レビュー
その実態はGTX 555の一般PC市場向けモデルか。謎のGPUを試してみた
GeForce GTX 560 SE
(ZOTAC GTX 560 SE 1GB)
ZOTAC GTX 560 SE 1GB(ZT-50901-10M) メーカー:ZOTAC International 問い合わせ先:アスク(販売代理店) [email protected] 実勢価格:1万3000〜1万5000円程度(※2012年4月18日現在) |
今回入手したサンプルではGPUクーラーにシールが貼られていないが,実際にはこちらの写真のとおり,製品名入りのシールが貼られる |
ただ,このGTX 560 SE,2012年4月中旬をもってなおNVIDIAの公式Webサイト内GeForce情報ページやGeForce公式Webサイトの製品一覧ページに情報がなく,その仕様は依然としてはっきりしないのである。
型番からして,「GeForce GTX 560」(以下,GTX 560)の下位モデルであることはほぼ間違いないが,その立ち位置を我々ゲーマーはどう判断すべきか。今回はZOTACの販売代理店であるアスクから,比較対象のカードも込みでZOTAC GTX 560 SEを借りられたので,GTX 560 SEの素性に迫ってみたい。
GF114のフルスペックから2基のSMを無効化
メモリインタフェースも192bitに
ちなみにCUDA Core数が288基というのは,GeForce GTX 55x系の型番を持ちながらGTX 560などと同じ「GF114」コアを採用するGPU「GeForce GTX 555」(以下,GTX 555)と同じだ。GTX 560 SEは,そんなGTX 555の一般PC市場向けモデルといった理解が正解かもしれない。
GF114コアでは,48基のCUDA Coreが,8基のテクスチャユニットや1基のジオメトリエンジンなどとともに「Streaming Multiprocessor」(以下,SM)を構成し,それが4基集まって“ミニGPU”たる「Graphics Processing Cluster」(以下,GPC)となるわけだが,288 CUDA Core仕様となるGTX 560 SEとGTX 555のSM数はいずれも6基。GF114コアのフルスペック仕様となる「GeForce GTX 560 Ti」では8 SM,GTX 560では7 SM構成なので,GTX 560よりさらにSM数が1基減った計算になるわけだ。
もっとも,GF114コアを構成する2基のGPCで,それぞれ1基ずつSMが削られているのか,片方だけ2基になっているのか,はたまた混在していたり,GTX 560 SEとGTX 555という製品単位で分けられていたりするのかまでははっきりしないのだが。
ZOTAC公式Webサイトにあるスペック一覧より |
こちらはNVIDIAコントロールパネルからスペックを見たところ。クロックの値がZOTAC公式Webサイトと異なる |
そのほか細かなスペックを,GTX 560やGTX 550 Ti,「Radeon HD 6850」(以下,HD 6850)といったあたりと比較したものが表1になる。
ただし,冒頭でも述べたとおり,GTX 560 SEのリファレンスクロックは明らかになっていないので,今回「GTX 560 SEのスペック」として掲載したものはZOTAC GTX 560 SEのそれだ。
しかも,ZOTAC GTX 560 SEの動作クロックは,ZOTAC公式Webサイト上と,NVIDIAコントロールパネルから確認したときとで,コアクロックが10MHz異なっていた。今回は,より正しそうな情報を優先して掲載しているが,いろいろ断らねばならない部分も少なくないので,ぜひ注釈を合わせて参照してもらえればと思う。
※2012年4月18日追記
GTX 560 SEのリファレンスクロックがコア736MHz,メモリ3800MHz相当であると,NVIDIAに確認が取れました。
基板自体は168mmと短いものの
GPUクーラーが後方へ68mmも飛び出す構造に
外観でまず目に留まるのが,2系統の6ピン補助電源コネクタがカードの中央より若干後方側に用意されていること。「なぜこんな場所に?」と思うのだが,実のところZOTAC GTX 560 SEの基板長は実測168mm(※突起部含まず)なのに対し,GPUクーラーがカード後方へ同68mmもはみ出しており,それゆえ,ぱっと見で違和感のある補助電源コネクタ配置になっているのである。
GPUクーラーのファン部分はカードの表裏両方から吸気する仕様で,前方の排気孔に向かってエアフローを発生させるような構造だ。ただ,排気孔のスペースが意外に狭く,吸気周りの設計と比べるとややちぐはぐな印象も受ける。
ヒートシンクを取り外すと目に入るのは,グラフィックスメモリチップ2枚分の空きパターンが用意されていること。ZOTAC GTX 560 SEと同時に入手したZOTAC製GTX 560カード「ZOTAC GTX 560 1GB DDR5 SHORT BF3」(型番:ZT-50713-10M)とは基板長こそ同じながら基板デザインは微妙に異なっていたため,なぜ空きパターンが設けられているのかは分からないが,ひょっとすると,将来的に基板の共通化を予定していたりするのかもしれない。
「ならなぜ下位モデルたるGTX 560 SE搭載カードで大きなクーラーを搭載してきたのか」という疑問は残るが,クーラーのデザインを見比べるに,コストダウンという可能性が高そうである。
なお,搭載されるグラフィックスメモリチップはSK Hynix(旧Hynix Semiconductor)製のGDDR5「H5GQ2H24MFR-T2C」(5.0bps品)が2枚と,同社の「5GQ1H24BFR-T2C」(5.0bps品)が4枚。前者が2Gbit品,後者が1Gbit品となっており,6枚でグラフィックスメモリ容量1GBを実現している。このあたりは,同じく192bitメモリインタフェースを採用するGTX 550 Tiのメモリ構成と同じだ。
上位&下位モデルとの比較から立ち位置を探る
ドライバには最新のRelease 301.24 Betaを利用
今回用意した比較対象は,表1で示したGPU群から,OEM向けのGTX 555を省いたものとなる。直接の上位および下位モデルだけでなく,GTX 560 SEの1万3000〜1万5000円程度(※2012年4月18日現在)という実勢価格に近い価格で販売されているHD 6850も「競合代表」として用意した次第だ。
WinFast GTX550 Ti O.Cはメーカーレベルのクロックアップモデルなので,テストにあたってはリファレンス相当へとクロックを引き下げている。また,ZOTAC GTX 560 1GB DDR5 SHORT BF3は動作クロックがコア810MHz,シェーダ1620MHz,メモリ4008MHz相当というスペックになっていたため,想定される最低クロックで揃えるべく,メモリクロックを4004MHz相当へ落としたことも合わせてお断りしておきたい。
できれば「Radeon HD 7770」も比較対象に加えたかったのだが,テストスケジュールの都合上,今回は省略した。HD 7770との力関係を知りたい場合は,HD 7770のレビュー記事から,HD 6850およびGTX 550 Tiのスコアを本稿の内容と照らし合わせ,推測してもらえればと思う。
ZOTAC GTX 560 1GB DDR5 SHORT BF3(型番:ZT-50713-10M) カード長183mmのGTX 560カード メーカー:ZOTAC International 問い合わせ先:アスク(販売代理店) [email protected] 実勢価格:1万5000〜1万7000円程度(※2012年4月18日現在) |
WinFast GTX550 Ti O.C コアクロックを30MHz引き上げた,クロックアップ仕様のGTX 550 Ti メーカー:ZOTAC International 問い合わせ先:アスク(販売代理店) [email protected] 実勢価格:1万6000円前後(※2012年4月18日現在) |
そのほかのテスト環境は表2のとおり。テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション12.1に準拠するが,今回はスケジュールの都合から,対象のタイトルを「3DMark11」(Version 1.0.3)と「Battlefield 3」(以下,BF3),それに「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)と「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)の4つに絞った。
テスト解像度は,GTX 560 SEがミドルクラス市場向けということで,1600×900ドットと1920×1080ドットの2つを選択している。GeForce 3製品のテストに用いたグラフィックスドライバは,Skyrimへの最適化が謳われている「GeForce 301.24 Driver Beta」だ。
なお,CPUの「Core i7-2600K/3.4GHz」では,負荷状況に応じた自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」を利用可能だが,今回は,テスト状況によって効果が変わる可能性を排除すべく,同機能をマザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化している。
以下,本文およびグラフ中で,紹介したグラフィックスカードを製品名ではなくGPU名で呼ぶことも,ここであらかじめお断りしておきたい。
スコアはGTX 560とGTX 550 Tiの間に収まるが
メモリ周りの弱さが露呈する場面も
というわけでグラフ1は,3DMark 11における「Performance」と「Extreme」,両プリセットのスコアをまとめたものになる。GTX 560 SEはGTX 550 Tiに対して26〜28%程度高いスコアを出している一方で,GTX 560に対しては80%強と,ほぼ中間の位置にあると述べていいだろう。
HD 6850からはやや置いて行かれている印象だ。
続いてグラフ2,3はBF3のテスト結果だ。ここでもGTX 560 SEは「GTX 560とGTX 550 Tiの間」という位置を確保した。
ただ,細かく見てみると,「低負荷設定」こそ対GTX 560で82〜83%程度というスコアを示しているものの,「高負荷設定」では77〜79%程度と,スコア差が広がっている。BF3ではメモリ周りの性能がスコアを左右しやすいだけに,GF114のフルスペックからROPパーティションとメモリコントローラが1基ずつ削られていることが影響したと見るべきだろう。
一方,HD 6850との比較では,低負荷設定で一歩及ばない一方,高負荷設定では逆転を果たしており,もともとDirectX 11タイトルに強いFermiアーキテクチャであること,そしてBF3自体がGeForceに最適化されていることの恩恵を受けているのも分かる。
DirectX 9世代の典型的なタイトル代表として用いている「Call of Duty 4」だと,GTX 560 SEはどちらかといえばGTX 560に近いスコアを示した(グラフ4,5)。Call of Duty 4はシェーダユニットとテクスチャユニットの性能が“効く”タイトルなので,いずれも搭載量がGTX 550 Ti比1.5倍となっている効果が出たというわけだ。
ただ,ここではDirectX 9世代のタイトルに強いHD 6850がGTX 560とほぼ同じスコアを叩き出しているため,HD 6850には4〜13%程度離される結果になってもいる。
高解像度テクスチャパックの導入により,メモリ負荷が極めて高くなっているSkyrimでは,案の定というか何というか,GTX 560 SEとGTX 560のスコア差が開いているのが,グラフ6,7から見て取れる。。とくに8xアンチエイリアシングを適用したUltra設定では23〜25%程度も低く,むしろ平均フレームレートは(メモリ周りのスペックが近いこともあってか)GTX 550 Tiに近くなってしまった。
ただ,Skyrimに向けたNVIDIA側の最適化が進んでいることもあり,それでもHD 6850とほぼ同等の水準を維持できてはいる。
コア電圧を落とすことで低消費電力を実現か
大型クーラーの搭載により温度も比較的低めに
GTX 560 SEの補助電源コネクタが上位モデルと同じ6ピン×2ということで,消費電力の低減はそれほど期待できないと予想している人も多いだろうが,実際のところを,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて確認してみよう。
ここでは,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果がグラフ8で,GTX 560 SEはアイドル時の消費電力がGTX 550 Tiより低く,また,アプリケーション実行時もGTX 550TiやHD 6850と同等か遜色のないスコアを示した。アプリケーション実行時におけるGTX 560との差は最大で37Wに達しているから,GTX 560 SE(あるいはZOTAC GTX 560 SE)では消費電力の低減が図られているというのは断言してよさそうだ。
ではなぜここまで消費電力が低いのか。大きな要因の1つとして考えられそうなのがGPUコア電圧で,調べてみるとGTX 560 SEは0.875〜0.912Vで変化していた。GTX 560だと0.95〜1.00Vなので,その違いは明らかと述べていいだろう。これと動作クロックなどが複合的に影響していると見るのが妥当ではなかろうか。
最後にグラフ9は,3DMark 11の30分間連続実行時を「高負荷時」として,アイドル時ともども,TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.6.0)で,各GPUの温度を追ったものになる。テスト時の室温は24℃。システムをPCケースに組み込まず,いわゆるバラック状態に置いたときのスコアだ。
搭載されるGPUクーラーが異なるため,横並びの評価に適さないことは踏まえておいてほしいが,それでも,GTX 560 SE(ZOTAC GTX 560 SE)のGPU温度が低めであるとは言える。また,ファン回転数も780〜1620rpmと,GTX 560の1440〜2670rpmと比べて低く,筆者の主観であることを断ってから述べるなら,動作音は「静音性に優れるとまでは言わないが,さほど気にならないレベル」といったところ。消費電力の低さもさることながら,大型のGPUクーラーを搭載していることも,良好な温度や動作音につながっているといえそうである。
型番から想像されるとおりの性能を示すGTX 560 SE
ZOTAC製品はカードの長さが惜しまれる
スペックのよく似たGTX 555がそうだったように,GTX 560 SEも,GTX 560とGTX 550 Tiの間を埋める,極めて順当なモデルという印象である。このクラスで6ピンの補助電源コネクタを2基要求するというのは明らかなマイナスポイントだが,性能的には妥当と言うほかない。
……ただし,2012年4月時点の選択肢として魅力的かどうかは別で,GeForce 500シリーズとRadeon HD 6000シリーズ搭載カードの価格がズルズルと下がり続けているこのタイミングで「新製品」として登場する意味があったのかというと,正直,疑問も残るが。
とくにZOTACは基板長の短いGTX 560カードを投入済みなだけに,ZOTAC GTX 560 SEで空きパターンを用意するくらいなら,いっそGTX 560カードの基板を流用すればよかったのではないかと思われてならないのである。
ついでに消費電力の低さを活かして補助電源を1系統化できたりすれば,価格や取り回しやすさを重視する人達からの注目は集められたのではないかと思われる。悪くないだけに,惜しい製品だ。
ZOTAC GTX 560 SE製品情報ページ
アスクのZOTAC GTX 560 SE製品方法ページ
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