた容量の中で数多くのバリエーションを実現する」ことだ。これらは口でいうほど簡単なことではなく,開発当時は困難の連続だったと馬場氏は語る。
馬場氏達が最初に行ったのは,FFXIのキャラクターを現在の技術で再構成すること。その結果,どことなくFFXIをイメージさせるキャラクターデザインになった。FFXIのプレイ経験があるFFXIVのテスター参加者であれば,多かれ少なかれ,両者を近いイメージとして見ていることだろう。
もちろん,現在の技術で再構成するといっても,ポリゴンを増やしたり,テクスチャを綺麗にしたりしただけではない。髪や目鼻など,各パーツを個別にカスタマイズできるようにもなった。
また,感情を豊かに表現するために,目や口の周りには多くのポリゴンを用いたり,ヘルメット類を装備した際に,髪型によって境界線を滑らかにしたりといった工夫が凝らされている。単純にFFXIをベースに作り上げていくだけでなく,より魅力的なキャラクターの実現を目指したとのことだ。
FFXIVはFFXIと異なり,プラットフォームがPCとPlayStation 3で,しかもワールドワイド展開を行う。この違いがアバターデザインにも影響を及ぼしているという。最初にPlayStation 2版が発売されたFFXIでは,全体的にデフォルメされていたが,FFXIVでは若干リアル寄りにしたという。
開発スタッフがとくにこだわった例として,同じ種族の中に2種類の“民族”を導入したことが挙げられた。ヒューランの場合は標準体型の“ミッドランダー”だけでなく,海外ユーザーのニーズに応えるべく,筋肉質の“ハイランダー”を用意したそうだ。
グラフィックスのクオリティ維持とバリエーションを両立するべく“分業化”を徹底
講演のハイライトは,装備品の制作に関する具体的な手法が明らかにされたことだろう。キャラクター班は,「高品質なグラフィックス」と「バリエーションの多彩さ」の両立を目指し,試行錯誤を重ねたという。結果,見事実現できたわけだが,成功のキーワードは“分業化”だ。
装備品の制作に携わるスタッフは,“プランナー班,アート班,キャラクタ班”の三つに分けられる。FFXIVでは,キャラクタ班を“キャラモデル班,キャラテクスチャ班,キャラスカルプト班,キャラ顔班”の四つに分け,徹底的に分業していったのだそうだ。
分業化を行うことで,短時間で膨大な装備品を制作することに成功したと馬場氏は語る。
着せ替え時の矛盾を解消&アイテムバリエーションを大幅に増やすためのノウハウ
装備品を次々と作り出す中,今度は別の問題が生じる。マイキャラクターの装備品は6部位がグラフィックスに反映されるが,それらの組み合わせ方によっては,“はみだし,突き抜け”といったことが起こりうる。例えば,ガントレットの上にローブを羽織ったときに,表から見えていてはいけない部分が見えてしまうといった状態だ。
馬場氏達は,主に二つのテクニックを駆使しながら,この課題に真正面から立ち向かっていったそうだ。
・ポリゴンの表示/非表示
装備品の一部のポリゴンだけを非表示にする
・シェイプ変形
ポリゴンの頂点をアニメーションさせて,装備品全体の形状を変化
上記二つのテクニックを組み合わせたうえで,さらに体の部位ごとに“切断面”と,装備品ごとに表示させる“優先順位”を設定。その結果,接合部などの違和感がなくなり,デザインの自由度が増すと共に,プレイヤーの満足度アップに大きく貢献することになる。ちなみに,シェイプ変形や優先順位などの計算は,マイキャラが装備品を変えるたびに,リアルタイムで行っているとのことだ。
続いてステージに登壇した石井氏からは,アイテムのバリエーションを効率良く増やすための,テクスチャの制作工程について説明が行われた。
装備品の制作にあたり,最初にプランナーから「可能な限り装備品の数を増やしてほしい」と頼まれたという。しかしそのオーダーをそのまま実行すると,データ容量が巨大化し,コストが一気に膨れ上がってしまう。そこで石井氏は,“テクスチャー,シェーダーパラメーター,モデル形状”の三つの観点で工夫を凝らすことにより,効率良くバリエーションを増やすことに成功したそうだ。
FFXIVでは,装備品の“合成”を行うと,元となった素材の質感が反映される。合成に何を用いたかで,同じブーツでもテクスチャや色などが微妙に異なるのだ。布,皮,金属などといったテクスチャを60種類作成し,色などのパラメータを変更することで,250種類まで増やせたという。
素材のほかには,同系統の鎧でも肩当てなどの一部パーツを消したり,形状を加工したりしてバリエーションを増やせる。使い回しといってしまえばそれまでだが,具体例を目にすると,まったく別の装備品に見えるから不思議だ。詳しくは掲載画像をじっくりと見てもらいたい。
分業制は一定の成果を達成。今後の課題も
FFXIVは,綿密な計画の下に分業化を行い,セクション間の連携を密に行うことで,クオリティ維持とボリュームアップの両立に成功した。
ただし,向上心のある人ほど,断片化された作業の繰り返しに飽きてしまいやすいため,分業化にも限度がある。チームを率いる人間として,メンバーのモチベーション維持にどのように立ち向かっていくかが今後の課題だと馬場氏は講演を締めくくった。
ちなみに,YouTubeのFFXIV公式チャンネルには,装備デザインについての紹介ムービーが公開されている。下に掲載したので,こちらも合わせて確認すると,今回の講演内容がより理解しやくなるだろう。