インタビュー
任天堂・岩田氏をゲストに送る「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」最終回――経営とは「コトとヒト」の両方について考える「最適化ゲーム」
「そういうものか」と受け入れる
川上氏:
でも「問題解決」って意味で考えると,「ヒト」の問題もある程度はロジックになりませんか?
岩田氏:
ああ,そうそう。実はそうなんですよ。
4Gamer:
そうなんですか?
ロジックの構成要素に,感情的なモノも含めて考えちゃうというか。要するに「彼と彼とはうまくいってないから,言うことを聞く気がないんだな」っていう部分を,論理記号に置き換えたうえで最適化ゲーム(経営)をするわけですよね。まぁ,「なぜ,そんなに仲が悪いんだろう?」ってところに疑問さえ持たなければって話なんですけど(笑)
岩田氏:
はい。ロジックというか,人間関係の力学,というか。世の中の人間関係って,実はかなりロジックで説明できるんです。
川上氏:
できますよね。
岩田氏:
まぁただ,やっぱり人って矛盾しているので,常に一貫しているのかっていうと,そうでもないんですけどね。新しい人が入るだけで,まったく違う行動をとったりもしますから。
それこそ,社長になりたての頃とかは,「なんでみんなロジックで説明できないことをやるんだろう? どう考えてもおかしいよ!」と疑問だらけだったんですね。ただ,いくらおかしいと思っても,他人の脳みそには手を突っ込めないので,一度,「そういうものか」と受け入れる必要があって。
川上氏:
自分から見て,ロジカルじゃない行動をする人たちって,ほんといっぱいいますよね。
岩田氏:
ええ。それに組織って,例えば,AさんとBさんとCさんがいて。それぞれがバラバラに仕事をしてたら能力は100ですって状況があったとき,AさんとBさんに「一緒にやってほしい」って言った瞬間に能力が30になったり,逆にAさんとCさんが組み合わさった途端に,能力が150になったりするわけじゃないですか。
川上氏:
そうですね,はい。
岩田氏:
その,150になる組み合わせを見つけるのがマネージメントの仕事でもあって。それがうまく出来ると,問題は綺麗に解決するし,その会社やチーム自体もレベルアップする。それがね,私は面白くてしかたなかったんです。
4Gamer:
面倒くさい,みたいな気持ちはなかったんですか?
岩田氏:
もちろん,最初は面倒くさいと思いましたよ。だって,自分では理解できないこと(=ロジカルじゃないこと)が目の前で起こっているわけですからね(苦笑)。でも,「この人とこの人が組み合わさるとこんなに力が出て,こんなに活き活きして,みんな幸せそうにするよね」っていうことが起きるのがわかって,だんだん楽しくなってきたんですよ。
川上氏:
組織論つながりでお話をすると,スタジオジブリが刊行している「熱風」っていう小冊子で,アルパートさんっていうユダヤ人の方が書いた,日本のサラリーマンについての連載があるんですよ。アルパートさんって超ロジカルな人だから,「日本のサラリーマン」が理解できない。その不可解さに何十年も苦しめられていて,それを記事として書いているんですね。
岩田氏:
あはは。「日本のサラリーマン」がまったく分からないわけですね(笑)
川上氏:
はい。ずっと分からなかったんですけど,何十年か考えた結果として,彼は理解するんです。日本のサラリーマンの行動の力学的な構造を。
岩田氏:
あ,構造は理解したんですか。
川上氏:
ユダヤ人として,ロジックとして理解して。で,結論としては「彼らの行動は合理的である」というものなんですけど。
感情をある種の記号に置き換えて考えると,実は合理的であったと。いや,そのお話はよくわかります。
例えば,西洋の組織ではボスが部下に対する生殺与奪の権限を持っているわけだから,決裁ルートが絶対じゃないですか。ボスが「お前はクビだ」って言っただけでクビにできちゃうことがちっとも珍しくないのが西洋の組織構造で。その点,日本の組織だと,昔世話になっただとか,この人のことを尊敬してるとかっていう人が,通常の決裁ルートからは外れているんだけど,組織の中で協力したり,いろんなことを手伝ったりしますよね。そして,それがいい方向に働くと,とても素晴らしい成果が出たりする。
川上氏:
そうなんです。「日本の組織もあれはあれで,(日本人の特性や感情を含めて考えれば)極めて合理的なんだ」って話なんです。だから,どんな人間の行動っていうのも,結局はそれなりの理屈っていうのを受け入れれば理解できるものになるんだという。
岩田氏:
ただ,どうしてもね。1つのハードルになるのが,他人の考え方とか優先度とか価値観とか,見えているものとかは,やっぱり自分と違うじゃないですか。
川上氏:
はい。
岩田氏:
その自分と違うっていうものが,最初はどうしたって「気持ち悪い」んですよ。だって,自分が考え抜いた結果,「これが一番いい」と思っているのが自分の価値観なわけですから,違うことって違和感があって当然なんです。
川上氏:
そうですね。
岩田氏:
だけど,「違うもんなんだ」って,いったん受け入れてしまうと,じゃあその違うって前提で,自分は何ができて,どうするのか?を考えることができる。さっきのマネージメントの話でいえば,“問題の見え方”が変わるんです。「解けない問題が,解ける問題に変わる」っていうのかな。
4Gamer:
感情的な対立とかも,それを受け入れたうえで見つめ直すとよいという意味ですか?
岩田氏:
はい。会社を経営するようになってから,それがだんだん分かってきて。いったんいろいろなものを受け入れたうえで,目の前の問題解決に乗り出していったら,「ああ,自分は案外こういうことが得意なんだな」って思えてきたんです。たった一人でプログラムして,モノを作っていた私がですよ。やってみて初めて気が付いたんです。
だから,もし私にそういうもの(マネージメント業務)が求められる機会がなかったとしたら,やっぱり今も,私はオタクのプログラマーをやっていたと思います。
Web的エンジニアリングと,ゲーム的エンジニアリング
川上氏:
ちょっと話は変わるんですけど,例えばWeb系のエンジニアって,とにかく汎用的な開発をしようとするんですね。でも,ゲーム系のエンジニアって,基本的にはとても実際的というか,現実的な設計をしてきます。
岩田氏:
そうですね。ゲームのエンジニアで優秀な人は,現実と地続きというか,実際的じゃないと嫌がりますよね。
川上氏:
例えばWii Uでも,ちょうどいい例があるんですけど,えーと,僕はゲーム機を買うと,基本的に一年間くらいは出たタイトルを全部買うんですね。で,最近はダウンロード販売が増えてきたので,そちらで買うようになったんですけど,Wii Uでも,バーチャルコンソールのタイトルを含めて,出てるものは全部買っていたんですよ。
岩田氏:
ありがとうございます。
川上氏:
そしたらですね。Wii Uってゲームやアプリを登録するスロットが1画面15個あるじゃないですか。それが24画面分あって。つまり,15×24=360個まで登録できますよね。
岩田氏:
はい。そうですね。
で,ゲームを買いまくっていたら,買えることは買えるんですけれども, Wii Uを起動したあとのメニューの表示の前に,ゲームの数が多すぎるので全部を表示できません、というような警告表示が出るようになったんです。新しく買ったゲームがメニューに表示されなくなる。で,困っていたんですけど,先日のバージョンアップで「フォルダ機能」が追加されたじゃないですか。僕は,「これで,またゲームが買える」と思って,フォルダ機能を使ってこれまで買ったゲームのアイコンを整理して,いざゲームを購入しようと思ったんですけど,やっぱり「これ以上は表示されません」と出てしまう。
岩田氏:
ああ,なるほど。
川上氏:
そもそもメニュー上に登録できるゲームの数自体が最大360個で固定されているわけです。それ以上のゲームを買う人を想定していない。いや,想定はしていたのかもしれないけど,そこは割り切って設計しているんですね。これ,僕は「実にゲームのエンジニアらしい実装だな」と思ったんです。
岩田氏:
確かにそれは,ゲーム系のエンジニアの特徴かもしれないですね。ただ,伝え方がとても難しいんですけど,それはお客さんに「体験を保証する」ためでもあって。
4Gamer:
「体験を保証する」とはどういう意味でしょう。
岩田氏:
ゲーム機って,お客さんの手に渡る時点ではメモリの容量も搭載するCPUも決まっていて,それ以上のことはやれないんですよね。だから,その仕様の中で「こう作れば,こういう体験をしてもらえる」って保証できるモノをきちんと作ろうとしているんです。
Web系のエンジニアなら,とりあえず,ここはいくらでも増えるように設計して,メモリが足りなくなったらスワップさせる,しかも,それをOSがやってくれるようにぶん投げる――みたいな作り方をするわけですよ(笑)
岩田氏:
あとは,Webサービスの場合は,サーバー側にリソースがあるから,サーバーサイドで処理できる部分は,あとから拡張することもできる。有限なリソースが前提のゲーム専用機とは,やっぱり設計の考え方が違ってきますよね。
川上氏:
もちろん,お客さんに「良い体験」を届けるって考えると,割り切って考えた方が良い箇所って,いっぱいあると思うんです。無限に増やせるようにした結果,動作が重くなったり,正常に動作しなかったりっていうのは本末転倒ですからね。ただ,それはゲーム開発の欠点でもあると思うんですね。
岩田氏:
はい。
川上氏:
このあたりの問題って,ドワンゴで作ってるニコニコとかも似たようなところがあって。例えば,ニコニコ生放送とかって,「座席」って概念があるんですけど,視聴者数とかを制限しているんですね。普通のWebサービスなら,例えばYouTubeとかUstreamとかなら,いくらでも視聴が増やせるような設計にしているわけです。
岩田氏:
なるほど。つまりニコニコも,何かを割り切ることによって,お客さんに対して何かしらの体験を保証しているってことなんですね。
川上氏:
そうです。Webで見られるユーザー生放送が通常500人っていう制限は, 自分の会社のサービスながらひどい実装をしているなとは思うんですけど,一方で割り切ることによって,いろいろな課題や問題が簡単になったのは確かですから。
岩田氏:
「500人は少ないだろう」って,人は言うかもしれないけど,そうすることで単純化できてることはいっぱいあったり,保証できてることがあったりするんですよね。
川上氏:
はい。だから,そのあたりは僕自身も「これはすごくゲーム機的な実装だな」と思って,ニコ生の設計方針を受け入れたんですよ。
岩田氏:
だからこそ川上さんは,ゲームとWeb,両方の特徴が感じられる経営者なんですかね。
Webサービスをハードウェアから設計したい
川上氏:
あと,「ゲーム機的」という意味で言うと,最近はWebサービスでも,そういうゲーム機的な問題が,とくにサーバーサイドで起こるようになってきたとも思っているんです。
岩田氏:
へえ?
川上氏:
というのも,サーバーって要するにスケールさせなきゃいけない(需要に応じて、サーバーの処理能力を高めなければならない)んですけど,大量のアクセスが来ると,悠長に抽象化とかやってられない,みたいな局面が結構出てきているんです。例えば,データベースにしても,昔はRDB(リレーショナルデータベース)が入っていたんだけども,大量のアクセスをさばく必要があるようなときは,もっとフラットなデータベースじゃなきゃだめだというようになってきているじゃないですか。
岩田氏:
単純にサーバーを並列に並べることでスケーラブルにできることと,スケーラブルにするのがものすごく難しくて,力技で解決する以外になかなか方法がないものに分かれてきますよね。
川上氏:
はい。あの,僕は「アプリケーションの可能性って,やっぱりハードで制限される」と思っていて。その意味でも,「ハードってとても大事だな」って思うんですよ。だから,本当はWebサービスとかも,ハードウェアから考えていくようなものがもっとたくさんあってよいと思うんです。
岩田氏:
そうですね。確かに。
川上氏:
例えば,「GPUをサーバーサイドでこう使ったら面白いんじゃないか」だとか,「あんなことができるんじゃないか」みたいなことは,僕は,ずっとニコ動が始まるときぐらいから考えていて。で,「そういうサービスをやろう!」って社内でたまに言うんですけど,みんなやりたがらないんですよね(苦笑)
岩田氏:
それは,どうしてなんですかね?
川上氏:
うーん。たぶんですけど,OSを書き換えるとか,ハードを作るとかっていうのは,自分達の「範囲外」だと思っているんですよ。
岩田氏:
ああ,守備範囲ではないということですか。
川上氏:
そうです。だけど最近は,データベースの技術やサーバーの技術が,だんだんといい感じに汚くなってきたというか。要するに,きれい事をいってられなくなってきたわけですよね。だから,早晩にWeb業界もハードウェアの問題に直面すると,僕は思っているんですけど。
岩田氏:
まあ,綺麗事ばかりだと,無限の電力と無限の設備が必要になりますから。クラウドサービスみたいなものが流行ってくると,ますますこのあたりは問題になってきますよね。だから,「無駄をなくして効率化したら消費電力は半分で済むぞ」みたいな話が,前よりも重要視されるようになってきた流れはあると思いますよ。
川上氏:
そうですね。Googleとかも,電気代を減らすことに対して,KPIを立てて最適化したりしていますから,この辺の話もいずれ説得力を持ってくるのだと思います。基本的にはインターネットの世界って,ハードウェアはできる限り抽象化して、ハードウェアさえ進化すれば、「無限にユーザーを増やせるはず!」みたいな世界観ですから。
岩田氏:
ははは。
川上氏:
だから最近,僕らもサーバーを一から作ってみようと思って,ハードウェアのエンジニアを募集してるんですよ。FPGA(※)を書ける人っていうのを募集して。ハードから作ろうぜっていう。
※Field Programmable Gate Array の略。後で内容の書き換えが可能な(プログラミングすることができる)集積回路のこと。
岩田氏:
おお,ハードから作る!
川上氏:
というか,データセンターから作ろうと思ってるんですけどね。
岩田氏:
日本では,そういうアプローチはほとんど見ないんですよね。
川上氏:
ないですね。Web系はとくに,全然なかったんですよ。まぁ,データセンターとかの会社も,元がソフトウェア系じゃないようなところが多かったりしますから,そういうもんだと言われれば確かにそうなんですけど。例えば,今クラウドをやってる人たちなんか,「倉庫が余ってるから」とか「地方で余っている土地の有効活用」とか,そういうところから出発してきてますからね。
岩田氏:
そうですね。
川上氏:
僕としては,そこをあえてWebサービスの側からやってみたいんです。ハードから作ることによって,できる範囲が増える,限界を広げるっていうのをやりたいなと思っていて。
岩田氏:
興味深いですね。ゲームもね。今あるプラットフォームで,お客さんに驚いてもらうネタがだんだん出せなくなってきたら,「じゃあ,そろそろ新しいハードが必要な時期だ!」と考えて出すんですけども,なんだか,それとちょっと似てますね。
川上氏:
Webサービスの会社も,そういうことをやるべきだと思うんですよね。
結局,行き詰まらなかったら,ソフトだけやってた方が効率よかったりするんですよ。だって,すでに多くの台数が普及してるし,ハードを売るための努力をしなくていいし,お客さんもみんなご存知で説明が簡単にすみますから。だけど現実には,それでは必ずお客さんは飽きてしまうし,限界に突き当たるんです。だからこそ,僕らはときどきそういうこと(ゲーム機を作る)をするんですね。そして,Webの世界にも,そういう時代が来たってことなんですね。
川上氏:
そうそうそう。ついに来たんですよ!
一同:
(笑)
うちはケンカしたら弱いんや
岩田氏:
しかし,あれですよね。川上さんって, “よそが真似できないことをしよう”っていうのを常に考えようとしていますよね。
川上氏:
あ,僕は競争は嫌いなんです。だって,競争すると負けるから(笑)
岩田氏:
あはは。同じようなことを,山内さん(※)も言っていたんですよ。
※山内 溥(やまうちひろし):先代の任天堂取締役社長。社長就任期間中に,任天堂を世界的な企業まで押し上げた。岩田氏の経営者としての才覚を見いだし,その才能を開花させた人物でもある。
4Gamer:
そうなんですか?
岩田氏:
「うちはケンカしたら弱いんや」って。
一同:
(笑)
岩田氏:
あの強そうな人がですよ! 眼光鋭く,「うちはケンカしたら弱いんや」って言うんです。それはね,力の勝負をするなってことなんです。「力の勝負は愚かだ」と。「ビジネスの世界は,人と競争したらあかんのや」と。「人と競争しないところで,独自の価値のあるものを作りなさい」っていうことを伝えるために,それを面白く,山内さん流に表現したのが,「うちはケンカしたら弱いんや」ってことになるんだと思いますが。
川上氏:
なるほど。でも確かに,僕はほとんど同じセリフを言ってますね。「ケンカは弱い」って,よく社内で言ってるんですよ。力の勝負って,ビジネスで言うと,例えば営業勝負みたいなね。そういう戦いだと思うんですけど,ドワンゴは,そのへんホントに弱いんです(苦笑)
岩田氏:
それにね。「みんなが同じことを言ってるとき」って,私は危険だと思うんですよ。
川上氏:
はい。
岩田氏:
みんなが一斉にワーってある方向に向いているとき,その先ってどうなるんだろうってよく思うんです。まぁ,単に私がへそ曲がりなだけかもしれませんけどね。
川上氏:
そういえば,よく「任天堂はスマートフォンにゲームを出すべきだ」みたいな話ってありますよね。僕的には「そんなのあり得ない!」と思っているんですけど,実際のところ,岩田さんはどうお考えなんですか?
岩田氏:
そうですねぇ。確かどこかのインタビューで川上さんが発言されていたと思うんですけど,川上さんは「スマートデバイスのプラットフォームの会社にはコンテンツの価値を高くする動機がない」ということをおっしゃっていたじゃないですか。「彼らにとって,コンテンツはあくまで客寄せなんだ」と。
川上氏:
はい。だって,実際そうだと思うんですよ。
岩田氏:
そのお話でいうとですね。私たちは,逆に「コンテンツを売りたいからプラットフォームを作ってる」んですよ。考え方がまったく違うんです。だから,そんな私たちからすると,世の中でコンテンツの価値がなくなる,低くなるというのが最悪の未来なわけです。
川上氏:
そうですよね。
岩田氏:
コンテンツの価値を守る動機があまりないプラットフォームに行って,そこでコンテンツの価値を保つのって,それはそれでものすごく大変な勝負だと思うんです。実際,音楽産業も映画産業も,自分達のコンテンツの価値を守るっていうことが,私見ですけれど,あまりうまくいっているようには見えなくて。
川上氏:
はい。
でも,私はゲームの価値を守りたい。例えば,もっと安くしたらもっと売れるかもしれません。けれど,むやみに一回だけ遊んで二度と起動しないっていう人がたくさん出てくるよりは,「あれは本当に遊んだよなぁ」とか「今遊んでも面白いな」って言ってもらえることの方が,ずっと大切なんじゃないかって。そういうことを含めて,ゲームの価値をどうやったら維持できるのかってことを考えています。まぁ,それがね。私たちがやり方を変えていない大きな理由なんですけど。
川上氏:
僕は,コンテンツって「出し惜しみ」のビジネスだと思うんですよね。
4Gamer:
出し惜しみ?
川上氏:
うん。だって,そもそもコンテンツって生活必需品とかではないし,どちらかというと,無料でいいものをいろいろな工夫でお客さんにお金を払ってもらっているのが,コンテンツ産業というものだと思うんです。
だから,ネット時代になって「コンテンツはフリーになるべき」みたいなことを言う人がいるんだけど,それは間違っていて。どう工夫をすれば,コンテンツにお金を払ってもらえるのかを考える視点の方が正しいと思うんですよね。
4Gamer:
その視点がないと,結局は広告モデルばっかりになってしまいますしね。それはそれで,みんなが望む世界なの?という。
川上氏:
その意味で言うと,ネット系の企業とはまったく考え方が違っていて,なおかつ(任天堂が)正しいなと思っているのが,バーチャルコンソールとかのレトロゲームの売り方なんです。ああいうのって,ネット系の会社がやろうとすると,最初から全ラインナップを揃えたりするんですよ。
岩田氏:
そうですね。それで「月額いくら」みたいな。
川上氏:
はい。「全部あります!」みたいなことをサービスのウリにするんですけど,バーチャルコンソールとかって,タイトルを小出しにする売り方をしますよね。あの辺の感覚って,ネット企業には絶対ないものだと思うんです。
4Gamer:
そう言われてみると,確かに。
岩田氏:
「明確に意図してやってきた」とカッコよく言えるわけではないのですが,僕らはコンテンツってものを「消耗させたくない」という意識を持っているんですよね。後から考えてみると,考えが足りなかったということもあったのは事実ですが,「コンテンツが消耗していくっていうのはどういうことなのだろうか?」という部分を,常に意識しているんです。
川上氏:
なるほど。
岩田氏:
あと,川上さんが言われていたことで,「電子書籍とかも,どんどんアップデートされて,第10版,第11版,第12版とかいっていつまでも完成しなかったら,コピーに対して対抗できる」というお話があったじゃないですか。あれ,私は「面白いなぁ!」と思いながら記事とかを読んでいたんですけど,これからコンテンツの価値を守っていくには,ああいう視点も大事なんでしょうね。
川上氏:
いや,本当にそうだと思うんですよね。
4Gamer:
オンラインゲームなんかは,それを体現してますよね。
岩田氏:
完成したって思われると,そこで終わっちゃうということですね。
川上氏:
今のパッケージビジネスの問題点,コピーされてしまう弱点ってまさにそこなんですよ。だから,ゲームとかも,「ネット時代では,どんどん更新されていくんだ」って概念が浸透していった方がいい。
ゲーム開発の話でいうと,悪癖というか,克服しなきゃいけないものとして,僕は「マスターアップ」って概念があると思っていて。ゲーム業界って,マスターアップするって感覚が割と染みついているから,そこは変えていった方がいいんじゃないかって気はするんですよね。
岩田氏:
まぁただ,「お客さまは完成されたプロダクトを手にできるから,これだけのお金を払ってくださるって部分はありますから,そこに対しては,簡単に旗を降ろせないな」と思っています。「未完成品を売るのか!」って話になっちゃいますから。
まぁでも,コピー問題への指摘も含めて,川上さんが言ってることはものすごくポイントを突いていて面白い。だから,よく社内でも話題にしているんですよ。
4Gamer:
へえ,そうなんですか。
岩田氏:
ずっと私が考えていたようなことを,川上さんがすごいクリアな形でお話されているので。「私の言うことが分からなければ,川上さんのこの記事を読め!」とかって,私はよく社内で言っているんですよ。
川上氏:
ありがとうございます。というか,勝手に「任天堂方式」みたいなことをよくしゃべっちゃってる気がするので,申し訳ないです(苦笑)
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