2009年度を代表する作品となった「Uncharted 2: Among Thieves」の副リードデザイナー,Richard Lemarchand(リチャード・レマーチャンド)氏
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Game Developers Conferenceの恒例イベント,第10回Game Developers Choice Awardsにおいて,大賞である「Game Of The Year」を含む5冠を獲得し,圧倒的な強さを見せつけた
「Uncharted 2: Among Thieves」(邦題
アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団)。まさに2009年度の代表タイトルといった感があるが,その開発元であるNaughty Dogで副リードデザイナーを務めるRichard Lemarchand(リチャード・レマーチャンド)氏が,
「Among Friends - An Uncharted 2: Among Thieves Post Mortem」(仲間と共に − アンチャーテッド2の事後検証)というタイトルのレクチャーを行い,この超大作がどのように制作されていったのかを解説した。
Naughty Dogの秘伝の書(?),「Macro Design」の例
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「クラッシュ・バンディクー」など日本でも知られたソフトで実績を持つNaughty Dogは,Sony Computer Entertainmentと共にICE Teamという研究開発部隊を設立し,ソニーのセカンドパーティとして,PlayStation 3の表から裏までを知り尽くすメーカーだ。Uncharted 2は,そんなノウハウを活かしてセルプロッセッサーの力を限界まで引き出し,このシリーズの掲げる「シネマティック・リアリティ」というコンセプトを,とことん追求したゲームである。しかし,その開発中には,主人公ネイサン・ドレイクばりの綱渡りを何度も経験していたようだ。
まず,注目しておきたいのは,Uncharted 2の開発には明確な企画書を用意しなかったという点だ。北米では,最近こういったプロダクション方式を採用するメーカーが増えており,Naughty Dogもそれを取り入れたのであろう。企画書の製作に時間をかける代わりに,アートや写真などを繋ぎあわせたスクラップブックでイメージを膨らませつつ,開発者同士が常にミーティングを重ねていくことで対応するもので,これはラグビーなどで良く聞く「Scrum」(スクラム)と呼ばれるシステムである。
ストーリーは,興味深いシーンの一つ一つを小型のノートに書き込み,それをレベルごとに連続して貼り付け,ときには並び替えながら物語の起伏を作っていくという,こちらはハリウッド映画の脚本作りのようなスタイルが採用されていた。
ストーリーは,シーンごとに細かくわけて繋ぎ合せる
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また,ゲームのコンセプトやテクノロジーが固まってきてからは,レマーチャンド氏が「Macro Design」(マクロデザイン)と呼んだ,スプレッドシートによるドキュメントが作成される。企画書よりもさらに具体的な内容,例えば特定のシーンにどんな敵が,どういう形で登場して戦っていくのかといったことが,綿密に書き込まれている。レマーチャンド氏は,このMacro Designを細かく書いていくことで,ゲームのストーリーとアクションのペースが,おのずとマッチしていくのだと話していた。
この頃になると,簡単なプリレンダリングムービーを使って,アクションシークエンスがどのようなものになるのかを確かめる。レマーチャンド氏は,「まるで動くイメージアートみたいなもの」と表現していたが,実際のゲームエンジンで動いていないとはいえ,すでに後々のゲームと同じアングルになっているのには驚かされる。
プリプロダクション段階で作成されたムービーと,完成後のゲームの比較。プロジェクターで映されている動画を撮影するのは難しいのだが,共通点が多いのが興味深い
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アートは,台湾やフィリピンにアウトソース。どんなものをデザインするかは非常に細かく伝えたという
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そうして,ようやくプロダクション段階に入ってくると,今度は「Micro Design」(ミクロデザイン)のフェーズに入る。こちらは,日本の自動車産業などで良く耳にするJust-in-Timeシステムを応用し,アートやキャラクターモデル,レベルのレイアウトといったことを,そのマップの制作に合わせて一斉に送り込み,例えばそのレベルにまったく登場しないキャラクターを作っているアーティストがいないような,非常に贅肉がそぎ落とされたシステムで開発が進められていったという。
レマーチャンド氏が,開発で最も苦労していたというのが,このゲームの最大の見せ場でもある列車での戦闘シーン。列車の貨車は50台も連なっており,それが動くマップとしても機能している。余りにも意欲的だったために,最初にデザインしたものの一度中断し,完成したのは一番最後だったという。
2008年の年末年始の,各開発メンバーのスケジュールを細かく管理
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あれだけのシーンなので,レマーチャンド氏が「技術的な大偉業だった」と自画自賛するのも分からないでもないが,実際にはレベルのレイアウトの時間が予想をはるかに超えるものだったらしく,クランチ(マスターアップ直前の多忙な時間)に相当響いたのだという。とくに,アクションのペースを調整するたびに,音あわせを余儀なくされたサウンドデザイナーなどには多大なプレッシャーがかかり,チームの中には家族と不和になったり,健康を害した者もいるらしい。それでも,レマーチャンド氏は,「プロジェクトのリーダーの一人として,メンバーの状態には気を使う。我々にとっては,このゲームは“Among Thieves”ではなく,“Among Friends”なんです」と締めくくった。