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任天堂・岩田氏をゲストに送る「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」最終回――経営とは「コトとヒト」の両方について考える「最適化ゲーム」
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印刷2014/12/27 00:05

インタビュー

任天堂・岩田氏をゲストに送る「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」最終回――経営とは「コトとヒト」の両方について考える「最適化ゲーム」

自分の好きなことが得意なことってわけじゃない


4Gamer:
 要するに,岩田さんから見て「成長する人」というのは,どんなことにも興味を持って前向きに取り組む人……という意味でいいんですか?

画像集#019のサムネイル/任天堂・岩田氏をゲストに送る「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」最終回――経営とは「コトとヒト」の両方について考える「最適化ゲーム」
岩田氏:
 そうですね。もちろん,「こう教育すれば育ちます」みたいな方程式はないんですけどね。その人が自発的に興味を持って考え続けること,そして,興味を持つ範囲を自分の役割に縛られすぎないことはとても大事なんじゃないでしょうか。
 結局,アウトプットされるものって,その人が日頃から考えているものの総量に左右されるわけですから。ある人が私に何かを話しているときに,それが100時間考えた結果を5分で伝えようとしているのか,ついさっき15分くらいで考えたことを5分で話すのかで,当たり前ですけど,密度がまるで違うんですよね。そして,その人の「考える量」というのは,会社には左右できない部分なんですよ。

4Gamer:
 ちょっとした日常の中でも,何かがヒントになったりすることもありますしね。

岩田氏:
 ただ,気を付けなくちゃいけないこともあって。簡単に言うと,「自己評価と他己評価の違いに気を付けた方がいい」って話なんですけれど。

4Gamer:
 というと?

岩田氏:
 要するに,「自分の好きなことと嫌いなこと――もっと言えば,自分がやりたいこととやりたくないこと――を,自分が得意なことと得意じゃないこととイコールだ」と思い込んでる人が多いです。本当は,それってかなりズレてるのに。

川上氏:
 ああ,ズレてますよね。

岩田氏:
 好きじゃないけど得意なこともありますし,好きだけど,実はあんまり得意じゃないよっていうことも結構あって。だから,仕事というのは「得意なこと」をやった方がいいんです。好きだけど得意じゃないことに溺れると,仕事っておかしくなることが多いんです。

4Gamer:
 好きだけど得意じゃないこと,ですか。でも,自分でそれを見分けるにはどうすればいいんだろう。

岩田氏:
 自分の労力の割に周りの人がすごくありがたがってくれたり,喜んでくれたりすることってあるじゃないですか。要するにね,「それがその人の得意な仕事なんだ」って話で。逆に,自分的にはすごい努力して,達成感もたっぷりあるのに,周りからは「はあ?」みたいに思われることもあって。それはね,本人が好きだったとしても,実は不得意なことかもしれないんですよ。

4Gamer:
 なるほど。

岩田氏:
 この話はですね,私は毎年,会社説明会で学生さんにお話しているんです。よく「自分の強みを見つけろ!」みたいな話を学校で言われると思うんですけど,普通は,学生時代に「何が自分の強みなのか」なんて,なかなか簡単には分かんないわけじゃないですか。

川上氏:
 そうですよね。

岩田氏:
 だから,「“労力の割に周りが認めてくれること”が,きっとあなたに向いてること。それが“自分の強み”を見つける分かりやすい方法だよ!」って,いつも学生さんに喋ってるんですね。「さっさと得意なことが分かった方が,人生はいいぞ!」って話なんですが(笑)

川上氏:
 では,岩田さんはご自身について,エンジニアリングよりもマネージメントが「得意なこと」だったって判断をされたってことなんですか?

岩田氏:
 んん……ただ,それもたまたまその役割を求められたからやってみただけで,求められなかったら,そもそもそういう機会を得られてないはずなんですよね。だから,当時の状況が私にマネージメントの仕事を求めて,実際にやってみたら,面白くなったし,事実少しは役に立ったようにも思います。……ということで,その能力が鍛えられたわけです。成り行きといいますか,偶然といいますか。気がついたら,「あ,こういうの得意なのかも……」みたいな感じでした。

川上氏:
 ふむふむ。

岩田氏:
 それに,HAL研究所って,経営危機を体験していて,そのときに私は社長に就任するんですけど,その時の経験って,ある意味で究極体験なんですよ。借金をしている会社の社長って,「お金も,人も,時間も足りない」という,有限のリソースの中でやりくりしなくちゃいけなくて。そうなると,イヤでも「最適化ゲーム」を考えるわけですよ。

川上氏:
 はい。

岩田氏:
 でもそれって,やってみると,「プログラムをどう変えたらコードが一番短くてコンパクトで速くなるか」みたいなことと実はすごく似ていて。頭の中で動いている思考パターンがほとんど同じだったんです。だから,むしろ後になって「ああ,これが経営なのか」みたいなのが分かってきて。

川上氏:
 いや,でも,あれですよね。経営がなぜ難しいのかっていったら,全体をちゃんと見渡せて,しかも権力を行使できる立場に立っている人というのが,実はものすごく少ないからだと思うんです。見渡せないと,本当は全体の設計ってできないはずなんだけど,全体を見下ろせる位置で経営するってポジションに立つこと自体が,あまりない境遇じゃないですか。

岩田氏:
 そうですね。組織って,どうしてもいろいろな箇所がブラックボックスになってしまいますから。

川上氏:
 そう,分からないんです。経営が難しい理由っていうのはまさにそれで。ですけど,たぶん,きっと岩田さんがHAL研究所の社長になった頃っていうのは,普通だったら分散してたはずの権限が,危機的状況だったからこそ,岩田さんに集まっていたってことなんですよね。

岩田氏:
 はい。あの時は極限状態ですから,すべての権限が私に集中していましたね。HAL研究所にとっては,任天堂が一番大きなクライアントだったから,任天堂の方ともずいぶん相談をさせて頂きましたけど,決断そのものは,全部私がやりましたから。

川上氏:
 そこが一番大きなポイントですよね。

岩田氏:
 決める。決めた結果が返ってくる。当然,全部が全部うまくいくわけではない。けれど,うまくいかなかったことでも,自分で決めたことだから「なぜか?」というのを,他人の責任にせずに考えられるじゃないですか。そしてそれは,とても“濃密な体験”なんですよね。

川上氏:
 社長は言い訳が一切できないですからね(笑)

岩田氏:
 だって,「お前が決めたんだろ?」ってことですからね。


なぜ日本ではエンジニアの経営者が少ないのか


川上氏:
 でも,やっぱり社長って,どうでもいい会議だったり,どうでもいい説明に時間をとられる職業だなってつくづく思うんですよ。

岩田氏:
 ええ。だから川上さんは,社長をやってないんですよね?

川上氏:
 そうなんです(苦笑)。社長なんかやりたくないから,僕は頑なに社長っぽい仕事をやらないようにしているんです。その意味では,たぶん岩田さんも,社長でありながらそういう“無駄なこと”は極力やらずにいますよね?

岩田氏:
 まあ,「まったくない」と言ったら嘘になると思いますけど,なるべくそういう“無駄なこと”が少なくなるように努力しているとは思います。それに私は,社外よりも社内の会議の方が多かったりしますしね。「大きな会社の社長としては,これは結構珍しいんじゃないかな」って気がします。

画像集#020のサムネイル/任天堂・岩田氏をゲストに送る「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」最終回――経営とは「コトとヒト」の両方について考える「最適化ゲーム」
川上氏:
 なるほど。そうですよね。僕も外の人と話すのはあんまり……(笑) いちおう,僕もいろんな経営者の方とお会いはするんですけど,基本的に,あの,僕は経営者の人とはあまり仲良くなれないことの方が多くて。効率悪いんですよね(苦笑)

一同:
 (爆笑)

岩田氏:
 そんなこと言っちゃっていいんですか(笑)

川上氏:
 いやー,たぶん,きっと相手からもそう思われてるはずだから,大丈夫じゃないですか。だけど,岩田さんは,なんていうか,本当に面白い方だなと思っていて。岩田さんは,数少ない僕が“仲良くなれた経営者”の一人なんです。

4Gamer:
 面白いというのは,具体的にはどういう部分がですか?

川上氏:
 考え方とか,やり方とかが,常に僕の好奇心の対象になっているというのかな。で,実際にお話をしてもとても面白い。あと,僕は常々,理系的な経営者が日本には少ないんじゃないかなって思っていて。だから,もっとそういう理系的な経営者が日本で増えればいいのにって。そういう意味でも,岩田さんのことを尊敬しているんです。

岩田氏:
 おそらく,日本って世界的に見ても理系の経営者が少ない国だと思うんです。というか,そもそも英語では,理系と文系っていうのを指す言葉が実はないじゃないですか。

川上氏:
 そうですね。確かに。

岩田氏:
 だから,理系とか文系って言って人間を分けてること自体が,日本の特殊性でもあると思うんです。それに日本って,高度経済成長の時代に,資源が少ないなかで,サイエンスとエンジニアリングによるものづくりの工夫で豊かになったという面が大きい国なのに,「その割には,理系の人の社会的発言力が相対的に弱いよな」ってすごく思うんですよ。

川上氏:
 弱いですよね。

岩田氏:
 これは,大学にいた頃から感じていて。だから,自分の人生のライフワークの中で,「理系の人もやればこういうことができるよ」っていうのを示せたらいいなと。若い頃から,うっすらとそんなことは考えていたんです。もちろん,それをどうやってやるかなんて,若い頃は全然考えていなかったですけどね。

川上氏:
 例えば,「今の日本のITベンチャーで何が必要なのか」って言ったら,僕は“理系の経営者のロールモデル(お手本)”だと思うんですよ。ソフトバンクの孫さんとかもね,とても偉大なことをされてるとは思いますけど,やっぱり「理系の人」じゃないですよね。理系っていうか,エンジニアじゃないですよね。

岩田氏:
 エンジニアではないですね。

川上氏:
 本来ITベンチャーって,もっとエンジニアの社長がいても良いはずなんです。でも,CTO(最高技術責任者)としては存在してても,経営者としてはほとんど存在しません。もちろん,エンジニアの人が社長になるのにはいろいろな問題――コミュニケーションが下手な人が多いだとか――があるんじゃないかと思うし,実際向いてない人の方が多いなと思っているんです。とはいえ,まったくいないのっていうのが,日本の場合は欠陥だなって思っています。

岩田氏:
 川上さんは,なぜ日本ではエンジニアの経営者が少ないんだと思います?

川上氏:
 えっとですね。それはたぶん,“日本語の問題”なんじゃないかって僕は思っていて。

4Gamer:
 え,日本語の問題なんですか?

川上氏:
 うん。要するにね,理系の人の武器って,僕は“論理”だと思うんですよ。でも,日本語ってさ,論理を語るのに向いてない言語だから,理系の人が論理で勝てないんですよ(笑)

一同:
 (笑)

岩田氏:
 まあ,あれですよね。例えば,データを示しても,「そんなものは自分のしてきた経験と違う」って言われたりしますから。

川上氏:
 そうなんです。むしろ,日本の社会は論理を否定しちゃうんですよ。で,それがまかり通る社会だと思うんです。日本っていうのは。そこがね……。いや,それはそれで気持ちいいところもあるんですけど。でも,やっぱりこれって問題あるんじゃないかなって気はするんですよね。

画像集#005のサムネイル/任天堂・岩田氏をゲストに送る「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」最終回――経営とは「コトとヒト」の両方について考える「最適化ゲーム」


自分の生き甲斐と趣味は「問題解決」


岩田氏:
 会社を経営をしてると,「コト」と「ヒト」の両方を考えないといけないな,とよく思うんです。まあ,物事っていうのはロジックで判断できるし,どちらが優れているかは,数字で示せたりするじゃないですか。
 実際,モノをエンジニアリングで作ること自体がロジックの積み重ねで,そのロジックの積み重ねに矛盾がないとき,初めてモノって完成するわけです。そのへんのロジックは,あくまで「コト」だし,その部分について突き詰めることが得意な人が,理系――すなわちエンジニアなわけじゃないですか。

川上氏:
 そうですね。

岩田氏:
 だけど,現実に社会を動かしているのは「ヒト」なんですね。そして,人っていうのはビックリするくらい矛盾に満ちている。感情っていう,ロジックではものすごく表現しにくいものを持っているんです。「それが正しいのは分かるけど,俺はやりたくない!」とかね(笑)

一同:
 (笑)

岩田氏:
 それで,これは私の仮説なんですけど,「コト」について考えることと,「ヒト」について考えること,その両方ができる人,あるいはその両方に秀でている人の絶対数というのは,世の中的にめちゃくちゃ少ないんじゃないかと思うんですよ。
 私は,元々ロジック側――要するに「コト」について考えるのが得意な人間だったから,普通に生きていれば理系オタクとしての人生を歩んだはずなんです。だけど,たまたま“そうも言ってられない境遇”に陥って,「ヒト」の問題について向き合わざるを得なくなったんですね。

川上氏:
 それは,社長をやる前からなんですか?

岩田氏:
 チームで何かを作れば,必然的に必要になりますよね。だって,物作る人って大体みんなわがままですから(笑)。でも,そのわがままさが物作りのエネルギーだったりもするわけで。モノを作る人が全員聖人君子で,ロジックをちゃんと説明したら「分かりました!」って言ってやってくれるわけじゃなくて。「俺はこれ好きだ」とか「嫌いだ」とか,「これがかっこいい」とかっていうね。理屈じゃなくて,感情の部分が大きかったりするんです。

川上氏:
 ほんとにそうですね。

岩田氏:
 それに,例えば「あの人の言うことを聞いてみよう」とか,「この人の言うことなら,とりあえず自分の意見と違っても作ってみよう」とかっていうのもあるじゃないですか。だから,仕事を本気でやってくれるかどうかって,結局は「ヒト」と「ヒト」の問題なんですね。そしてそれは,「相性」と言われるものであったり,その人を尊敬できるかどうか,とかでも変わったりするわけです。
 だからゲーム開発っていうのは,1人で作る黎明期時代から,チームで作るようになっていく過程で,だんだんと “ヒトの問題”が大きくなっていったんですよね。

川上氏:
 はい。

岩田氏:
 私は,なんというのか。根っこで,自分の生き甲斐と趣味は「問題解決」だと思っていて。「目の前に問題があると放っておきたくないタイプなんです。

川上氏:
 なるほど。要するに,プログラミングみたいなものだってことですよね。「目の前に問題があると,解かずにはいられない」みたいな(笑)

岩田氏:
 そうなんですよ! 「自分がどう行動したら,この問題は改善するんだろう,解決するんだろう」っていうことを考えるのが好きだし,解けるととてもスッキリするんです。だから,誰も褒めてくれなくても,自分は1人で幸せになっていくんですよ。都合のいいことに(笑)

一同:
 (笑)

岩田氏:
 その揉め事をたくさん解決しているうちに,「ああ,ヒトっていうのはロジックじゃないな」とか,「こんなことで人のやる気はこんなに左右されるんだ」とか,いろいろ学ぶことができたんですね。一方で,他人にやる気を左右されるって癪(しゃく)だから,「他の人にやる気を左右されない人間になりたいな」とか,いろんなことを考えるようになって。

4Gamer:
 ふうむ。

岩田氏:
 そうやって「ヒトのことを考える」思考が鍛えられていった結果,元々の私は「コトを考える人」だったのに,「コト」と「ヒト」の両方を考えられる人間に変わっていったような気がしますね。

画像集#009のサムネイル/任天堂・岩田氏をゲストに送る「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」最終回――経営とは「コトとヒト」の両方について考える「最適化ゲーム」

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