“シャイニングリロードを通じて居心地のいい時間を提供したい”,「ブライトキングダム」開発元ARAGON NetworksのSoon Young Yang氏インタビュー
2月10日,ハイファイブ・エンターテインメントが運営するMMORPG「ブライトキングダム オンライン」(以下,ブラキン)のユーザーイベント,「第一回 オフラインミーティング」が行われた(関連記事)。オフラインミーティングでは,ブラキンの関係者が一般プレイヤー達と直接交流したほか,2007年いっぱいまで続くアップデート「シャイニングリロード」の全貌も,この場で初めて明らかになった。
このオフラインミーティングの終了後,ARAGON Networksで開発を統括するSoon Young Yang氏にインタビューする機会を得られたので,ここにお届けしよう。掲載が遅れてしまい,楽しみにしていた方を待たせてしまったことをお詫びしたい。シャイニングリロードのほかに,開発/ローカライズなど,あまり知られていないブラキンの側面にも触れているので,目を通してもらえれば幸いである。
■ARAGON Networksは設立後から3年間ブラキン一筋
4Gamer: オフラインミーティングではお疲れ様でした。今回のイベントは,いかがでしたか?
ARAGON Networks副社長兼Shine Online開発総括プロデューサーのSoon Young Yang氏
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Soon Young Yang氏(以下,ヤン氏): 今はイベントが無事に終わってほっとしています。もし,参加者の方から厳しい質問が来たらどうしようかと,内心ドキドキしていました(笑)。
4Gamer: みなさん楽しげで,和やかな雰囲気でしたものね。ちなみに,どんな質問が寄せられたら,困ってしまったと思いますか?
ヤン氏: 要望をいただくのは非常にありがたいのですが,その場で,いつまでに実装するのかを確約してほしい,というのは返答に困るでしょうね。あとは,ゲームシステムを根底からひっくり返すようなアイデアも,対応が難しいです。
4Gamer: そういったものも,ブラキンに愛情があるゆえの発言であるだけに,対応がなかなか難しそうですね。 それでは,早速インタビューを進めていきます。日本では“ブラキン”は知られていても,開発元であるARAGONについてはあまり知られていません。まずはARAGON Networksという会社について教えていただけますか。
ヤン氏: 韓国の大手グループSK Telecomの中に,SK Communications(SKC)というゲーム開発企業があります。そのSKCから開発者が独立して,1999年にWizard Softというソフトハウスを設立しました。これが,ARAGON Networksの前身企業となります。Wizard Soft時代にはパッケージタイトルの開発も行っていて,例えば,「アンパンマン」などの日本の人気キャラクターの版権を購入し,それを韓国で開発,販売したりしていました。 そして2004年にARAGON Networksを設立した後に「Shine Online」(ブライトキングダムの韓国版)を開発し,それから3年間はこれ一筋でやってきています。
4Gamer: 3年の間,ブラキン一筋だったのですね。最初の作品としては,中のコンテンツが充実しているのも納得です。
ヤン氏: ええ。3年前は,戦闘だけのシンプルなゲームでもプレイヤーから支持されました。しかし最近のプレイヤーは,常に新しいシステムを渇望しています。そこで,要望に応える形で次々とコンテンツを実装してきました。
■シャイニングリロードについて:“ミニハウス”などを実装
4Gamer: 続いて,オフラインイベントで発表された「シャイニングリロード」について話を聞かせてください。あの中では,「ミニハウスの内部機能」がとくに目を引きました。
ヤン氏: ミニハウスの内部システムは,最初は友達同士で遊べるプライベートスペースを提供する,というだけでした。しかし,ほかにも新たなアイデアが次から次へと出てきてしまい,トータルボリュームはかなり大きくなっています。 実は,ミニハウスの内部をプライベートエリアにすることは当初考えていなかったので,ゲームシステムのかなり奥深い部分から手を加えなければならず,結構大変な作業となってしまいました。でもプレイヤーのみなさんに喜んでもらいたくて,がんばっています。
4Gamer: そのミニハウスに関連したシステムは,今後どこまで広がっていくのでしょうか?
ヤン氏: NPCショップから購入したアイテムを,ミニハウス内に飾ることができる“ミニハウス内部装飾”以外は,まだ確定していません。ですので構想レベルの話として受け止めてほしいのですが,ミニハウスの内部にブログのようなものを設置して,掲示板やトラックバックなどでほかの人とコミュニケーションを行えると楽しいかな,と思っています。また,内部でミニゲームで遊んだりとか,金魚を育てたりとか,いくつものアイデアを練っています。
4Gamer: なるほど,日本人にもすんなり受け入れられそうな内容ですね。
ヤン氏: ミニハウスはブラキンの開発当初から,内部でも「あったらいいよね」とは話していました。そんな中,ハイファイブさんを通じて,日本のプレイヤー達の意見を聞いてみたところ,これに関する要望がとても大きいと聞き,実装を決めた次第です。
4Gamer: 日本人のプレイヤーには,“家”にちなんだシステムが好きな人が多いですからね。そのほかに,シャイニングリロードでとくにアピールしたいシステムがあれば教えてください。
ヤン氏: ロードマップでも発表しましたが,「結婚システム」と「師弟システム」は,期待してほしいです。
4Gamer: ブラキンの結婚システムは,どのようなものになりますか?
ヤン氏: 期待してほしいと言ったばかりで恐縮ですが,実は,まだ細かいところまでは決まっておらず,また現時点では言えることも限られています。
4Gamer: どういった方向になるかだけでも教えていただけませんか?
ヤン氏: そうですね,単純に,仲のいい男女のキャラクターが誓いを交わすだけでなく,結婚したキャラクター同士で特別なイベントを行えるようにします。例えば,結婚式場や専用コスチュームなどはぜひとも実装したいです。ほかには,離れた場所にいるパートナーを隣に呼び寄せるシステムを検討しています。
4Gamer: なるほど,結婚システムと聞いて想像できることは,考えているというところでしょうか。なにかしら,ブラキンならではのシステムにも期待しています。それではもう一方の,師弟システムについて聞かせてください。
ヤン氏: すみません,こちらもまだ開発作業中なので,詳細はまだ申し上げられません。師弟システムを導入する背景について説明すると,ブラキンはMMORPGである以上,プレイしていればキャラクターのレベルが上がっていきます。すると,どうしても初心者とのレベルギャップが生じてしまうわけで,これを補うのが師弟システムなんです。 例えば,師弟関係を結んだ両者が,何らかの形でメリットを得られるようにします。また,師弟同士でないと行えないシステムも取り入れたいですね。
4Gamer: 初級者と上級者を共に遊ばせるシステムの場合,どうしてもパワーレベリングの問題が出てくるかと思います。師弟同士でパーティプレイを行う際,取得経験値のロス率はどのように調整されますか?
ヤン氏: そこが実にデリケートな問題で,現在調整に難航しています。ただ,初級者と上級者が一緒に遊べるというメリットはとても大きいので,できるだけこれを生かす方向で考えています。
4Gamer: 確かに難題かと思いますが,コミュニティ面を重視したブラキンだけに,期待しています。
■韓国/日本/中国,それぞれのプレイヤーの ■好みに合わせたバージョンを作成
4Gamer: それでは次に,各国の運営状況について聞かせてください。 ブライトキングダムは,日本以外では現在どの地域でサービスを行っていますか?
ヤン氏: 海外展開は日本のほかに中国で行われており,中国では3月6日からクローズドβが開始されます。
4Gamer: そういえば,中国語版について直接話を聞くのは今回が初めてですね。中国のプレイヤーについては,どのような印象をお持ちですか?
ヤン氏: 中国のプレイヤー達は,PKやRvRといった対人戦が好きなようですね。この方面のシステムを取り入れられれば,と考えています。
4Gamer: そうですね。中国で成功するためには,対人戦は必須かもしれません。とはいえ,日本のプレイヤーに目を移すと,対人戦に消極的な人も多そうですよね。先ほどのイベントでも,ハイファイブの澤社長が対人戦について,「日本人のプレイヤーが納得のいく形で導入したい」と言っていました。この点についてはどう思いますか?
ヤン氏: 対人戦に限らず,韓国人の自分としては,日本のプレイヤーさんの考えに驚くこともしばしばあります。文化が違うのでそれはごく当たり前のことですが,それだけに日本語版の方向性については,ハイファイブさんを全面的に信頼しています。仮に日本語版に対人戦を導入するとしても,ハイファイブさんと入念に相談したうえで,お互い納得できる形で行いたいですね。
4Gamer: そのほかに,日本人のプレイヤーについては,どういった感想をお持ちですか?
ヤン氏: 非常に礼儀正しいという印象を持っています。例えば,人数が限定されたテストを行った際,ほかの国では皆が殺到して大混乱になってしまいますが,日本人のプレイヤーはちゃんと並んで待ってくれます。 また,オフラインミーティングで「必ず実装しますから待っていてください」と言ったとき,素直に受け止めてもらえたのがとても嬉しかったです。これが韓国だった場合,「じゃあいつ実装するんですか?」と問い詰められてしまいます(笑)。別タイトルでの例ですが,オフイベントのときにプレイヤーから「なんで自分のキャラクターのクラスだけが弱いんですか!?」と問い詰められたという話も聞きました。
4Gamer: 国によってユーザーの反応はさまざまなんですね……。ちなみに,韓国/日本/中国とそれぞれのバージョンを開発するさいの流れは,どのようになっていますか?
ヤン氏: 最初に元となるバージョンがあって,そこには日本語版や韓国語版,中国語版の独自システムも全部格納されています。そして,各国で用いない機能はオフにして,それぞれ展開しています。もしバグが発生しても,元となるバージョンに最初に修正を施せるので,作業効率は良いと思います。
4Gamer: 実際に,開発やローカライズの作業に携わっているスタッフは,何名くらいいるのでしょうか?
ヤン氏: 韓国語版の開発スタッフは25人,日本語版と中国語版のローカライズスタッフが2人ずついます。ローカライズスタッフの人数が少ないように思われるかもしれませんが,実際の作業は各国用の機能のオン/オフが大半なので,とくに問題はありません。
4Gamer: ローカライズスタッフが2名ずつとは意外ですね。ゲームシステム面で,各国版で違う点はありますか?
ヤン氏: 大きなところでは,キャラクターの外観は,それぞれの文化に沿う形で導入しています。それと日本の場合は,1〜2週間といった単位でこまめにアップデートを行いますが,中国ではインフラの状況などを踏まえ,3か月単位で行うようにします。 それと,ぱっと見では分かりづらいところなのですが,システム面で細かいバランスなどを変えています。
4Gamer: それは具体的にどういった箇所でしょうか?
ヤン氏: 例えば,クエストの報酬バランスが違っています。というのも,中国語版のプレイヤーの傾向として,より難しく,そしてより大きな報酬を求めるのです。例えば日本語版では「10匹倒して100ゴールド」という内容のクエストがあったとして,それが中国語版では「100匹倒して1500ゴールド」に変更,といった具合ですね。
4Gamer: なるほど。ということは,レベルアップに要する経験値量も,韓国/日本/中国とでそれぞれ違っていそうですね。
ヤン氏: はい。取得経験値については,三つあるバージョンの中で日本が最もレベルを上げやすいです。逆に中国はキツめになっていて,韓国は両バージョンの中間くらいのバランスに設定しています。
4Gamer: 確かに日本版をプレイしている限りでは,レベル上げはサクサク行える印象が強いですね。でも,レベル10台の後半から多少キツくなる印象を受けました。
ヤン氏: レベル20で転職イベントを迎えるため,レベル10台の後半は必要経験値が多少多めのバランスになっています。その代わり,転職を終えた20以降はすんなりと上がります。レベルアップ作業をいかに快適に行うか,というのは常に考えていますよ。
4Gamer: なるほど,そういう理由だったのですね。ところで,各国のバージョンでいろいろと違いがあると,開発するのほうも大変そうですね。ヤンさんは,開発作業の中で普段はどういったところで苦労をされていますか?
ヤン氏: いろいろありますが,最も大きいのはスケジュール面ですね。 ゲームを開発するだけならば,人的リソースと資金があればとりあえず可能ですが,それを商売にするためには,スケジュールを守らなければなりません。しかし,オンラインゲームは既存のシステムの上にさらに新しいシステムをどんどん積み上げていくこともあってか,当初は想定もしないバグが,必ずといっていいほど出てきます。韓,日,中のそれぞれのバージョンで,これらに対し,逐次対応しつつスケジュールを守るのが,とても難しいですね。
■ブラキンを通じて居心地のいい時間を提供したい
4Gamer: 先ほど「レベルアップをいかに快適に行うか」について常に考えていると話していましたが,これに関して何か,具体的なアップデート予定はありますか?
ヤン氏: 現在実装を予定しているものとしては,“ストーリークエスト”があります。 今のクエストは,例えば「モンスターを**匹倒せ」「アイテムを**個集めよ」「**の町へ移動せよ」といった単調なタイプが多いです。これにバックグラウンドストーリーを絡めることで,クエストを行う必然性を感じてもらえるように作りました。ストーリークエストは順番に展開していくので,ゲームの世界に没入し,より楽しくレベルアップを行えると思います。 ちなみに,現在クエストは500種以上が実装されていますが,ストーリークエストは70種類以上を予定しています。
4Gamer: 70以上というと,かなりの数になりますね,期待しています。 ところでクエストといえば,初めてブラキンをプレイしたとき,キングダムクエストによって,見知らぬ人とパーティを編成しやすいのがユニークだと感じました。このキンクエは,どういった経緯で誕生したのでしょうか?
ヤン氏: 最初に開発するときに,「物をコレクションする楽しさ」「キャラクターを成長させる楽しさ」「コミュニティに関わる楽しさ」,この三つをコンセプトにしました。キンクエは,この中のコミュニティを重視した結果生まれたシステムです。
4Gamer: なるほど,コミュニティ施策の一環なんですね。確かに奥ゆかしい日本人には向いているような気がします。 ……いまその三つのコンセプトを聞いた直後で聞きづらいのですが,本家韓国版の「Shine Online」は,残念ながら2006年12月にサービスの一時休止が発表されています。これはどこに原因があったのだと解釈されていますか? そのコンセプト自体が何か間違えていた可能性はありますか?
ヤン氏: いえ,そうではないと思っています。韓国語版のパブリッシャと当社との間で,求めているものに大きな隔たりができてしまったのが原因ではないかと考えています。その点を踏まえたうえで,現在は韓国にて再度サービスを行うための準備を行っています。
4Gamer: おお,そうなんですか。新サービスに向けての準備は,どういった進捗状況ですか?
ヤン氏: まだ詳細は決まっていないのですが,自社による運営あるいはパブリッシャへ委託,そのどちらも可能性はあると思います。
4Gamer: なるほど,ではそちらの展開もがんばってください。 それでは最後の質問です。今後,ブライトキングダムをどのようなタイトルに育てていきたいですか?
ヤン氏: プレイヤーにとって,居心地のいい時間を提供できるようにしたいです。例えば,ゲームにログインして,のんびり街にたたずんでいても楽しめるような。それと,誰でも気楽に参加できるコンテンツを積極的に取り入れていきたいですね。
4Gamer: それがブラキンらしさ,ということなんでしょうね。本日はありがとうございました。
第一回オフラインミーティングで明らかになった「シャイニングリロード」は,2007年内まで続く大規模のアップデート群である。「コミュニティの強化」「既存システムの強化」「新システムの追加」の3方向からのアプローチによるアップデートの数々を見て,ブラキンの明るい未来を感じ取った人も多いのではないだろうか。 しかし,今回のインタビューでは残念ながらシャイニングリロードの詳細までは聞くことができなかった。シャイニングリロード全体にあれだけのボリュームがあるため,現時点で細かい部分が決まっていないのは仕方がないことかもしれない。シャイニングリロードの詳細については,今後次第に明らかになってくるだろう。 ともあれ,これだけのアップデート予定を一度に発表するときに,ARAGON Networksおよびハイファイブは,(導入スケジュール面も含めて)かなりの覚悟があったと思われる。その覚悟が結果へと結びつくことを,これから大いに期待していきたい。(川崎政一郎)
(※2007年2月10日収録)
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