プレイレポート
あれは「大神」「ワンダ」「KILLZONE」へのオマージュだったの!? サントラ制作秘話やイーノックにまつわる衝撃の事実も明らかになった「エルシャダイ」インタビュー&プレイレポート
壮絶な論戦の末生み出された
妥協なき天界の調べ
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは甲田さんの自己紹介を兼ねて,これまで手がけてきた作品などをお聞きしたいと思います。
よろしくお願いします。僕は元々,カプコンの第一開発部の人間で,かつては「ダンジョンズ&ドラゴンズ シャドーオーバーミスタラ」や「ヴァンパイアセイヴァー The Lord of Vampire」「MARVEL VS. CAPCOM CLASH OF SUPER HEROES」の曲なんかを作っていました。そのあと,「Devil May Cry」のヘルプという形で,初めてコンシューマ作品に関わりました。
4Gamer:
そして,誰もが知っているあのシリーズの曲も,甲田さんが手がけられていますよね。
甲田氏:
はい。Devil May Cryのあとにカプコンを退社したんですが,そのときに担当していたのが「モンスターハンター」です。その後,モンスターハンターシリーズにも関わりつつ,「ワイルドアームズ」シリーズの楽曲などを手がけ,ここ最近はずっとエルシャダイに掛かりっきりでした。
木村雅人氏(以下,木村氏):
元カプコンの僕らからしたら,甲田さんはDevil May Cryの頃に一緒に仕事をさせていただいた,大先輩です。
4Gamer:
カプコン時代,甲田さんとはお知り合いだったんですか?
竹安佐和記氏(以下,竹安氏):
部署が違ったこともあり,顔は知っているくらいの感じでした。直接お話ししたのは,今回のエルシャダイが初めてですね。
4Gamer:
今回,エルシャダイで甲田さんに楽曲をお願いしようと思った理由はなんでしょう。
最初,カプコン時代に同じ部署だった,デザインウェーブの森さん(「大神」「バイオハザード」などの効果音を担当した森 敦史氏。現在同社の代表取締役を務める)に,エルシャダイのサウンドをお願いしたんです。その時,森さんから「ぜひ」という形で甲田さんを紹介されたのが,そもそもの切っ掛けですね。
4Gamer:
エルシャダイの話がきたとき,甲田さんはどう思いました?
甲田氏:
デザインウェーブは勝手知ったる仲間達ですし,木村さんや竹安さんも元々知り合いでしたし,断る理由はなかったですね。純粋に楽しみでした。
木村氏:
なんか,主要な登場人物がみんな元カプコンですけど(笑)。でも,だからこそやりやすいこともあるのというのは事実です。
甲田氏:
そうですね。直接的に深く関わったことはなくても,これまで手がけた作品や仕事の仕方は,何となく分かりますし。
4Gamer:
エルシャダイには明確な世界観があり,あらゆる部分からコンセプトが感じられますが,そのあたりのことをサウンドチームに伝えるのは,やはり大変でしたか?
竹安氏:
イメージの共有にはさほど苦労はしなかったんですが,一曲目を完成させるのに半年くらいかかりましたね。甲田さんとは直接的なやりとりはなかったですけど,デザインウェーブの森さんとは何度も険悪なムードになりました。
4Gamer:
なんと……ちなみに,半年近くかかった理由はどこに?
竹安氏:
僕は人当たりが良さそうに見られるのか,よく誤解されるんですけど,実はダメなときはダメとハッキリ言ってしまう人間なんです。
木村氏:
たまに「別人なんじゃないか」っていうくらいに冷たい感じになるよね。
竹安氏:
森さんも戸惑ったと思います。「こんなやつだったの?」と(笑)。
僕は“雰囲気”でしゃべるのが嫌いで,とことん理詰めで話をしてしまうんです。「ここはこういう風にダメだと思うんですけど,こうなった意図を説明してください」と。で,「そういう意図なら,ここはなんでこうなってるんですか?」といった感じで。自分でも,こいつモテないだろうなぁと思ってしまうようなことを,延々と(笑)。
4Gamer:
音楽に関しても,かなり具体的に指示を出されるんですね。
竹安氏:
そうなんですよ。甲田さんはどうでした?
甲田氏:
細かい指示はありましたけど,大枠のイメージに関しては,最初から最後まで一切ブレていませんよね。
竹安氏:
僕は作家性というものを大切にしたいので,そこは変わらずですね。モノを創るということを集団でやる以上,どうせなら一人では作れないものを創りたいじゃないですか。なので「俺の世界を創れ!」というのはイヤなんです。僕はこういうことをやりたいんだけど,あなたはどうです? と,バンドのセッションのような感じでやりたいんですね。
4Gamer:
なるほど。そう聞くと先ほどの「理詰めで延々と……」というのもイヤじゃなくなりますね(笑)。
竹安氏:
自分の思い通りにしたいなら,自分一人でやればいいですからね。なので僕は,自分よりも,相手のやりたいことがまず気になります。
ちなみにオープニングテーマに関しては,最初にメロディを聴いたときは,一発OKでした。そこからの装飾……音が増えていく段階で,いろいろ口を挟むような感じでしたね。
甲田氏:
普段は「こんな雰囲気で」みたいな注文ばかりなので,細かく突っ込まれたのは逆に新鮮でした。竹安さんの場合は,曲の構成とか,メロディの上がり下がりとか,本当に細かいところまで妥協しないから。
竹安氏:
黙々と質問をしていたんで,イヤだったでしょ(笑)。
甲田氏:
そんなことないですよ(笑)。今回は時間もあったし,全然イヤではなかったです。途中で突っ込まれなくなったら逆に心配ですし,最終的に納得のいくまでセッションができてよかったです。
これは竹安というディレクターの特徴なんでしょうね。実力のある人に対して,信頼できるまで,理解し合えるまでとことん質問するし,意見もする。だけど一度信頼すれば,どこまでも任せてしまう。それこそこっちが,「そんなに任せて大丈夫か?」と心配になるくらいに(笑)。
竹安氏:
映画の「ゴッドファーザー」が好きなので,ちょっと影響を受けているかもしれないですね。チーム内でも,戸惑う人が多かったかもしれない。
木村氏:
そんなこともあって,どんな作業も最初は時間がかかるんですけど,途中から急激にペースアップするんですよ。
竹安氏:
一度信頼しちゃったあとは,ザルですね。最終的にはあまりにも任せすぎて,とんでもないことになりました。例えば,Fixしたと思った曲が,ある日急に変わっていったりするんですよ。ある曲が変わった場合,それに前後する曲にも調整が必要になるわけで……あれには参りました(苦笑)。
4Gamer:
ちなみにそれぞれの楽曲は,最初にどのシーンに当て込むかを決めてから制作していたんですか?
甲田氏:
主要キャラクターのテーマやオープニング曲など,コンセプトが明確なものはもちろん決めうちで作りましたけど,それ以外のものは,イメージ優先で作っていましたね。
竹安氏:
シーンへの曲付けは,ラスト1か月が辛かったですねぇ。どのバージョンがFixか分からないくらいに曲が変わっていたので(笑)。
甲田氏:
でもそれはお互い様じゃないですかね。サウンドチームとしては,毎日ゲームが変わっているように思えるんですよ。「こういう流れになるんだったら,こういう曲が必要になるよね」といったやりとりは,こちらでも頻繁に発生していました。
竹安氏:
うわー,思い出すなぁ……そういえば,社内はむっちゃギクシャクしてましたよ(笑)。僕何度も制作チームの人に「売れるもん作れ!」と怒鳴った記憶があります。
4Gamer:
そんな……そりゃそうですけど(笑)。
竹安氏:
ゲームって最後の最後,完成するまでユーザーに見せられる形にならないんですよ。パーツパーツで作っているものを,とりあえず仮組みした開発版なんて,本当に面白くない。
木村氏:
いわゆる総合芸術的な部分があって,各パートの成果物がバラバラにできあがっていくから,いろいろと食い違いが生じやすいんですよね。
竹安氏:
あと,僕が煽りまくっていたせいもあるんですが,パイオニア精神旺盛な人がたくさん生まれてしまって,その人達が止まらなくなるんですよ。止めると,「ああ,ディレクターは諦めてる」みたいな対応をされてしまうし。とくにサウンドに関しては,それが最後まできつかったですね。どんどん曲が生まれてくるという。
あとSEなんかは,どうしても最後にまわってくる仕事なんですよね。例えば,キャラクターのモーションが少し変わっただけで,そこに入るSEにも調整が必要になる。極端な話をすると,当初「雷の属性」だと言われてSEを作っていたら,いつの間にか「火の属性」になっていたことがありましたよ(笑)。
竹安氏:
完成前の1年間は,そんなことの連続でしたね。才能ある人にバンバン権限を与えて,みんなやりたいことがはっきりしてきて,彼らがガンガン生み出してくるものを,どうやってまとめようかと。僕は絵が描けるから,イメージを伝えるのは簡単なんですが,壮大な積み木みたいな作業には困りました。
4Gamer:
クールに仕事を進めている印象があったんですが,舞台裏は大変だったんですねぇ……。
竹安氏:
プロジェクトとしては相当リスキーですよね。親会社からも頻繁に「大丈夫か?」と言われていたんですが,そこは「大丈夫だ,問題ない」と。
木村氏:
この名台詞が生まれた背景にはそんな理由があったわけです(笑)。確かに当初からずっと言ってましたからね。
シャダイ語=ゼントラーディ語!?
作品を包む美しいコーラスに隠された秘密
そういえば,「イメージカラーは白」というのを甲田さんに伝えたときに,それだけで浮かんだメロディがあったとお聞きしました。色で音が思い浮かぶんや……と驚かされました。
甲田氏:
色や言葉からコード感が浮かび上がって,曲になることはありますね。
竹安氏:
先ほど,テーマ曲には半年かかったという話をしましたが,とくにコーラスが大変でしたね。コーラスを男声にするか,女声にするか,歌にするか,声だけにするか。親会社が外資なので,下手な英語を付けると笑われた上で却下されるんですよ。よう笑われました。
4Gamer:
結果的には……。
竹安氏:
謎の言語が生まれましたね。コーラスはシャダイ語です。
甲田氏:
シャダイ語(笑)。でもそのおかげで,エルシャダイのコーラスサウンドは非常に特徴的なものになりましたね。
竹安氏:
結果的には正解でしたね。最初のバージョンのコーラスは,歌詞がモロ英語だったんです。「明日本社に提出なのに,これは聴かせられない……」ということで,受け取ったその日の終電で大阪に行って,森さんに「今から明日の朝までにやりなおしてください」とお願いしたことがありました。
4Gamer:
鬼や……鬼がおる……。
甲田氏:
まぁ,日本人では判断しづらい部分の善し悪しなので,難しいですよね……。
竹安氏:
でもワールドワイドで売る場合には,やっぱりシャダイ語みたいなものがベターなんじゃないかと思いますね。
4Gamer:
ちなみにシャダイ語は誰が考案したんですか?
原案は僕なんですが,実際にシャダイ文字をデザインしたのは,エルシャダイのタイトルロゴを作ってくれた方なんです。音のほうは,コーラスを担当したエミネンス交響合唱団の方が考えてくれました。
まぁ,個人的にゼントラーディ語が好きなので,ああいうものをいつかやりたかったんです。
木村氏:
特定の言語に聞こえてはいけないから,音のほうに関しては,甲田さんを含むサウンドチームと,合唱団の方に作ってもらって,コーラスそのものも海外の方に歌ってもらいました。
甲田氏:
日本から遠隔収録したんですよ。エミネンス交響合唱団はシドニーが本拠地なんですけど,こっちは日本にいながら,Skypeなんかも使いつつ生中継でやりとりして。
4Gamer:
なんと,そんな収録方法があるんですか。とくに問題はありませんでした?
甲田氏:
ええ,まったくありませんでした。実際に収録するときと何ら変わらない。音もリアルタイムだし,このやり方が主流になると,出張する機会が減りそうですね。未来を感じました。
竹安氏:
今回,オーケストラ収録をしてみて,絶対いつかやってみようと思いついたことがあるんです。チューニングの音あるじゃないですか,あれ,凄く格好いいんですよね。
4Gamer:
それをゲームに盛り込むということですか?
甲田氏:
なるほど。タイトル画面とかに合うかもあれませんね。
竹安氏:
タイトル画面とか……変わり続ける画面。最初は画面がグチャグチャで,何が描かれているか分からないんです。そこで調律の音が流れると,画面の混乱が収まっていき,ステージが徐々に見えてきて……みたいな。
甲田氏:
素敵ですねぇ……。でも,その発言をカットしてもらわないと,次の作品を手がける前に盗まれるんじゃないですか?
竹安氏:
いやいや,パクられてもクオリティで勝ちますよ。
4Gamer:
竹安さん素敵……。
- 関連タイトル:
El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON
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