2004/09/22 20:40 |
コーエー会長襟川恵子氏は,ネットワークゲームに早くから着眼して,ノウハウを築き上げてきたという
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「こちら」のNewsで報じたように,9月13日にコーエー,ソフトバンクBB,ビー・ビー・サーブの3社が,「真・三國無双BB」(仮称)の開発および販売での業務提携をしたという発表が行われた。真・三國無双といえば,言わずもがなのコーエーの看板タイトルの一つで,高いアクション性と多数の敵をなぎ倒す爽快感などが魅力。そのPC版かつオンライン版が発表されたことで,日本のオンラインゲーム市場になんらかの波紋を生み,今までMMORPG一色となっていた市場に影響を及ぼす一作となりそうだ。 実は相当古くからオンラインゲームに手をつけているコーエーだし,オンラインゲームにはなんらかのこだわりがあるのではないだろうか。そこで発表会を終えたばかりのコーエー襟川恵子会長に,オンラインビジネスの可能性などを聞いてみた。コーエーは,いままですうタイトルのオンラインゲームをリリースしてきているが,オンラインゲーム市場どのような考えを持っているのか,最終的な目標をどこに設定しているのかなど,興味深い話を聞くことができた。
4Gamer編集部(以下,4G): 本日はお忙しい中お時間をいただき,ありがとうございます。本日の発表では「真・三國無双BB」という大きなタイトルでの発表でしたけど,オンラインビジネス全般の可能性というものはどのように考えていますか?
襟川恵子氏(以下,襟川): 日本のインフラも,いまやADSL回線,光回線も整いつつあります。料金も安くなってきているので,世界的に見ても整備されている国といえるでしょう。 今後の世界は,BB(ブロードバンド)チャネルを構築しないと,国家レベルで国民の知的水準の遅れを取ってしまうのではないでしょうか。つまりオンラインビジネスは,これから夜明けとなるといいますか,広い意味での大きなビジネスが構築,または生まれ出てくる時期になるのではないでしょうか。いままでのことは,すべて助走なのです。 とりわけアメリカ,ヨーロッパなどは,その基盤が整備されれば,いい市場ができてくると思っています。
4G: オンラインゲーム市場という意味では,良くも悪くも韓国が一歩抜きん出ていますが,そのあたりはどのような考えをお持ちですか?
襟川: 韓国市場は特別で,いままでゲーム開発をしたことないような人がワールド(オンラインゲーム開発)を作り,ユーザーサービスをしてきました。日本の場合は,ゲームメーカーがすでにあって,その土壌(技術者の経験)でオンラインゲームを作ることになります。コアなゲーマーだけでなく,誰でも気軽に参加できるのがオンラインゲームの究極の理想ですが,日本はこれからの挑戦となります。元々ゲームというものは,多かれ少なかれマニアのものですし。
4G: 日本のゲーム市場は,コンシューマの香りを色濃く残しているのが特徴ですよね。
襟川: いまのオンラインゲームは,レベルアップに時間がかかったり仲間を集めたりなどで時間がかかるものが多いですが,時間ができたときにパッと入れるような,一人でも楽しく,遊びやすいシステムになればいいと思っています。そうしていけば私の究極の目標に一歩近づくんです。
4G: 究極の目標とは?
襟川: 世界平和です。人類の歴史は殺戮の繰り返しですが,ゲーム上で相互理解や問題解決ができれば,血を見なくて済むんじゃないでしょうか。オンラインの世界なら,宗教や国境と関係なく,コミュニケーションができるのではないでしょうか。オンラインゲームは架空の世界ではありますけど,プレイしている世界はリアルですから。コミュニケーションによるボーダーレスな人類の相互理解という部分で,オンラインゲームは重要な位置付けを担っていくんじゃないかと思います。
4G: コミュニケーションが重要ということですね。例えば信長の野望Onlineは,そのあたり日本とアメリカの相互理解に向いてたりしませんか? アメリカでサービスする気配がまったくないので,ちょっと不思議だったのですが。
襟川: 信長の野望Onlineは,日本では好評をいただいていますが,日本固有の文化や民話が入っていて,アメリカ人が入りやすいシステムとは残念ながらいえません。国内市場向けに制作したタイトルですから。ゲームメーカーのコーエーとしては成功したといえますが,本当の意味では成功していないのです。 日本では知名度のある"信長の野望"というブランドを使っているわけですから,国内では絶対にプラスになるビジネスモデルを描くことはできます。でもそれでは全体の市場の一部でしかないわけで,本当は世界中の人々が遊べるゲームを作りたいのです。
4G: では,世界対応バージョンとかってどうですか。具体的に何するのかは分からないですが(笑)。
襟川: 信長の野望Onlineをベースに世界バージョンが作れたら最高ですね。アメリカ人はここが面白い,韓国人はここが面白い,というように別の楽しみ方をしても,コミュニケーションがとれなけば同じ仮想世界でゲームはできませんから,世界バージョンなら,それによって相互理解を深めることができると思いますよ。かりに対立があったとしても,あくまでも仮想世界ですから,リアルに血が流れることもありません。
※編注:「信On」は,本日中国サービスインが発表された。記事は「こちら」を参照。
9月22日に拡張パック「飛龍の章」が正式発表された,純国産MMORPG「信長の野望 Online」は,同社ならではのアイデアがふんだんに盛り込まれている(画面は信長の野望 Onlineのものです)
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4G: しかし世界でみんなが分かりやすいという意味では,確かにオンラインアクションゲームが最適ですね。
襟川: ええ,最適だと思います。ただ,残念ながらコミュニケーションに必要な共通言語となる英語の教育が日本は遅れています。現在研究が進められているビジュアルコミュニケーションなどを組み合わせて,コミュニケーションをとれる手法が必要だと思います。
4G: そうなると,開発のスパンも長くなりませんか?
襟川: そうですね。開発は大変だと思います。それはこちらの小松(編注:コーエーCEO)が担当しています。国際的な戦略も必要ですし,どこの国の人間がサポートを行っていくのかという問題もあります。今後は,いろんなジャンルを視野に入れて展開していくつもりです。
4G: コミュニケーションがうまく機能したオンラインゲームは,世界的に広がっていく可能性がありますよね。
襟川: ええ,ものすごく大きな可能性があると思います。オンラインゲームの仮想世界にかかわることによって,プレイヤーは,リアルな生活と合わせて二つの生活を持てるわけです。買い物なんかは当たり前として,意思の疎通や協力,情報共有など,あらゆることがオンラインゲーム上でできてしまうのですから。 逆に,リアルの世界でしかできないこと,例えば飲食などでは実際にモノに触れる必要がありますから,そこから新しいビジネスモデルが生まれたり,世界に役立つコンテンツが生まれる可能性もありますね。その点では,孫ちゃん(編注:孫 正義氏のこと)は天才的というか直観力がすごいというか,投資に関してもいいところを見ていると思いますよ。
4G: 正義氏もさることながら,そういえばコーエーも,オンラインゲーム歴は結構長いですよね。
襟川: ええ。最初にネットワーク対戦を意識して作ったのは,PC-9801版のゲームソフト「提督の決断U」で,このゲームにはプレイヤー同士がRS-232C経由で対戦プレイを楽しむための仕様が盛り込まれていました。発売は1994年1月ですから,10年も前(1998年の信長の野望Internetより前)のことです。そのようにさまざまな技術的な検証を続けていたのですが,インフラが構築されていなかったのでなかなかその成果を世に出すことはできませんでした。信長の野望Internetはおかげさまで利益が出たんですけど,あのころまでには関連技術もかなり蓄積されていたので,単体での開発コストはかなり抑えることができたんですよ。 この分野は技術革新が速いので,その中で,いつどこでどのようにビジネスを展開していくかがすごく難しいところですよね。
4G: そんな背景もあって,オンラインゲームの本質的な部分に詳しいのですね。失礼ながら,会長という立場でありながら結構詳しいので,ちょっとびっくりでした。
襟川: 経営責任者ですから。開発をスタートするときは,どのような面白さを実現するか自分でも考えますし,一族郎党,主人や子供にいたるまでやらせてますよ(笑)。それで必要なところ,不必要なところを切り分けていくんです。ゲームを簡単にしすぎてしまったり,いろいろな部分で問題となりそうな要素を削ったりすると,コアなゲーマーにウケが悪くなってしまう。どれが欠けても,マス(Mass)を獲得することができないんですよ。多くの方々に参加していただくためには,その仕組みを作っていかなければならないのです。 今回の提携は,新しいコンテンツのあり方の開発に結びつくのではないかと思っています。コーエーにもゲームメーカーとして世界ナンバーワンの作品を創る意気込みはありますが,現実的には,技術的な事情によって受け入れざるを得ない部分というのも生まれてきますから,インフラ部分と歩み寄ることによって知恵を出し,最先端の楽しみをご提供できると思います。
4G: そうですね。革命的なことになるといいですね。オリジナルで何か新しいことをしたいというのはありますか?
襟川: もちろん,たくさんあります。一番の問題は,ゲームシステムをどうするかという問題で,熱心なユーザー様からいただいたさまざまなアイデアのすべてをまだ実現できていません。今後は,ユーザー様とのコミュニケーションも含めて素晴らしいものを創っていきたいと思います。
4G: でもオンラインゲームのノウハウは結構蓄積されてますよね? 例えばアプサラスのロビーシステムとか,当時は結構よく出来ていたと思うんですけど。
襟川: ええ,ええ。懐かしいですね,アプサラス。アプサラスは残念ながらセールス的には成功とはいえませんでした。ただし,それによってさまざまなノウハウや技術を蓄積することができたと思っています。
4G: 無双もそうですが,大航海時代Onlineなんかはどんな感じで考えてますか?
襟川: 先ほどの話で言うならば,大航海時代 Onlineは,世界中で受け入れられるタイトルだと思っていますよ。 オンラインゲームが優れているのは,ユーザー様からいただいた要望を,開発コストと相談しながら取り入れることによって,バージョンアップして実装していける点です。すべてのお客様にご満足いただけるというのは大変難しいことですが,段階的にそれに近づけることができるのではないかと思います。
4G: でも,それがある意味悲劇を生み出しませんか。いつまでも完成しないというか,"終わり"というタイミングが見えないというか。
襟川: こちらを立てるとあちらが立たず,という迷いは常にあります。そのあたりは主観と客観のバランスで決定しますが,時として,ばっさり切らないといけないようなこともあります。そのときはまさに断腸の思いですね。
4G: あぁ,時間が……。最後に,楽しみにしている4Gamer読者に一言お願いします。
襟川氏: 4Gamerさんにはコアなプレイヤーの読者がたくさんおいでですから,そういう方達には,是非オンラインゲームを引っ張っていくプレイヤーになってほしいですね。ゲームを楽しみたくても実際にはどうすればいいのか分からない人を助けながら,オンラインゲームの素晴らしさを広げていただきたいです。そういったコミュニケーションが,世界平和に繋がっていくんです。 最後に,コーエーのゲームをプレイしてくださる皆様に心より御礼申し上げます。
4G: 本日はどうもありがとうございました。
→「真・三國無双BB」(仮称)の記事一覧は「こちら」
2005年春に正式サービスの開始が予定されている「大航海時代 Online」では,世界中の人が気軽にプレイできるような仕組みを取り入れていくという
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